Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (459)
449話 自白
意外だな。
そう思ってしまうほど皆の軽い反応に戸惑いながら、リルとの模擬戦で使用した魔物専用スキルを発動していく。
――【氷結息】――
「「「おぉ~!」」」
女神様からもスキルを得られる――、この事実を重く受け止めていたのはどうやら俺だけ。
一番危なっかしいリアも、今は普段見られないほど子供っぽい表情をしており、宙に煌めく氷の結晶に自前の火炎息を吹きかけていた。
様子がおかしいのは隅で肩を落とし、それでもこちらの様子を食い入るように見つめているリルくらいのものだ。
――【陽炎】――
「「「おおー!」」」
別にスキルを完全に失ったわけじゃないんだけどね。
《デボアの大穴》で蟻を大量に倒し、警護と言いながら上台地でも周辺のAランク魔物を倒し、今現在もユニコーン肉の調達という名目で日々魔物討伐に励んでいるのだ。
俺の予想していた通り、リルはそれなりのスキルポイントを所持していたようで、祈祷でスキルを授けるのと同じようにアリシアが試したら、あっさり【手加減】のスキルレベルが9までは上昇したらしい。
さすがにスキルレベル10は無理だったみたいだけど、ここまで戻れば支障はないだろうし、未来永劫を生きる神様ならあとはどうとでもなるだろう。
ではなぜ、しょげているのか。
それは今回のような『本気の模擬戦』が禁止されてしまったからだ。
当然と言えば当然の話。
今回の一件はしょうがなく起きてしまった事故だが、度々起こしていい内容ではない。
やればまた同じことが起こり得るわけだから、今後はやってもお互いが【手加減】を用いた『程よい手合わせ程度』という意見で話が纏まっていた。
それでも模擬戦を完全に禁止しなかったのは、俺が仕入れてくる魔物スキルや既存スキルの活用法に興味があるからだろう。
――【透過】――
「「「おぉーー!!」」」
この反応を見ていると、そんな気がしてしまう。
だからかな。
予想外のこの緩い雰囲気に後押しされて、伝えるなら今かなと。
そう思ってしまったんだ。
まだ不確定な部分も多いけど、確実と言い切れる部分もある。
今の段階で分かっていることを、正直に。
そんな思いから、自然と言葉が吐き出された。
「そう言えば、最初の頃に話した2つの空白スキルのこと、覚えてる?」
「ええ。詳細がいろいろと分かるステータス画面と、年齢が若返ることですよね?」
姿を現した俺に一早く気付いたアリシアが答える。
「それなんだけど、一つが若返りに関係するスキルじゃないっぽいことが最近分かってきた」
「え? じゃあ、なんだったんですか?」
「今回の件にそのまま関係すること。戦争が終わった辺りからなんかおかしいなって思って検証してたんだけど……魔物とか人からスキル経験値を得られる能力がもう1つの隠れたスキルかもしれない」
こうは伝えるも、誰も大きな反応を示すことはない。
俺が魔物からも人からも、倒せばスキル経験値を得られることなど今更な話だからな。
「でも子供に戻っちゃったんでしょ? 若返ってはいるんだよね?」
「うん。だから予想だと、若返りは年齢を戻したという事実があるだけで、スキル化されていなかったんじゃないかな」
「なんで、そう思ったんですか~?」
「この世界のスキルには、必ずレベルが存在するんだろうなってことが分かってきたから」
俺をペシペシと叩きながら、砂を生み出して強引に発動させた【砂硬燐】で遊ぶフェリンとリアも首を捻る。
「んん~?」
「それが、何か関係あるの?」
「あるよ。ステータス閲覧のスキルは、レベル上昇と判断できる追加機能が後から発動しているから、まず間違いなく隠れたスキルの一つだと思う。逆に若返りは想定していた通りの時期に身長が伸びたし、一度年齢を戻された後も俺の身体に作用し続けている感じがしないんだよね。望んだ年齢に戻れたからてっきり隠れているのは吸血人種の持つ【魔力回生】かと思ってたけど、こないだ願ってみてもまた若返るようなことはなかったし」
「なるほど。ということは、人や魔物からスキル経験値を得られる方には、何かしらスキルレベルが上がったと分かる特徴があったということですか」
アリシアのこの言葉に、俺は首を横に振る。
そこまで判別できていれば確定だし、説明も楽なんだけどね。
「まだそこまでは。だから現状は消去法でこの可能性が高いって程度かな。デバフ――効果が強い反面、大きなリスクを抱えるような特殊スキルもフェルザ様はこの世界に用意しているみたいだから」
そう伝えた時、ここでリアの動きがピタリと止まった。
「悪影響、出てるの?」
暗く、それでいて綺麗な瞳が俺を見据える。
この問いが出てくるということは、俺の記憶や思考から無理に読み取ろうとしたりはしていなかったのか。
ふぅ――……
ならば、猶更だな。
怯むなよ、俺。
自分がビビっていることくらい百も承知だが、だからと言って後に回せば回すほどこの手の内容は伝えにくくなる。
初めて魔物からスキルを得られた時と同じ、事実を伝え、可能性を伝え、その上でどうすべきか。
皆で考えていけばいい。
「こないだの戦争の時、自分勝手に奪おうとする多くの悪党を殺して、その時に欲求っていうのかな。もっともっとっていう、衝動みたいなものを強く感じた」
「ロキが、強さに拘ってるからじゃなくて?」
「その可能性もなくはない。それに平気で人に迷惑を掛けるような悪党って大嫌いだし」
「もしかして、こないだ私に【獣血】のスキルを聞いてきたのもそういうことですか~?」
「うん。そっちはスキル所持者にも話を聞けて、今はもうほぼ白かなって思ってるけど」
「んん? 結局、どういうことなの? 難しくて全然分かんないんだけど!」
能天気に首を傾げるフェリン。
少し重苦しくなってしまったからこそ、フェリンの存在が気分を少し楽にさせてくれる。
「確定ではないにしろ、隠されたうちの1つが倒した者のスキル経験値を得られる特殊スキルの可能性があり、そのスキルにリスクがありそうなことも分かってきた。そしてスキルレベルが存在するとなれば、今後リスクが増す可能性もあると、そういうことでしょう?」
「さすがリステ、その通りでございます。もっと確定してから伝えても良かったんだけど……まだ曖昧な部分も多くて、分かりにくくてごめんね。伝えるなら早い方が良いかと思って」
「その方が良いに決まっている。だから私はロキを信用しているのだ」
「うん。私も!」
「それは私も同じです。ただ、今後はどうやってその判別を?」
「準備はしてるよ。数十人程度の野盗を討伐したくらいじゃ何も変わらないけど、3000人を超えた辺りから少しずつ衝動が強くなることはこないだ確認しているし、8000人の時の衝動ははっきりと記憶している」
「8000人……想像以上に多いですねぇ~」
「もちろんそこまでの数を相手にするなんて、戦争絡みでもなければまず起きない。けど起きた時にその衝動が強くなっていれば、もしくは落ち着くまでの時間が長くなっていれば、それはスキルレベルが上がっていることに繋がるかなって」
「うん、ちゃんと備えて準備しているならそれでいい」
「そうだな。それほどの争いが起きなければ一番だが、そう都合良くいくとも思えん」
「戦争はいっぱい起きちゃってるし、ロキ君はもう守る人達もいる王様だもんね」
「今は様子を見るしかありませんか……ロキ君、進展があればまた教えてください。そこから皆でどうするかを考えましょう」
抱えていた厄介な悩み。
中途半端なタイミングではあったけど、ようやく打ち明けられたことで肩の荷がグッと軽くなった。
皆が信用してくれているし、俺も皆を信用している。
なら大丈夫だ。
絶対に道を踏み外したりなんかしない。
絶対に。
俺はそう、自分自身へ言い聞かせるように、心の中で呟いた。