Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (460)
450話 見学のつもりが
翌日。
【昼寝】による短時間睡眠で気持ち良く目覚めた俺は、秘密基地で椅子をギコギコと傾けながら、今後をどうするか思案していた。
当初の予定では50%【分体】のリルをあっさり倒し、これなら敵の強さに多少のブレ幅があろうと問題無い。
そのくらいの余裕と自信を持って裏ボスに挑む予定だったのだ。
が、結果は昨夜の通り。
予測は外れ、勝てはしたけど余力がさほどないという、そんな際どい勝利になってしまった。
たぶん【闘気術】を外せばかなり危うい。
速度負けして一方的に死ぬまでボコられるんじゃないか。
別のスキルで対処できる部分も当然あるが、昨日の結果を思い返せばそんな気さえしてしまう。
(キングアントが裏ボスの中でどの程度になるのか、そんなのスキル次第だよな……)
分体のリルと近い水準のキングアントが、表ボスとは隔絶した強さを誇る理由はもう分かっていた。
それは自己バフ――【身体強化】を敵が持っているかどうか。
他のスキルも優秀だったのは記憶しているが、何よりも大きいのはここだ。
他に【身体強化】を所持していた魔物は、雑魚、表ボス含めて今までキングアントしかいないのだから、そりゃレベル云々以上に飛びぬけて強くもなるだろう。
これが裏ボスの特徴なのかは分からない。
持っていなければ逆に楽勝の可能性も出てくるが……
死ねば終わり。
出現させて、倒せなかったとしても大問題になる可能性がある。
となると、慎重に慎重を重ねるくらいの方が丁度良い。
そんなことは分かっちゃいるが。
トントントントン……
机を弾く音だけが土臭い、だけどなぜか落ち着く洞窟の中に響き渡る。
どこで自分自身にゴーサインを出すか。
(ん~アレはどう考えても別枠な気がするけど……そろそろ復活していそうなガルグイユを倒すついでに、もう一度腐敗のドラゴンを見学してみるか?)
そう思い、俺は下台地で皆と朝食後、フレイビル北部の巨大な街、ロズベリアに飛んだ。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
たぶん、高い確率で俺は動けなくなる。
ならついでに時間を有効的に使うか。
立ち寄ったのはその程度の、ほんの気紛れだった。
「ありがとうございます。では二度目ということで、早急に荷物の準備を進めましょう。あと、こちらも――」
ハンターギルド内にあるギルマスの部屋。
目の前で揉み手していたオムリさんから笑顔が消え、スッと手で押しながら、重ねた数枚の木板を机の上で滑らせる。
「あっ……」
その内容を見て、思わず声が漏れる俺。
そういえば、自分から頼み事をしていたというのに、この件は頭からすっかり抜け落ちていた。
【暗記】のレベルがかなり高くなったことで、物覚えは間違いなく良くなったと自覚していたが、まだまだ完全にはほど遠いな。
「いろいろと調べてくれたんですね。ありがとうございます」
「それはもう、ロキ王の頼み事とあれば、使える人脈も、調査に掛かる費用も惜しみませんよ」
「は、ははっ……ちなみに、ロッジを含む反対派を追いやったのは『レサ一家』と書かれていますけど、これは何かの団体なんですか?」
「表向きは国内最大の奴隷商館を運営している、ロズベリアの裏を担う組織ですね。本人達は”必要悪”などとのたまっていますが、ここ数年でその行動もかなり過激になってきておりまして……それでも必要と感じているのは利用する一部の権力者くらいなもの。真っ当に暮らす民にとっては害悪でしかありません」
「なるほど……脅して鉱物の流通に制限を加えさせ、反対派の家や鍛冶場に火を放った……にも拘わらず、実行犯は捕まらず……」
読み上げながら木板を眺めていると、補足するようにオムリさんが口を開く。
「正確には目撃者がいたので、一度捕縛はされたものの、証拠不十分で無罪放免になった、ですね」
「……貴族も絡んでいると?」
「それはなんとも言えません。この件に限らず、罰を負うべき者が逃れることなど多々ありますから。金が動けば犯した罪も宙に浮く――、悲しいですが、そんな国なのです」
「どこも似たようなものでしょう。しかし、肝心の『依頼者』は分からずですか」
レサ一家が直接的に鍛冶師であるロッジ達を恨むとは考えにくい。
裏稼業を生業にしているのならば、必ず『邪魔だから潰せ』と依頼をした人物がいそうなものだが、これが分からずとされていた。
「末端のみならず、組織内でそれなりの立場に就く者でさえ情報を持っていないようでした。となれば本当の上層部……それこそ頂点のシャイニー・レサしか知らない可能性もあります」
「……ちなみにコレ、潰しても良いんですよね?」
言いながらもオムリさんの顔を眺める。
利用するのは一部の権力などと言っていたが、Aランク狩場を有するこれほど大規模な街のギルマスを務めているくらいなのだ。
オムリさんも相当な権力者であることは間違いないし、話を聞いていても内部から情報を探っているので、彼自身も利用する側であった可能性が高い。
「もちろんです。ロズベリアの民にとっては害にしかなりませんから」
にも拘らず、随分あっさりと潰すことに了承する。
うーん、オムリさんが押したい裏組織でも別にあるのか?
この人の場合、表情からはあまり感情が読み解けないし……
相変わらず腹が黒そうというか、やっかいなおっさんだわ。
まぁ、こちらに損なく目的が果たせればなんでもいいが。
「あぁ、ただ」
「ん?」
「ロキ王はそれこそアースガルド王国の王なのですから、討伐依頼も出ていない他国の組織をいきなり叩けば国際問題に発展しかねません」
「……」
「なので一応この件、我が国の王に伝えられた方がよろしいのでは?」
「えぇ~……」
この時、手を揉みながら俺をにこやかに見つめるその表情から、オムリさん――いや、揉み手ハゲの狙いがなんとなく見えてきたような気がした。