Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (462)
452話 許可、頂けますか?
傭兵連中から剥ぎ取ったモノなので、決して数が多いわけではない。
それでもダマスカス製の武具。
それにボス素材を含めた
Bランク
から
Sランク
のレザー防具なんかは、【付与】を施してオークションに流せば本命装備になり兼ねないため、逆に使い道もなく中古防具として売り物に回していた。
たぶん、使者が書簡を持ってベザートに訪れた際、クアド商会にも立ち寄ってこのクラスの武具が売られていることを知ったのだろう。
だが……この流れ、俺としては丁度良いか。
果たしてこの王は、バルニールをどこまで知り、どう捉えているのか。
俺がここへ訪れた目的を告げれば多少は見えてくるはずだ。
「そろそろ、僕がこちらに訪れた目的もお伝えしておきます。うちの国にバルニール設立時の煽りを受け、何者かに店を燃やされた者がおりまして」
「……」
「僕はそんな下らないことを考えた大元を叩きたいんですよ。なので手始めに、実行犯として名前が挙がっている『レサ一家』に接触、内容によっては潰す許可を頂けませんか? もみ消されているのか、もしくは事実でないのか、傭兵ギルドに手配書すら回っていないようですので」
そう言いながら、先ほどのお返しとばかりに木板を机の上で滑らせた。
まるで俺だけでなく、王にも見せるために作られたような、サイン入りの報告書。
これがオムリさんの狙いなんだろうけど、見せた方が手っ取り早いからな。
「クク、クハハッ、ロキ王、大元を叩きたいというのは本気か?」
「もちろん。心当たりはあるのですか?」
「当然だ。確証はないが、十中八九は異世界人マリーだろう。だからこそもう一度問う。それでも、本気で叩くつもりか?」
「そりゃ叩きますよ。マリーがバルニールをプロデュース――まぁなんというか、生み出した張本人であることは把握していますけど、そうであってもなくてもアレは叩き潰します。と言ってもご存じの通りマリーの能力を考えれば、そう簡単には捕まえられないでしょうけどね」
すると数秒、目を皿のようにして固まったあと、オスカー王は急に大笑いし始めた。
「くっ、くははっ……! コイツは傑作だ! 異世界人同士がここでも叩き合うか!」
妙に棘のある言葉だな。
それは西のことを言っているのだろうか?
だとしたら心外だけど、傍から見れば同じようなことなのかもしれない。
「異世界人だからってわけじゃないです。僕はマリーが行く先々で金のために迷惑を掛けまくってるから潰そうと思っただけですけど、オスカー王は迷惑と感じなかったんですか?」
そう問えば、逆鱗にでも触れたかのようにオスカー王は怒声を発する。
「バカ言うんじゃねぇよ!! あれほど厄介なもんが……! って、すまない……ロキ王は何も関係ないってのに、これは俺が悪かったな」
「いえ、おっしゃる通り僕は関係ないからこそ、大元に繋がる情報が欲しいんです。なのでバルニールについて、詳しく教えてもらえませんか?」
すると、誰が聞いても本音だと分かる言葉を憎々し気に吐き出した。
「……あれは排除することもできねぇ、国の心臓部に巣食う寄生虫だ」
そしてポツポツと語られる情報を、俺はいくつか確認を取りながら頭の中で整理していく――。
バルニールが誕生してから約5年。
うち最初の2年は売上が大きく伸びたことで、税収も比例して増加していたらしい。
大陸中央の経済が取り残されるように落ち込んでいく中、フレイビルの根幹とも言えるロズベリアの、さらにその心臓部だった武具製造の現場が大きく動いたことで、当時はこの宮殿も大いに沸いたと、恥じるようにオスカー王は語ってくれた。
しかし2年目には 《クオイツ竜葬山地》の資源獲得量が減少し始め、年を追うごとにその傾向は強まるばかり。
理由は単純で、Aランク狩場で狩れるほどのハンターが減少したこと。
そして相応の実力はあるものの、装備を買えない、買い換えられない層が旧ヴァルツの 《エントリア火岩洞》に移ってしまったり、傭兵稼業に移行したことも大きいと言う。
加えてバルニール自体も3年目に入ると値段の急激な高騰が噂になったのか、売上が下がり始めたために税収もトータルでマイナスに。
5年目となる今年は過去にないほどの厳しい状況になっている中、頼みの綱の鉱物資源まで売れ行きが鈍く、その原因が歓待しようと思っていた俺にあると偶然分かったため、後がないフレイビルは足取りを追いながらも、今か今かと俺を待ち構えていたらしい。
そりゃいくら俺がクオイツで狩りまくっても、意地になって素材を綺麗に買い取っていたわけである。
しかし、なぜ悪名高いマリーが大元だと知って、わざわざバルニールの設立を許可したのか?
疑問に感じて聞いてみたら、どうやらマリーが本格的に絡んでいることを知ったのは設立後の話。
『バルニール』という名の工房代表者は、四頭工匠の筆頭であり、世界的に最も有名な鍛冶師である『バルク』の名で領主や商業ギルドに報告されており、その名は今も変わっていないらしい。
要はマリーが表立って名前を残さなかったため、気付くのが遅れたということ。
ただよほどの特殊な事例を除けば、他国の商人が自国内で店を出すことに制限を掛けるような国はないようで、商売の機会を故意に減らせば、税収を得る機会も減らすだけ。
装備作りで有名な町に新しい鍛冶工房が作られるとなれば、当時は仮にマリーの名で動かれたとしても、所詮は工房だろうと、さほど警戒はしなかったそうだ。
しかし、出来上がったのは普通ではない工房であり、後々になって大きな問題が露呈してきてしまった――。
じゃあ、国の力で強引に店を潰せばいいのでは?
次に思うのはそんなところだが、これもまたできない理由があり、その一番の原因となるのは、代表者でもあるバルクを中心とした現四頭工匠の存在らしい。
Sランク
装備をまともに造れる存在がこの4名のみであり、その4名の他、準ずる能力の持ち主までバルニールに広く押さえられている。
バルニールからの離反を国が促そうにも、ただでさえ高かった収入が業務の効率化と独占販売によるボッタくりで途方もない額になっており、収入保障もできないまま強引に押し進めれば鍛冶師のトップ層が丸ごと国外へ離脱する可能性も高いとのこと。
特にバルクは、これ以上何かを言うようならバルニールをマリーのいるアルバート王国へ移すと公言しているようで、オスカー王は話しながらこめかみの血管がブチ切れそうになっていた。
なんというか、話を聞いていても八方塞がりな感じが拭えない。
相変わらずマリーがマリーしていてゲンナリする。
はぁ……
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
目の前で大きな溜息を吐く青年。
とても一国の王には見えず、傍若無人に振る舞う様子もなく。
もちろん少し特徴的な見た目や子供らしからぬ会話の内容から、紛れもない異世界人であろうことは理解できるが……
儂でも勝てるのではないかと勘違いしてしまいそうになるほど
人
並
み
な
雰
囲
気
を纏うこの者に対して、縋るように言葉を吐く自分が情けなくなる。
だが、手がない。
もしバルニールと四頭工匠がまとめて国外に出てしまえば、相手は大陸一の大富豪であり【空間魔法】所持者でもあるマリーだ。
鉱物の流通にいくら制限を掛けようと、別の入手手段がある以上は金で解決させ、存分に活用させてくるだろう。
他の職人ではまだまだ張り合うことができず、血を混ぜてでも長く守ってきたフレイビルの鍛冶産業が奪われる可能性は高い。
かと言って強引に国内へ留めたところで、悪循環により税収は減る一方だ。
にも拘わらずマリーの懐には大量の金が流れ続け、フレイビルは国として立ち行かなくなる。
となれば、もう一蓮托生。
この青年――ロキに、マリーを叩いてもらうしかない。
それしか、この国が生き残る道は、ない。
それにこの青年なら、まだ儂でも扱いきれる。
「どうだ、ロキ王。解決の糸口が見えるのなら、奴隷商館を一時的に失おうとも、儂は許可を出すが?」
「どうでしょうね。僕は大元を割り出して潰したい、オスカー王は税収を回復させたい。目的は違いますから」
「だが、敵は同一である可能性が高い、そうだろう?」
「ですね……なので許可を頂ければ、僕は僕のために動きますよ」
「分かった。無関係な民や周辺の損壊を最小限にとどめてもらえるならば、レサ一家を潰すことは許可しよう。代わりにマリーを叩き潰してくれ」
奴隷商館は消耗の激しい鉱夫を確保するためには必要不可欠。
一時的に採掘量は落ちるかもしれないが、代わりを用意すればすぐに立て直すこともできるだろう。
他国間とのいざこざを避けるために国営化まではできないが、次は息の掛かった者に運営させてもいいし、この件でフレイビルのランカー傭兵が数名消えたとしても、マリーを潰す代償と思えば安いモノ。
そのように思っていたが、不思議と青年はこちらを見つめながら首を傾げる。
その表情は――酷く、冷たかった。
「何か勘違いされていませんか?」
「勘違い?」
「僕は
手
始
め
に
、実行犯として名前の挙がったレサ一家を調査しようというだけで、レサ一家を潰すことが目的とは思っていません」
「……」
「僕は人の生活をぶち壊しておいて呑気に胡坐をかいているようなゴミが大嫌いなので、仮に四頭工匠だろうと、そちらの貴族や大商人であろうと、レサ一家に依頼した『大元』、もしくは繋がって何かしら悪さをしていたことが分かれば容赦なく叩き潰しますよ。依頼主がマリーであれば、オスカー王にとっては喜ばしいことだと思いますが……実行犯は誰も裁かれていないようですし、実際はどうなんですかね?」
「ちょっ……ま、待て、待ってくれ。そこまでは……」
「僕がね、どの国に対しても同盟をお断りしている理由はここなんです」
「……?」
「必要以上に事が大きくならないよう、こうして許可を頂きに来ていますが、仮に許可を得られなくても動くことに変わりはありません」
「なっ……」
「胸糞の悪い悪党共はどこの国に属していようと、どのような立場であろうと容赦なく潰しますので、そこはご理解ください」
「……」
ろくに言葉も返せず、ただただこの状況に息を呑むしかない。
見誤った。
やはり、目の前の男は異世界人。
当時、反対する一部の鍛冶師達が逃げるように国を出たという問題は浮上していたが、貴族や商会が暗躍したなどという報告を受けた記憶はない。
が、実際はどうなのか……
ロズベリアは……この国は、どうなってしまう……?
「許可、頂けますか?」
国が、生き残る道。
もうあとがなく、他に、選択肢もない。
その問いに、ただ力なく、頷くしかなかった。