Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (464)
454話 調査開始
配達を行った翌日。
「あれ、この芋を潰したやつ、美味しくない?」
「あ、ほんとだ。凄く甘いね!」
「そいつは芋じゃなくてトウモロコシだぜ? 一度磨り潰してからバターと混ぜている」
「ほほぉ」
「私このお酒で蒸したやつとパリパリのお肉もう一つ!」
「あ、あぁ。アンタ、その顔でよく食うな……」
「えへへ~それほどでも~」
俺はフェリンと二人、ロズベリアの中心部から少しはずれた場所にある小汚い酒場を訪れていた。
いくら身長が伸びたとは言え、どう見たってまだ顔は幼く、酒もガツガツと飲めるほどこの身体は出来上がっていない。
とは言え、情報収集と言えばやはり酒場。
オムリさんがレサ一家の縄張りは東地区だと報告を寄越したので、庶民の中にもしっかり溶け込めるフェリンに酒飲みの役を任せたわけだ。
まぁ二人揃ってずっと飯食ってるので、だいぶ浮いた存在になってしまっているが……
それでも、店内で屯すチンピラ風情の会話は一通り耳に入る。
「上手く買い叩けてよ。8歳と10歳の兄妹を二人合わせて15万ビーケで――」
「あぁ、ガキの目の前でひん剥いたら、泣きながら母親が奴隷になりますって――」
「そういや軽い崩落で60人潰れたから、また補充かかるって話で――」
「だからか? またガルム行きの乗り合い馬車襲ったって――」
「本当はもっと美味しいんだろうね」
「うん」
笑顔になるのは、関係の無さそうな店主さんが来た時だけ。
レサ一家の構成員が酔いに任せて自慢げに語る仕事のやり口を、俺とフェリンは【聞き耳】スキルを使いながら確認し続ける。
これで2度目。
場所は違うが、昼にも一人でやったことだ。
オムリさんから得られた情報を一方的に信じるつもりなんてなかった。
だって書かれている内容通りであれば、あまりにも規模が大き過ぎるから。
だからこうして食事の度にロズベリアへ戻り、裏取りも含めた情報収集をしていたわけだが、今のところはオムリさんの情報通り。
職場や家を燃やされたものの、国外になんとか逃げ延びた反対派も多かったようだから、当初は放火の実行犯と組織の頭を潰せればいいくらいに考えていたけど……
“人攫いのレサ”という名が定着しているくらいだし、まったくその程度では済まないような気がする。
それにそろそろ、ここも引き上げ時か。
先ほどからチラチラとこちらを気にしていた男が、千鳥足でこちらに歩み寄ってきた。
「よぉ姉ちゃん、俺達とあっちで呑まねぇ……か……?」
店の端っこで、フェリンは背を向けるように座っていたんだけどな。
それでも女というだけで連れがいるにも拘わらず声を掛け、覗き込むように顔を眺めたその男は中腰のまま固まっていた。
フェリンはフェリンで事態が飲み込めていないのか、男を眺めながら固まってるし……
「こいつは、すげぇ……」
「おい」
「あ?」
我に返り、さも当然のように、フェリンの顎辺りを掴もうとする男に苛立ちながら警告する。
「おまえ、何しようとしてるの?」
目が合っているんだ。
【威圧】を使えば済む話だが、敢えて使わなかった。
ルール外。
それでも、どのような環境に身を置けばここまで身勝手になれるのか。
我が物のように触れようとするこの男に殺意が湧き、【威圧】を使えば殺す機会が失われてしまうと、自然とそう思ってしまった。
なのに目の前の男は、短く呻きながら白目を剥き、腰から崩れるように倒れていく。
あれ?
「はぁ……ロキ君、殺気出し過ぎだよ」
「え? 俺? スキル使ってないけど?」
「も~いろいろ詳しいのに、変なところで抜けてるよね。スキルがなければできないってことじゃないんだよ?」
「ん? んん……うん」
そういえばそうだったか。
かつてクソハンターフィデル達が逃げようとした時、リアはスキル無しの状態で【威圧】と同じようなことをやっていた。
スキルは得たり使用することで強制的に狙った事象を引き起こすモノであって、必ずしも必須というわけではない――って、なんでこんな所で学んでんだ俺は。
今はそれどころじゃないだろう。
「ああ? てめぇ、うちのモンに何しやがった?」
「いや、何もしてませんけど」
「んなわけねーだろ」
「俺は見てたぜ~? おまえリッツのこと殴ってただろ?」
「おいおいおい、レサ一家に手を出すなんて、とんでもねー野郎じゃねーか。へへっ、こりゃあタダじゃ帰さねぇぞ」
目の前にいる7人の男は、フェリンに目を向けながらニヤニヤと笑っていた。
床で寝ている男がなぜこうなったのか、その辺りはまったく考えないのか?
そう思ったけど、血を流すわけでも、目立つ傷があるわけでもなく、イビキ掻いて床で寝ているだけだしなぁ……
「はぁ、このままだとお店に迷惑掛かっちゃいそうだし、もう出ようか」
「え~さっき頼んだご飯まだ来てないのに」
「しょうがないよ。今度お土産で買って帰るからさ。注文したのにごめんなさい、多めに払いますので」
金貨を2枚カウンターに置きながら店主に謝罪するも、その店主は心配そうに俺達を見つめる。
「いや、代金さえ貰えりゃうちとしては構わないが、それよりあんたら、このままじゃ……」
視線は一瞬、俺の肩越しに。
俺とフェリン、どちらが目的か知らないけど、どうせ追いかけてくる気満々なんだろう。
ならば好都合。
より詳しい情報を聞かせてもらうまでだ。
「大丈夫ですよ。ご飯、美味しかったです」
そう告げ、「おいリッツ、いい加減起きろ!」と叫んでいる声を聞きながら外へ。
「フェリンはもう帰りなって」
「やだよーだ。ちょっと心配だし、そんな気分じゃないし」
「そうだそうだ、心配だよなぁ? なら俺達と一緒にきてもらおうか。なーに、二人とも殺したりはしねーからよ」
あーあ。
リア以外にはあまりこういうの見せたくないんだけどなぁ……
帰ってと言っても帰らない。
心配という割には機嫌の良さそうなフェリンにしょうがなく【神通】を使い、これからやろうとしていることを伝えつつ、俺達二人はチンピラ共に囲まれながら歩き始めた。