Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (468)
458話 チンピラホイホイ
穴の奥から覗いた顔。
それは階段の横で見張っていた用心棒の一人だった。
推定Bランクのハンター程度。
決して弱いわけではないけど、すぐ死にそうなので【手加減】しながら空いた壁の穴に手を突っ込み軽く殴る。
「はぶぁ!?」
「空き始めたぞ! かかれかかれ!」
おう、今のところは良いね、大量だ。
さりげなく自分でも壁を壊し、殺さないように、かつ逃げられないように、膝を狙って攻撃を加えていく。
階段を下りてくる連中が、必ず俺の背後にいるフェリンを見ては目を見開き、一瞬固まるのが見ていて面白い。
俺はその隙に両膝を破壊し、後ろに放り投げながら少しずつ階段を上ると、裏口のロビーには100人近くの男達が待ち構えていた。
「あぁ? コイツがうちに乗り込んできたやつなのか?」
「まだガキじゃねーのか、アレ?」
「しかも手ぶらとか、笑わせてくれる」
「いったいどこのどいつを助けに……って、うおっ!?」
「マジかよ……こんなの捕まえてたのか」
そして背後から、ひょっこり顔を出すフェリン。
視線が一斉に俺から外れていく。
「逃がすなァ!! この女逃がしたら、どやされる程度じゃ済まねぇぞ!!」
と同時に、階段の下からも叫び声が上がった。
誰だ? さっきひっ叩いた用心棒か?
どやされるのは仕事をしなかった用心棒の二人な気もするが……
しかし、この言葉で急に顔が強張った男達。
武器を片手に走り寄ってくるので、【心眼】で回復系スキルを所持していないか覗きながらパシパシと膝を叩いて沈めていく。
足元に蹲る人だかりができると、フェリンが階段の下にせっせと運んでくれるので案外快適だ。
「コイツ弱くねぇぞ!?」
「早くあの女奪って人質に取っちまえって!」
「チッ! 殺しもできねぇハンパもんが女連れて逃げられると思ってんのかよ!」
「おい! 早くクロイス様を呼べ! 突破されたらマジでやべぇ!」
「呼べってどこにいるんだよ! 5階か!?」
「ここの中ならそうだろうけど……げっ! アイツが階段塞いでんじゃねーか!」
「この時間ならもう外で飲んでる可能性も高い! 探せ! 探してこい!」
「……」
思いのほか、順調だな。
クロイスという名の要注意人物がいることは、オムリさんから貰った情報で分かっていた。
レサ一家の最高幹部でもある、フレイビル国内ランキング3位の傭兵で、実質的なチンピラ共の親玉。
ソイツがどこにいるのかは反応が掴めないので分からないが……
少なくとももう一人、ここに現れると厄介そうなヤツも含め、他に3人の幹部がこの建物の上階にいることは分かっている。
だから騒ぎを聞きつけ、もし横の階段から下りてきた時には、他にバレないよう即行で潰せるように――、そう思ってこの配置を陣取っていたが、なるほど。
間違いなくあるはずの、客が出入りする正面入り口からは、5階に通じる階段が存在していないのか?
もしそうであるならば、好都合。
少しでも気付くのが遅れてくれれば、それだけ街中に散ったチンピラどもが、ここで俺達の脱走を阻害しようと武器を片手に身体を張ってくれる。
一定数を残してゴミ箱に放っておけば、後から来た者達は俺がどれほど行動不能にしているかなんぞ、すぐには分からないだろうからな。
あとは少しずつ自分の身体を傷付けていけば、コイツらもきっとやる気になってくれるだろう。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
奴隷商館にほど近い、レサ一家の連中がもっとも多く屯す酒場『トリンキー』にて。
「大変だ! 奴隷の奪還狙ってうちに乗り込んできたバカ野郎が現れたぞ!」
「はぁ?」
「相手何人だ?」
「が、ガキっぽいのがたった一人だ! でも見張り役の二人じゃ抑えられてねぇから結構やる!」
「マジかよ舐めやがって。クロイス様は?」
「どこにいるか分からないから探してこいって! くそっ、やっぱりここじゃねーか……おまえらも飲んでないで協力しろ! このまま逃がしちまったらメンツにかかわるし、アレはクロイス様の逆鱗に触れるどころじゃねぇ!」
「アレってなんだよ?」
「奪還されそうになってる女だ。ありえねぇほど可愛いし、それにチラッとしか見えなかったけど身体つきも凄かった……ありゃ確実にとんでもねぇ値段になるって一発で分かる」
「そんな女が……」
「よし、行くぞ。逃がしたなんて噂が街に広まれば、舐められて今後の仕事がやり難くなる。それにこんな状況で呑気に呑んでたことがバレたらあとでぶっ殺されるぞ」
「あ、あぁ、そうだな。逆に乗り込んできたクソ野郎を討ち取れば、相当な点数貰えるだろ。報奨狙うぞおまえら!」
「自信ねぇやつは他の店も回ってクロイス様探してこい! それに一家のモンも招集掛けろ!」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「おいおい、舐めたガキが単独でうちに襲撃だとよ!」
「あぁ? 家族でも取り返しにきたのか?」
「知らねーよ、ただ極上の女連れてるみたいで、そいつ倒せば報奨貰えるらしいぞ?」
「マジかよ?」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「おーい! 奪還狙いが現れたってよ! 商館の裏口で逃がさないように囲ってるって!」
「なんだよめんどくせぇな……せっかく良い気分で呑んでたってのに――」
「相手は殺しもできないガキ一人で、ソイツ倒せばぶっとぶほどの極上女が褒美でもらえるらしい!」
「く・わ・し・く!」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「聞いたか!? なんか商館の裏口で極上女の争奪戦が――」
酔っ払いを介した伝言は、次第にその中身もズレたモノへと変わっていく。
レサ一家を――、延いては自分達が舐められたことへの怒りを感じる者。
または潰れるメンツと、その後の仕事への影響を心配する者。
一方では、統括している上の者からの理不尽とも言える怒りを恐れて、殺されないならという理由から現地へ向かう者など様々であり、ここまではロキ自身が事前情報から呼び水として想定していたことであるが……
極上女を一目見たいがため。
また、その女を褒美で貰えると勘違いして商館へ駆け出す者が抜きんでて多かったことを、裏口でチンピラホイホイしていたロキは知らなかった。
当然、数を確認するためにちょくちょく顔を覗かせながら、後ろでせっせと呻く男達をゴミ箱に運んでいるフェリンもまた、そんな事態になっていることなど知る由もなかった。