Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (47)
47話 居心地の良い空間
7/19 本日2話目の投稿です
ふむ。
朝のベッドで頷き、一つの答えを導き出した。
結局昨日も魔力不足による
強
制
寝
落
ち
を故意に発動させた。
ショートソードに付与されている魔力上昇分の魔力『50』。
この『50』未満の魔力量で武器を手放せば、強い倦怠感と共に強制的な昏睡状態に入る。
その時間は通常の睡眠と同程度で、今のところは習慣になってきている朝の鐘の音で普通に目が覚める程度。
魔力がマイナス域だとどうなるかは1人だと簡単に試せないので謎だが、強制睡眠から起きれば魔力が最大値まで回復していることからも、約8時間の睡眠で推定150程度の魔力は十分自然回復しているということが分かった。
寝る時は当然革鎧を外しているので、革鎧についている魔力自然回復量増加の付与がかかる狩りモードなら、もっと早い回復速度になることだろう。
そしてあまりよく分かっていなかった付与の判定範囲。
武器を手に持てば付与効果が発生し、手放せば付与効果は外れる。
そこまでは分かっていたが、昨日はショートソード購入時にセットで購入した剣帯に剣を引っ掛けた状態で試していた。
そしてその状態でも付与は発動し、剣帯を外した瞬間に強烈な睡魔が襲ってきたので、必ずしも剣を握らなければいけないわけではないということが分かったのは大きい。
なんせ石柱を使っての定点狩りは、籠に用がある時は自らの身体を石柱で持ち上げなければならないのだ。
昨日は剣を片手に持ちつつ、素材がパンパンに入った革袋も持ちつつ、そんな中で無理やり片手で落ちないよう身体を支えていたので、万が一バランスを崩して剣を手放そうものなら、その時の魔力量によってはそのまま昏睡。
高所から寝ながら落っこちて死亡。
そうじゃなくても寝たままポイズンマウスに食われるなんてパターンも有り得たわけだ。
それが回避できると思えば、今回の実験はかなり有意義なものだったと言えるだろう。
さて、朝ごはん食べたら行くか。
今日はまず昨日押収したアデント達の武器や鎧。
それらをギルドで預かってもらっているので、回収してパイサーさんのところに顔見せついでに売却。
その後は教会に寄って残りの女神様達と対面だ。
とっとと動かないと昼ご飯を食いそびれる可能性もあるので、どんどん予定を消化していこうと思う。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「アマンダさんおはようございます~昨日の武器と防具、回収していきますね」
「あらおはよう。休日と聞いていたのに早いのね? あのまま部屋に置いてあるから好きに持っていっていいわよ」
朝のハンターギルド受付付近。
いつもより多少遅いとは言え、依頼ボードの前にはまだまだハンター達で賑わっている中、俺はその横を素通りしてアマンダさんへ声をかける。
自前の装備もつけず、ほぼ手ぶらでハンターギルドを訪れたのはかなり久しぶりだ。
昨日使われた商談部屋に入れば、使い古された感のある革鎧3セットに、ロングソードと槍。
あとは解体にも使っていたであろうサブ武器のナイフが3本と、荷物持ちがなぜか持っていた小型のメイスも置いてある。
(こりゃ一度に運ぶのは無理だな……)
ギルドへ入る前に、目の前にある武器屋のパイサーさんにも一言、中古装備を売りたいと声をかけておいた。
よくは分かっていないようだったが、持ってきてくれれば査定をするということだったので、あとは俺が運び込むだけで事が済む。
鎧を右手に、武器を左手に、余力があればナイフも指の隙間にでも挟んで、と……
装備を着込むのではなく抱えるという、ギルド内ではまず見慣れない姿で受付側の正門を出入りすれば目立つこと必至だが、既に噂はされていたので気にしてもしょうがないと割り切った。
「おい……あれが昨日アデント達をハンター永久剥奪に追い込んだ挙句、ケツの毛まで毟り取った張本人だ……」
「マジかよ? ってことは今手に持っているのがあいつらの装備か? どうすんだあれ?」
「どう見たってまだガキじゃねーか……あいつら何やってんだよ?」
「バカ野郎……そう言って舐めくさった結果、借金奴隷一歩手前まで追い詰められたらしいぞ?」
「あれを普通のガキと思ったらえらい目に遭うぞ。一人で行動しているのに持ち帰る素材の量が尋常じゃねぇ」
本人達はコソコソしゃべっているつもりだろうが、ハンターとは見た目からして野蛮で粗暴であろう人間の比率が飛び抜けて高い職業だ。
町を普通に歩く町民とハンターギルド内では、別の国ではないかと思うくらいに人の雰囲気がガラリと変わる。
もちろんまともな人も大勢いるだろうが、まともな職業に就きたがらない、もしくは就けない腕だけ自慢の者もハンターには多いらしい。
そんな彼らがまともに声量を抑えて内緒話なんてできるわけもなく……
ピストン運行する度に、噂話が俺の耳に入ってきてしまう。
(これをメリットと捉えるかデメリットと捉えるか――まぁなるようになれだな)
そう思うが、それしか選択肢も無い。
噂を気にして自重するなんて愚の骨頂。
人生全てがゲームだった頃、某掲示板で散々叩かれ、それが原因で引退していくプレイヤー達を多く見てきたが、俺はそんな光景をなんて勿体ないんだろうと感じていた。
自分が今までつぎ込んだ情熱と時間、そして努力の結晶がたかが人の噂、罪悪感すら覚えない程度の悪意で無になる。無にされる。
本人が選んだ道。
決めた選択にケチつけて止めるようなことまではしなかったが……
そんなことを気にして引退するくらいなら、そいつらをぶった斬り続けて逆にご退場頂いた方がまだマシだろう。
ゲームならばそれができるのだ――ゲームならば。
悪意のある人間が誰だか分からない。妬みや嫉妬が蔓延する世界で疑心暗鬼になる。
交友関係が広いほどそんな悩みも抱えるのだろうが……一人であればそんな不安も心配も無い。
だから一人は気楽なものだ。
目に見えて敵と判断できるものだけ斬っていけばそれで良い。
(精神的にタフになれたから、センスの欠片も無いのに営業ができたのかな? どうかな?)
そんなゲームの世界と今を被らせながらも、黙々と俺は押収した装備品をパイサーさんの下へ運び込んだ。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「これで以上です!」
「次から次へとなんだこりゃ……どう見ても3人分。おまえ、これどうしたんだ?」
「ははは……ちょっとトラブルがありましてね。ギルドに仲裁してもらいつつ、お詫びとして押収した装備なんですよ」
「ギルドが仲裁に入るってのも珍しい話だが……まぁいい。余計な詮索はするもんじゃねーしな。お前が使う分はまったく無いのか?」
「無いですよ~武器も鎧も息子さん仕様のがありますしね。あれ良いですよ! 最近魔法が使えるようになったんで大助かりです!」
「ガハハッ! そうかそうか! そいつは朗報だな!」
最初は『死にスキル』ならぬ『死に付与』と思っていたけれど、【神通】やら【土魔法】の石柱作りは、この装備があるのと無いのとではまったく使い勝手が異なる。
この装備が無ければ、間違いなく今の効率、1日の収入は叩き出せないだろう。
そう思うとパイサーさんには大感謝だな。
「ちなみに付与の【魔力最大量増加】と【魔力自動回復量増加】って、あれどちらもスキルですよね? パイサーさんが持っているスキルをそのまま付与したんですか?」
「あぁそうだな。付与は2種類やり方があるが……この装備に付けたのはスキルの方だ」
「ほえーパイサーさんって魔力系のスキルに強いんですね」
「んなこたーねーぞ? 魔力を使いまくってりゃどっちも勝手に身に付く可能性が高いスキルだからな。俺も意識したことはねーが、気付いたらいつの間にか授かっていた」
「ほっほ~……って、武器屋がそんなに魔力を使うとは思ってませんでした」
「アホ! 装備売ってるだけじゃ魔力なんてまったく使わんわ! 【鍛冶】だって【身体強化】まで使うやつなら魔力を使うだろうが、俺はそこまでの素材を扱わないしな」
「えっ? じゃあどこで使うんですか? 夜寝る時?」
「ふん! 俺だって昔はハンターやってたんだぞ? そん時の授かりもんだ」
「なんと! パイサーさんって先輩だったんですか!」
「そうだぞ! 先輩なんだからちっとは値引きも控えろよ? まぁランクはCが限界だったけどな」
「すごっ! 僕まだFランクですよ? Cランクなら色々な魔物を狩れるんでしょうね! ドラゴンとか?」
「馬鹿野郎! ランクC程度でドラゴンなんぞと出くわしたら、あっという間に消し炭にされて骨も残らんわ!」
カウンターで出してもらったお茶を飲みながら、そんな、ある意味くだらない話をする俺とパイサーさん。
間違っても
な
ぜ
ハ
ン
タ
ー
を
辞
め
た
の
か
?
なんて話は振らない。
どうせ辞める切っ掛けなんて碌なものじゃないんだ。
また過去の傷をほじくり返してしまう可能性があるなら、無理に触れる必要なんてないだろう。
一度息子さんの件で失敗しているわけだしな。
しかし……
最初は警戒心剥き出しで値引き交渉なんかしていたけど、なんとも居心地の良い店になったものである。
パイサーさんも話に夢中で、ちっとも鑑定をしている様子が無い。
装備がカウンターの隅に置かれたままである。
それで良いのかパイサーさん……
まぁ、いいか。
どうせまだ時間は朝の8時くらいだ。
昼までに教会で女神様達との顔合わせが済んでいればいいのだから、俺は休日なんだしパイサーさんのペースに合わせてのんびりさせてもらうとしよう。
なんかパイサーさん、楽しそうだしね。