Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (490)
477話 もう一人
拠点の上台地。
向かうとまだ夕方とあってか、アリシアが一人でモコモコした暖かそうな服を作っていた。
あれはきっと、エニーとケイラちゃんの寝間着かな。
「あれ? リステとフェリンは戻ってない?」
「まだ二人で探索しているんじゃないですか? ロキ君に置いていかれたから、別の仕事をすると言っていたので」
「え」
置いていったとは違うと思うんだけど……
というか、別の仕事って何してんだ?
首を捻っているとアリシアが二人を呼んでくれたようで、目の前に青紫の渦が二つ生まれる。
「あら、こちらに戻っていたのですか」
「途中で気配が消えちゃったけど、上手くいった?」
「まさかあそこで逃げられるとは思わなくて、ごめんね。無事説得っていうか保護はできて、今はベザートの方にいるよ。服をいっぱい作るって張り切ってた」
「え? 保護……? もしや、転生者だったのですか!?」
ガバッと立ち上がり、唐突に声を張り上げるアリシア。
そうか、可能性が高いかなと俺が勝手に予想していただけで、アリシアは服を作りに行ったと思ってたんだもんな。
「【裁縫】【加工】【細工】の3つを与えられた女性。”自分のデザインした服を皆に着てほしい”っていうのが望みだったはずだよ」
「……覚えています、はっきりと。その女性も、やはり……?」
「うん。3歳で奴隷落ちして、そこから28年間屋敷の地下に閉じ込められていたみたい。そこまで詳しくは聞いていないけど、最低限道具を扱えるようになってからは自分が作りたい服じゃなく、貴族向けの高く売れる服をひたすら作らされたって言ってた。西の戦争が切っ掛けで逃げ出せたみたいだけどね」
「そう、ですか……」
「能力だけでは誰かに利用されて食い物にされる。それはもう今更だし、凹んでいたって都合良く救われるわけでもない。大事なのはどこにいるか割り出し、その人が今どのような状況なのか把握することだと思うよ」
「本当にその通りですよ、アリシア」
「ちなみに、今日行った自由都市って所、もう一人転生者いたから」
「「え?」」
俺とアリシアの声が重なる。
観光の続きでもしているのかと思ったら、仕事ってそういうことだったのか。
「やっぱり奴隷商館?」
思わず問えば、【広域探査】で確認していたフェリンは首を横に振った。
「ううん、そっちも調べたけど反応はそこからじゃなかった」
「接触することなどできないので姿は分かりませんが、中心部にあるかなり高い建物の上階から反応を得たようですから、支配階級の可能性が高そうですね」
「へぇ~なるほど……いや、二人ともかなりナイスだわ。話を聞く分には保護するようなタイプじゃなさそうだけど、一応あとで調べておくよ」
「ふふ」
「ぬふふ」
「お、お願いします!」
「あ、そうそう。話が逸れちゃったけど、そのノアさんっていう服作りのスペシャリストに服の依頼は頼んでおいたから、もうちょっと待っててね。素材にも拘って全身作るってなるとそれなりに時間掛かるみたいだからさ」
そう言いながらついでにやっちゃうかと、そこら辺に落ちていた太めの枝を拾い、風魔法でスパスパと3面が平らになるよう三角柱を形成していく。
「んん? 何やってるの?」
「次の国をどこにしようかと思ってね。まだパルモ砂国でSランク狩場を掘り当てる作業は続くから、大国以外ならどこでもいいかなーって」
「どこの国で悩んでいるのですか?」
「んーと、ガルム聖王騎士国にスチア連邦、あとは東じゃないけど、今日行った自由都市の横にあるトルメリア王国かな? 遅かれ早かれボス討伐で向かうことになりそうだし」
「トルメリアは確かに、一度通過しましたけどそこまで大きな国ではなさそうでしたね」
「フィーリルがガルム聖王騎士国を通過して北に向かっているので、聞けば何かしらの情報は得られると思いますが……呼びますか?」
「いいよいいよ。邪魔しちゃ悪いし、それに今回はクジで決めようと思ってるからさ」
言いながら、3面にそれぞれの国を書いていく。
順番が多少前後するくらいで、結局全部回るのだ。
パルモ砂国の時と違って優劣が付けにくいのであれば、恨みっこ無しのコロコロクジで決めても問題ない。
「ほい、地面にくっついた国が次の行先きでーす」
そう言って放り投げた枝は放物線を描き、転がることもなく地面にポトリと落ちる。
全然コロコロしてないし……
でも近かったフェリンがそれを笑顔で拾い、俺に見えるよう向けてくれた。
「はい! 次はスチア連邦だって!」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
次の国が決定したあと、情報を確かめるために改めて自由都市ネラスへ飛んだ。
商業都市の支配階級ならばあり得る。
そう思い、マリーの存在を強く疑ったが、どうやらそれは俺の勘違いだったらしい。
まぁ冷静に考えると、あのズル賢い女がそう簡単に探査系で居場所を割らせてくれるとは思えないしな。
ハンスさんも【隠蔽】は当たり前のようにレベル10で所持スキルは覗けなかったし、マリーもこの辺りの”最低限”は備わっていると考えた方が無難。
しかし――、
(【建築】がレベル10の男か……)
都市の中央に存在する、この一帯でも1位か2位を争うほどの高さを誇る建物。
そのほぼ最上階と言っていい上層には、頭髪の多くを白く染めた男がいた。
個室には豪勢な調度品が並び、重厚感のある机に向かう姿はどう見ても奴隷の立場とは思えない。
小奇麗な身なりからして、大成した商人というよりは国の役人のような雰囲気を感じさせるが……
改めて宙に浮きながら周囲を見渡すと、うちの拠点にある倉庫を超えるほどの高さがありそうな建物が何棟も立ち並んでいるのだ。
おまけに俺のような適当な作りにはまったく見えないわけで、そうなれば自然とこの予想に辿り着く。
(もしかしてこの人が、今の自由都市を作り上げた張本人なのかな……)
最初にも感じた、他所と文明度合いにズレを感じるほどの都市。
その要因がなんとなく掴めたような気はするも、他に情報がないのだから今できることはこのくらいだ。
奴隷のような苦しい環境に立たされていないのであれば。
もしくは許容を超える悪党でもなければ俺の出る幕じゃない。
平和に暮らせているのならそれでいいし、今後もこの都市には訪れるのだから、良くも悪くも目立った動きがあれば俺の耳にも何かしらの情報が入ることだろう。
その時に俺は、味方、中立、敵のどの立場につくのかな……
そんなことを少し考えながらこの場を後にし、現状をアリシア達に報告した。