Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (495)
482話 魔王、膝を突く
クアド商会の高級店。
カウンターの中で俺も時折お会計を担当しながら、今回の調査で判明した事実を横のクアドにコソコソと伝えていく。
どういった経緯があったにせよ、クアドの祖国が消えてしまったのだ。
それなりの覚悟を以て伝えたつもりだったが――
「そうっすか」
意外過ぎるほど薄い反応に、思わず俺の方が戸惑ってしまう。
いつもなら、「マジっすか!? マジっすか!? マジっすか~!?」って大騒ぎしそうなのに……
まさか、仕事中はテンションを抑えるとか、そんな芸当ができるほど成長してきたのか?
「な、なんていうか、思ってた反応と違うね」
「いや、驚いてはいるっすよ? ただ異世界人が台頭し始めたっていうのに、スチア連邦は種族同士が協力するような雰囲気もあまりなかったっすからね。場所からして2つにほとんど挟まれているようなもんでしたし、いつかこうなるんじゃないかって思ってたっす」
「あぁーそっか……なるほどね。でも家族とか心配じゃないの?」
「家族って言ってもうちはスチアから全員逃げちまってるっすから。あそこは何よりも『力』が重視されるんで、外の世界に興味があったり従属の立場になる種族は国外に出ちまう連中も多いんすよ」
「え? それじゃクアドが国に戻ることって全然なかったんだ?」
「ないですし、戻れないっすね。昔からの習わしで、一度外に出た連中って種族に関係なく爪弾きに遭うんっす。酷いとそれで殺されちまうこともあるんで、一度土地を捨てた連中はそう簡単に戻れねーんすよ」
「うわっ、めんどくさ……」
これもハンスさんの言っていた種の結束ってことに繋がるんだろうけど、古いというか田舎臭いというか。
少なくともウチでは絶対に真似しようとは思えない考え方だ。
まぁいい。
従属とか他にも気になることはあるけど、ひとまず懸念材料が解消されたのだ。
これで余計な心配をしなくても済む。
「クアドがそこまでスチア連邦に拘ってなくて助かったよ」
「え?」
「黒幕はまず間違いなく、俺が大嫌いなマリーだろうからね」
「あー……あの異世界人っすか」
「今回の件はよほどの事がなければ関与するつもりもないけど、スチア連邦がマリーの側につくなら、いずれ俺は敵として潰す側に立つ可能性もあるわけだからさ」
「俺っちはもうアースガルドの一員ですし、そこは気にしなくていいっすっよ。悪い奴らをとっちめるロキさんを応援してるっすから!」
「そっか、ありがとね」
この言葉を聞いて、ようやく安心からホッと息が漏れる。
細かいことまで気にしたら何もできなくなるけど、それでもクアドは俺の大事な仲間。
家族がいたら事前に救出しておくべきか、かつて生活を共にしていたであろう部族の仲間はどうすべきかといろいろ考えていただけに、何かあってもこれで憂いなく行動に移せる。
まぁマリーの性格を考えれば、詰めの甘い段階で露骨な行動を取るとは思えないけどね。
気持ちがスッキリしたところで、今回得た魔物素材を奥の倉庫に放出。
その後、服の進捗を確認しにノアさんの部屋へと向かった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
できてたらいいな。
でもまだできてはいないだろうな。
そんな気持ちで戸を開け、視界の端で人型の模型に掛けられた服を見た途端、電撃を食らったように俺の身体が硬直する。
「はがっ……!?」
「あら、来たのね。銀細工の最終調整をしているところだからちょっとだけ待ってて。すぐ終わるわ」
「は、ぁ……」
「?」
デッサンでおおよそのイメージは掴んでいたはずだ。
しかし、これは……想像していた出来を遥かに超えている。
アニメやファンタジーの世界で確実に強者だと分かるような人が着ていそうな、それはそれはめちゃんこカッコ良さげな服がそこに鎮座しておられた。
細身ながら動きやすそうなコート、要所要所には用途不明のベルト状の何かが垂れており、肩や背面の一部には変色したサラマンダーの革だろうか?
鱗の備わった黒いレザーが使われていて、ソイツが非常に良いアクセントにもなっている。
そして俺が立ち尽くしている間も、裾や袖の部分などに精巧な作りをした銀の飾りが付けられていき、俺はただただ黙ってその工程を見守る。
「ふぅ……あんたが要望したデザイン、機能性は兼ね備えられたと思うけど、どう?」
「いやいやいやいや、最高ですよ、ほんとに」
「ふふっ、それは良かったわ。早速着てみてちょうだい」
そう言われたら着るしかないだろう。
恥ずかしげもなくポンポンと服を脱いで袖を通すと、ノアさんが横で解説をしてくれた。
「その姿で戦うことも多いって聞いたから、パンツもコートも多少厚みを持たせて耐久性を重視しているわ。横の不愛想な鍛冶師にお勧めされたから、火に耐性の強いレザー素材も混ぜてあるけど、どう? ヤボったさは感じない?」
「全然です。うん、身体も――、凄く、動かしやすい」
「腰回りや袖はベルトで調節可能、あんたの言っていたヒラヒラだけは理解に苦しみ過ぎて、しょうがなく意味のない銀細工付きの革紐を腰から何本か垂らしておいたわ」
「やべーっす、ノアさんは天才だと思います」
「知ってるわ。ちょっとフードも被ってみてちょうだい」
「あ、はい」
ふむ。
かなり目深になるが、幼さを隠すためという話だし、だからこそ意味もあるんだろうな。
「なるほど……………まぁいいじゃない。威厳もあるし、凄く強そうに見えるわよ」
「ちなみにカッコいいですか?」
「え?」
「だから、カッコいいですか?」
「そっ、そうね……カッコいいと思うわよ。私なら怪し過ぎて絶対に近寄らないけど……」
いいじゃない。
近寄り難き恰好良さ。
そんなのも嫌いじゃない、というか宇宙で一番大好物まである。
「ふふ、ふふふっ、ありがとうございます! これ、内容が素晴らしいので追加報酬、美味い肉でも食ってください。僕は早速自慢してきますんで!」
「え、ちょっ……」
ふははっ、これを見て、確実に羨ましがりそうなのが拠点に一人いるからな。
俺は今まで着ていた服も忘れたまま、意気揚々と下台地へぶっ飛んだ。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
時刻は既に夕暮れ時。
いつもの食卓には馴染みの姿が揃い、当然目的の人物もそこにいた。
「ふふふ……ふふふふふっ……」
向こうから気付いてほしくて。
自分で横から強風を吹かせてヒラヒラさせつつ、怪しい微笑みを振り撒きながら向かっていくと、早速料理を作っていたゼオが反応してくれる。
「何者か!!」
「あいっ!?」
いきなりオタマをぶん投げてくるとはどういうこと!?
避けたからいいものの、せっかく新調した服に熱々スープがぶっかかるところだったじゃないか!
「ちょい! 俺だって、俺!」
「む……ロキ、なのか?」
「そうだよ。ふふっ、どうかな、この服」
目の前にあった。
それだけの理由で風呂の上に立つと、横から別の声が飛んでくる。
「ちょっとなにそれー! どこで買ったの!? その服ボクも欲しいんだけど!!」
「なるほど? さすがカルラ、お目が高い」
そしてゼオはというと、なぜかその場でよろめき膝を突いていた。
「な、なんということだ……齢3000年から5000年、我が人生の中で、これほど心に刺さる服は見たことがない……」
「はっはーそうでしょうそうでしょう! ここだけの話、俺と同じ異世界人が作ってくれた服だからね。世界最高峰ってやつですわ!」
ぶはは!
予想通り、ゼオはあまりの格好良さに衝撃を受け、立つことすらままならない様子。
それにカルラもゼオが復活した時ばりに目を輝かせているので、相当な好感触とみていいだろう。
ふふ、ならばしょうがない。
考えてみたら一度もベザートに連れていったことがないし、次は二人の服もお願いしに――。
「えー確かに見たことない服だし凄そうだけどさ……なんか、怖くない?」
「え?」
それはエニーの声だった。
横で話しかけられたケイラちゃんも頷きながら答える。
「うん、ちょっと……怖い、かな。帽子のせいかもしれないけど……」
「帽子……これでどう?」
「あ、だいぶ良くなったんじゃない? それでもまだちょっと怖いけど」
「うん。でもロキさんっぽいかも? 似合うというか、強そうというか」
「いやいやいや、おまえらどう見ても暗殺者だろコレ……しかも相当殺ってそうな、かなりやべぇ暗殺者だ」
「あ、私も真っ先に思ったのがそれでした。その帽子を取ったらロキさんの顔がちゃんと見えるので、格好良いというか、なんか凄そうには見えますけどね」
「え、いや……これから髪型改造計画まで入るんですけど……」
あれ、威厳を求めたら恐怖が滲み出るとはこれ如何に。
でも本来の目的は舐められないようにすることだし、ちょっとベクトルが違うだけで完全に間違っているわけでもないか。
それより、だ。
出来上がったご飯を皆で食べながら、ボーッと二人を眺める。
うーん。
今更ながら、カルラのスキルも覗けないことには驚いたが……
「ねぇ、二人とも、強くなってない?」
先ほど飛んできたオタマの速度がかなり速かったから、というのもある。
しかしゼオとカルラを見ていると、【洞察】を使わなくても前と違うことがなんとなく分かるのだ。
ちょっと強くなったとか、そんな感じではない気がする。
「ふむ……いつぞや装備の話になった時、ロキに強さを求められたのでな。それもあってしょうがなく選んだのだ。しょうがなくな」
「選んだ? あ、まさか……」
「うむ。職を、だな……我は
大魔道
とやらになってみた」
「ボクは
血の王
だって~」
「おぉ~おめでとう! しかも二人ともめっちゃ凄そうだし……ん? っていうか、
血の王
なんて職業、あの本に載ってたっけ?」
大魔道
はばあさんの
魔女
と同じ、特級職と呼ばれる超上位の位置付けに名前が載っていたのは覚えている。
しかし、
血の王
とな?
そんなの載ってなかったはずだし、そもそも職業名からして吸血人種専用っぽい気もするんだが……
「なんかね~リコに本借りて像の前で悩んでたら、声が頭の中に響いたんだよね。ボクは
血の王
に就けるよ、秘密だよ、って」
「世の中は不思議なこともあるものですよね~。早速新情報として、職業一覧が載っている本に追記しちゃいました!」
「カルラだけズルいよね! 絶対女神様のお告げだよ!」
「……一応確認するけど、カルラって【神託】のスキル持ってるの?」
「持ってないと思うよ? 聞いたことないもん」
「あーそう……」
まず、まったく秘密になってねーしって突っ込みどころもあるが。
カルラの吸血人種に関連する職業なんて、存在したとしても古くに絶滅してたんじゃ記録に残っていないのも当然の話。
本に載ってなきゃこの拠点では選びようもないわけで、これはきっとその事情を知っているアリシアが助けてくれたんだろうな。
どうやったのかは分からないけど、もしかしたら毛嫌いしていたゼオ達が歩み寄ってくれたお礼だったのかもしれない。
「まぁいいや、これで二人も職業加護の恩恵を受けられるとして――、あれ、それだけでそんな強くなったわけじゃないよね?」
「うむ。あとは、あれだ。ロキの言っていた【転換】のレベルを、祈祷とやらで、上げてみた」
「おぉ! いくつまで上げたの?」
「レベル10だ」
「ぶっ!」
「ボクも~!」
やってることがえげつない。
まぁ今まで溜め込むだけ溜め込んでまったく使わなかったのだから、そりゃゼオくらいの強者なら一気に上げられもするだろう。
しかし、当たり前のように言っているカルラも上げられるものなのか?
レベル10までに必要なスキルポイントは未だ未知数だが、全て溜めたとしても確実にレベル60程度では足らない。
それに【転換】を所持しているということは、他にスキルレベル10のスキルがあるということだし、どうも見た目上の強さと予測できる強さとでズレがあるようにも思える……
うーん、カルラは謎が多過ぎて、ほんと分からんな。
「いきなり最大まで上げたのは驚いたけど、これで他のまったく伸びていなかったスキルも伸ばせるようになってくるね」
「うむ。これで増々実践的な修行ができるというもの。覚悟するのだぞエニー、それにカルラもだ」
「ボクも!?」
「ふふーん、望むところだし!」
「間違っても図書館に魔法を飛ばさないでくださいね」
「できれば湖にも……」
「じゃあどこにぶっ放すのよ!?」
「カルラに撃ちゃーいいだろ。血を飲ませとけばたぶん死なないんだから」
「ボクに!?」
時間を合わせてここに来れば、いつも同じ、ガヤガヤとした賑やかな食事。
そんな光景に温かさと安らぎを感じつつも、密かに明日、二人をベザートへ連れていくことを計画した。