Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (50)
50話 地球産アイテム
7/21 本日1話目の投稿です
俺が泊っている宿『ビリーコーン』
その中でも比較的大きい、4人宿泊用の部屋に俺はいた。
時刻は腕時計時間で20時手前。
事前の話ではこの部屋にヤーゴフさん、アマンダさん、遺留品管理担当のペイロさんと、内情を知っている3人が来ることになっている。
どうしても地球の品物が入っている俺のジュラルミンケースは、その物自体が元の世界でもやや特殊な部類の鞄だ。
そんな物、拠点移動などの特別な事情が無い限りは外に持ち歩きたくなかったので、俺が外へ出なくてもいいようにというヤーゴフさんの配慮によってこの部屋を借りることになった。
もちろんお代はギルド持ちである。
おまけに俺が見せる物はこの部屋から持ち出さない。
あくまでこの場で見せて解説をするだけでという条件を付けている。
さすがに貸し出すことはできないからね。
そして今日の【神通】タイムもあるし、明日は狩りに行く予定なので、22時までという時間の制限も設けさせてもらっている。
俺は既に夕食を食べて身体も拭いた後だが……
彼らはギルドの仕事が終わった後にすっ飛んでくると言っているので、まず何も食べずにそのまま来る可能性が高いだろう。
それでも見たことの無い未知の異世界産アイテム。
俺の提案に一瞬意識が飛んでいたようだったが、理解したとみるや3人共即答していたので、あの3人に喜ばれることはあっても恨まれることは無いはずだ。
一つだけ、見せてもしょうがないものは伏せさせていただくが、それ以外は全て公開して分かる範囲の解説をしてあげよう。
――コンコンコン
「ロキ、ヤーゴフだ。入っても良いか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
そういってドアを開けると、ヤーゴフさんとアマンダさんの2人が入口に立っていた。
「あれ? ペイロさんは?」
「ペイロは屋台でいくつか食べられる物を買いに行っている。時間が惜しくてそのままこちらに来てしまったからな。後ほどこの部屋に来るだろう」
「はははっ、彼がお使いに行っているわけですね」
「一応多めに買ってくるよう伝えておいたから、ロキも必要なら食べてくれ」
「ありがとうございます」
そんなやり取りをしながら部屋の中に迎え、一つのベッドの上に乗せている鞄と、一応と思って用意したスーツを手で示す。
「こちらが僕がこの世界に飛ばされた時に身に着けていた物、異世界の品物になります」
「最初にギルドへ来た時はまさにこの格好をして、この鞄を持っていたわよね。もう懐かしく感じちゃうわ……」
「そうですね。あの時は宿すら取れず、右も左も分からない状況でしたから……」
「その状況からよくもまぁ、この短期間で期待の新人と呼ばれるまでになったものだな」
「ただ必死に魔物を倒しているだけですけどね」
言いながら俺は2人が注目する鞄を開ける。
「直接手に取っていただいても結構です。何か気になる物があれば言ってください。分かる範囲で解説しますよ」
「これはギルドの保管庫にあった板と同じ物か? 少し形状が違うようだが?」
「あぁそのスマホは同じと言えば同じですけど、こちらの方が新しい物になりますね。ここにあるレンズとか、違いがいくつかあると思います」
「なるほど最新型か……ちなみにこれは動かせるのか?」
「ん~試してはみますが無理でしょうね……もうこの世界に飛ばされて半月以上は経ちますから、たぶん電池は切れているはずですよ」
そう言いながら切っていた電源を入れ直すが、やはり画面は真っ黒のままで起動することは無かった。
結局使えないまま終わったなぁハイテク機械。
「その動作をして、電池というものがあったとしたらどう動くのだ?」
「この画面に色々と表示されて指で操作するんですよ。と言っても口頭だとかなりイメージが付きにくいと思いますけど」
「この薄い板に色々と出てくるのか。摩訶不思議な物だが……それだけ高性能ということなんだろうな」
「ですね。ちなみにこちらの長細い方が、このスマホという物の前時代に広まっていた物です。電話という機能に特化しているタイプですね」
「先ほどは聞きそびれたが、電話というのはどういったものなのだ?」
「えーと、例えば今買い出しに行っているペイロさんも電話を持っていれば、ここにいる僕とペイロさんがこのような機械を使って直接話すことができたりします。見えない遠くの人と話す媒体を電話と思ってもらえればいいですね」
「ふむ……所持している者はかなり少ないと聞くが、スキルの【遠話】と同じようなものか?」
「どうでしょう。その【遠話】というのが分からないので判断が付きませんけど、電話なら国を跨いで遥か遠くの相手と話すことも可能です」
「なんだと……? そんなに遠くでもか……となると、【遠話】なんかとは別次元の性能だな」
「ロキ君! この四角いのは何!? 押したら何か出てきて怖いんだけど!!」
「え? あ、あぁそれは電卓という物です。えーと、難しい計算を代わりにやってくれる物だと思ってください」
「は? この中に何かがいるの?」
「違いますよ。説明するとややこしいですけど……二進法という0と1の数字に全てを変換して計算するようにプログラム……って言っても分からないか。まぁそう組み込まれているんですよ。なので人ができる暗算の範疇を大きく超えた計算を瞬時にやってくれます」
「す、凄い……まさに国宝級アーティファクトじゃない!」
「ん? アーティファクト?」
「あぁ、この国では私達が保管しているあの3つの遺品をアーティファクトと呼んでいる。当時のギルドマスターが国に報告し、その報を受けて異物関連に知識のある私がここへ配置されたというわけだ。しかし、こうして動く物をマジマジと目にするのは私達も初めてだな」
「あの腕時計も発見当初から動いてなかったんです?」
「あぁ。形状からおおよそ時計と同じ用途だろうという判断はできたが、持ち込まれた時には既に停止していた」
「なるほど。ならこれも一応動く物ですよ。懐中電灯と言います」
「む? 小さいが……結構重いのだな」
「そうですね、結構丈夫なんで、これでゴブリンを殴ったりしてました」
「鈍器としての役割なのか?」
「いえいえ、このボタンを押してみて下さい。あっ、人には向けないでくださいね」
「ぬおっ!! なんだこれは!? 光魔法でも組み込まれているのか!?」
「そんなわけないですよ魔法が無い世界なんですから。電気とそれによって発光するLEDという物が組み込まれています。用途は暗がりを光で照らすという……まぁ魔法にもありそうな機能ですね」
「確かにそのような魔法はあるが……いや、しかしこの光量は凄まじいぞ。とても目を開けていられない」
そう言ってヤーゴフさんは目を細めながら、変な顔をして懐中電灯の先端を見ようとしている。
まぁ直接見るのは無理だろうな……目がおかしくなってしまう。
「最悪目が失明する可能性もあるので止めた方が良いですよ」
「お待たせしました! 色々と屋台で買ってきましたよ!」
「やっと来たか」
「ぎゃーっ!!! まぶしっ!! まぶしーーーーーーっ!!!!!」
「げっ!! ヤーゴフさんそれ人に向けちゃダメ! ペイロさんの方に向けちゃダメーっ!!」
「む? あ、済まない反射的に手もそちらに向いてしまった。ペイロ、大丈夫か?」
「ダメです! 僕はたぶん死ぬんです! やっぱり異世界は危ないんです!!」
……ペイロさんが俺に恐怖の視線を向けていたのも、何かトラウマがあるのかもしれないな……ビビり方がちょっと異常だ。
「いやいや、武器じゃないんですから大丈夫ですよ。それにちょっとだけですし。僕も昔よくやられましたから」
「へ? あ、あぁ……まだ何か目がおかしいけど見える……良かった……」
「ねぇねぇロキ君。これって紙よね? 羊皮紙にしては随分と綺麗で真っ白だけど、別の製法で作られているの?」
「それはですね。原料は木材でして――………………」
こうしてそれぞれが、串肉やパンに何かを挟んだサンドイッチのような物を食べながら、未知のアイテムに興味を抱き、俺の覚束ない説明に感嘆の声を上げる。
ペイロさんは宿屋の女将さんのところで飲み物を買ってくるという……新たなミッションを頼まれていたので、あまり直接手に触れたりはしなかったが。
それでも俺が所持している物を一通り見せ、何がこの世界でも再現できそうか、または近い物が作れそうかと、俺も含めて4人は頭を捻って考え込んだ。
そしてその中で、最も再現できる可能性の高そうな物。
それは満場一致で決まった。
それは――
「ボールペンというものは、構造さえ分かれば何とかなりそうな気がするな」
「えぇ。こうやって分解すると中が見えて分かりやすいわね」
「これがあれば相当書き物も楽になりますよ。インクを足す必要が無いなんて画期的です!」
「実際はこの筒の中にインクが入っているので、無くなれば補充が必要ではありますけど……それでも今ある羽根ペンなんかと比べてたら、数段階は使い勝手が良くなるでしょうね」
「ふむ……中が空洞の筒……植物の茎にこのようなものがありそうな気はするな」
「インクは既にあるわけだし、この先端部分は鉄などの鉱石類で代用出来そうよね?」
「ですね。周りはプラスチックという素材なのでまず無理ですけど、その部分は木材なんかを加工すれば十分いけると思いますよ。なのでポイントは安定してインクが出ること。逆さにした時にインクが漏れないよう、この筒の部分はインクを入れたら油分か何かで蓋をしてしまうこと。そしてインクを入れておく筒は使い捨てになると思うので、安定して手に入る素材を選ぶこと。ここら辺が解決できれば、こんな押して先端を出したり引っ込めたりなんていうのは後の話で良いと思いますから、その分完成も早くなると思います」
「素晴らしいな……書き物なんて大半の仕事に関わることだ。これが庶民の手にも十分に行き渡れば、勉学に励む人間だって多くなることだろう」
「参考程度に、ロキ君の世界だとこのボールペンというものはいくらくらいで売っているの?」
「ピンキリですけど、今見ているこれは安いですよ。パン1個分くらいの値段です」
「「「……」」」
「機械という物を使って人が直接触れずに大量生産してますからね。なのでこちらの値段はあまり参考にしない方が良いと思います」
「そ、そうよね……さすがにこんな便利な物がパン1つと同じなんて言ったら、誰も作ろうとはしないわ」
「あくまで需要と供給のバランスですから、供給が安定しない最初のうちは高くなるのも仕方ありません。なんだってそんなものですから。試行錯誤して安定した作り方が確立できれば生産量も自動的に増えるでしょうから、そうしたら値段も徐々に落ち着いてきて庶民にも行き渡るようになってくるはずですよ。お金を持っている層に高く売りたいなら、そういった物を別に作れば良いと思いますし」
そう言って手渡したのは、同じボールペンではあるけれど高級なタイプ。
俺が主に契約書を書く時、お客さんに貸し出す用のボールペンだ。
「こちらは同じような大きさなのに随分と重いのだな……」
「なんだか高級感がありますし、先ほどの物と比べると滑らかというか書きやすい気がしますね」
「これでパン300個分くらいです。似たような機能でも、高級感を持たせれば魅力を感じて買う人はいます。だったら浸透してきた頃にこういった物を開発すればいいんですよ。良い鉱石を使うとか、デザインを洗練させるとかしてね」
「……ロキは商人としても十分やっていけそうだな。ギルドマスターの私が言うのもおかしな話だが、ハンターに就いたことは失敗ではないか?」
「はははっ、良いんですよ僕は魔物を狩るのが好きでやっているんですから。物を売ったって僕自身は強くならないでしょう?」
「ふっ。確かにな……本当に今日は素晴らしい日だ。改めて感謝する。ありがとうロキ」
「いえいえ、参考になったようであれば何よりです」
「それでだ。ここまでしてもらえるとは思ってもみなかったのでな。お礼と言ってはなんだが……ロキはこの世界にいる異世界人に興味はあるか?」
「えっ?」
「あくまで私が知っている範囲でだが、ロキが必要ということなら包み隠さず話しても良いと思っている」
まさかの話だ。
いずれ女神様に聞こうかと思っていたが、下界との直接的な接触ができない以上、情報も自ら転生させた異世界人、かつ鮮度の低い内容が中心になってくるだろう。
しかし今目の前にいるのは、情報が集まりやすそうな立場にいるギルドマスターだ。
しかも「出る杭は打たれる」なんて、一言ではあるけど誰かから日本語を直接教わったとしか思えない人。
ならば答えは決まっている。
「ぜひ、お願いします」
俺はそう言って頭を下げた。
誤字報告ありがとうございます!
有難く修正させて頂いております!