Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (502)
489話 騎士科のロッキー
あれから約3週間。
既にガルムの地図を作り終えてしまった俺は、終日砂漠で、それこそ通算のチャレンジ回数が50回を超えるくらいには狩場探しを繰り返していた。
しかし一辺倒というわけではなく、その間マルタのレイモンド伯爵が視察も兼ねて訪れ、ベザートを少し案内したり。
リルからの【神託】があって戻ってみると、ジュロイの王様とルッソ君がお忍びで、コソ泥みたいな動きをしながら買い物に来ていたり。
それに夜は依頼遂行のための調査や『説得』の方法を試していたので、方々飛び回りながらなんだかんだと忙しい日々を送っていたわけだが……
「入学生の方は、そのまま真っ直ぐお進みください~」
ようやくこの日がやってきたかと、濃いグレーの真新しい制服を着用し、周囲の人達に目を向けながら入場門を通過していく。
話に聞いていた通り、親――、というか大人が同伴している生徒もそれなりに多い。
この光景を見て、
「なんで私も連れて行ってくれないんですか~!?」
昨晩、報告会のついでで学院に入学して勉強してくると伝えた時、半べそになりながら訴え掛けていたフィーリルの顔が脳裏を過る。
寮が絡むからだと思うけど、入学時には親も同行するケースが多いという情報をなぜか掴んでいたフィーリルは、自分も自分もと、それはもう必死にせがんでいた。
たぶん、憧れでもあったのかな。
それを止む無く断るしかなかったことに、改めて罪悪感が生まれてしまう。
でもしょうがない……これはしょうがないのだ。
フィーリルを連れていけば、もう確実に、これ以上ないほど目立つ。
あんな母親、どこを探したっていないのだから。
それにここでは、俺が異世界人だとバレてはいけない。
仕事を引き受けた状態での入学に当たり、双方見解一致の上で決められたルールが”素性を隠すこと”だった。
まず何度か『説得』を試みた感触として、生かして解決に導くというのは想像以上に難しく、とても数日でどうこうできる問題ではないことが既に分かっていた。
それに確定と疑惑、恣意的か故意的かでは損害を被った側としても受け止め方が違う。
ヴァルツを潰した時は、蓋を開けてみればマリーが大きく絡んでいた。
フレイビルでロッジの敵を討とうとした時も、裏で暗躍していたからマリーの様々な悪事が結果的に潰れたというだけで、最初からあの女を狙い撃ちして潰しに掛かったわけではない。
そもそも名前が『鍛冶工房バルニール』であり『レサ奴隷商館』の時点で、マリーの名前なんて表に出ていないわけだしね。
しかし、今回は違う。
既に周知された親アルバート派の説得――つまり確信的にマリーの邪魔をするわけで、直接アルバートやマリーに攻撃を加えるほどではないにしても、間接的な攻撃として敵対の意思を示すことになるわけだ。
となれば戦争リスクは増すわけで、もう少し方々からマリーの悪事であり、繋がりであり、収入源をそれとなく潰して奪っておきたい俺としては、今回身分を隠して事に当たることを前提に考えていた。
安易に殺すことはできず、ロキという名を使っての脅しも行えないとなれば、そりゃ説得も難儀するってわけである。
それにガルム側も、副学長のカタツムリが言っていたように大きな混乱を招くのは避けたいし、学院内にもアルバート王国出身の生徒は多くいる。
既に在籍している生徒を排除することなど難しく、生徒数の減少からそのような手立てを取りたくはないようなので、余計な情報漏洩を防ぐという意味でも、生徒はもちろん大半の教師陣にすら俺という存在は明かさない方が良いだろうと。
話し合いの末、身分を伏せるという方針で俺は活動することになっていた。
「はい、騎士科希望のロッキー様ですね。寮の希望は無しでしたら、そのまま右手の12番校舎3階へ。案内が出ていますので4番の部屋に向かってください。部屋の机が埋まりましたらすぐオリエンテーションが開始されますので、再入学の場合でもそのまま部屋の中で待機するようにしてくださいね」
「分かりました」
大きな敷地を移動し、言われた番号の部屋に到着すると、似たような年齢の学生達が30人くらいおり、再入学組なのかな?
新品には見えない制服を着崩した生徒達が、部屋の一角で談笑しながら自己紹介まで始めていた。
ん~大半は人間っぽいけど、少しだけ獣人も混ざっているんだな。
そして50ほどの席が埋まったところで始まるオリエンテーションを、早く終われ終われと祈りながらやり過ごす。
どうやら最初のクラス分けは1ヵ月に1回、計3回試験を行なった1期分の平均点で決めるらしく、それまでの期間はヒヨコ組として、騎士科で固められたこの団体で多くの授業を受けていくらしい。
そして、大事なことだと強調しながら、この学院内では身分差など関係ないと教師のおじさんは言っていたけど……
「オルトラン王国、バルバロッド侯爵家が次男、リードル・バルバロッドだ。家督を継ぐ可能性もあるが、認められた武の才を今は伸ばすべく――」
「オデッセン王国、アゾット子爵家の次期当主、ラライン・アゾットです。父は4ヵ国で店を構えるプラチナランクの商人でもありまして、特に『命脈のジルコニア』で得られるダンジョン装備には強く――」
「テリア公国、国内傭兵ランク2位であるカームの息子、ケニッグという。父を超すため、そして自分がこの歳でどれほどの立ち位置にいるのかを確認するために入学した。手合わせはいつでも――」
なぜだろうな。
教師の指示で始まった自己紹介は、誰も彼もが真っ先に出してくるのは家柄や親自慢ばかり。
話を聞いていると、コネ作りや名前を売ろうとしている連中も多いように感じる。
まぁ大陸中から親が金持ちの、しかも似たような年齢の令息令嬢が集まってくるのだから、社交場の要素が強いのはしょうがないことなんだろうけど。
でもそうなると、こういう立場の人はツラいよなぁ……
「あ、あの、レフィです。領主様から才能があるって、それで特別に入学させてもらって……これっていうのはないんですけど、皆さんよろしくお願いします」
自信無さげに下を向き、肩を窄めた少女。
周囲の視線が名乗りと同時に様々なモノへと変わる。
その光景を何も気にせず、教師はただ眺めているだけだし……
先ほど言っていた身分差とは、教師陣に歯向かうなという意味での言葉だったのか?
そう勘ぐってしまうほどの体たらくっぷりに、見ていてイライラが募ってしまう。
まともなフォローもできないなら、立場が悪くなりかねない自己紹介なんてさせんじゃねーよ。
「次」
「ロッキーです。平民出で親もいませんし、皆さんのように自慢できることは何もありません。以上です」
真っ直ぐに教師を見据えると、中途半端な姿勢のまま目を見開いて硬直しており、伯爵やら侯爵という名前以上に教室内がざわつく。
空気のように過ごそうと思っていた10分前とは正反対の状況になってしまっているが……
どうせ授業には出ないのだ。
後悔は一切ないし、ここにいる人達と接点を持つこともまずないだろう。
そして――。
「本日はこれで以上だ。ここからは希望者のみ学内食堂で昼食後、学院内の施設を案内していく。希望者はそのまま教室で待機するように」
この言葉を聞いて、真っ先に教室を飛び出す俺。
魔力を放つこともできない状況ではろくに修行もできず、ステータス画面を眺めて今後の計画を練り続けるだけの時間が辛過ぎたというのもある。
が、それ以上に皆が昼飯を食おうとしている今のうちに場所取りをする気持ちで、学院内のどこかにある図書院へと向かった。