Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (524)
511話 意外な決断
喧噪に包まれ、兵や役人が慌ただしく駆けていく姿の目立つ宮殿内部。
その中を案内の兵に連れられ進んでいくと、奥まった場所に存在していた荘厳な雰囲気の漂う部屋へ通される。
中には数名の見知らぬ男達。
身形からしてこの国の重鎮だろう。
「お待ちしておりました、ロキ王」
そして部屋には、今声を掛けられたハーゼンさんと、目的のウォズニアク王もいた。
「無事生徒達も学院に戻りましたよ」
「ふむ……予想はしていたが、やはりハンス殿は顔を出してはくれないか」
「ですね。その代わりにこれを、預かってきた本人からの手紙です」
僅かながら落胆した様子で受け取るウォズニアク王。
まぁしょうがないか。
一度は断られた相手だとしても、急場に手を貸してくれたとなれば誰だって期待くらいするというもの。
今だって一時的に凌いだというだけで、東に対しての備えもしていかなければならないのだろうし、これからがガルムにとっての正念場。
そう思っていたが、ウォズニアク王が手紙に目を向けて暫し――
「……ッ!?」
なぜか急に目を見開き、驚愕の表情を浮かべながら固まっている。
ん?
なんだ、その反応は?
俺との借りを返しに来たという程度の理由で、そんな表情になるとは思えないんだが。
しかしウォズニアク王が背後で険しい表情をしていたハーゼンさんに手紙を見せれば、そのハーゼンさんまで声を漏らすほどに驚いていた。
いやいやいや、何が書かれてんだよ、ソレ。
「あの……僕もそれ、見ていいですかね? ハンスさんには見ていいよと言われまして……」
人様に宛てた手紙の中身を見ようとするのもどうかと思うが、こんなの気になってしょうがない。
「それは構わぬが……ふふ、ふははっ……ロキ王には本当に感謝してもしきれんな。この繋がりがなければ、間違いなくガルムにこれほどの転機が訪れることはなかった」
「……」
驚きと喜びが混じったような、信じられないといった様子で頭を軽く振るウォズニアク王。
何がなんだか分からないまま差し出された手紙に目を向け――、そしてようやく、二人が何に強く反応を示したのか理解する。
途中までの内容は至ってシンプルなものだ。
言われていた通り、突如巨竜を引き連れてこの王都へ訪れた理由と、実際にこの地で行なったこと。
それに対し詫びは入れつつも、継続的にガルムを支援する気はないという旨がはっきりと記されていた。
俺が想像していた内容そのままと言ってもいい。
しかし、後から加えられたように見える、最後の一文。
「――自分がこの地を訪れ、そして行なった事実は、公にしても構わない、ですか」
「ハンス殿の考えまでは分からぬが……ガルムにとって、この言葉がどれほど大きな意味を成すことか」
「……確かに、そうでしょうね。あれほど派手な登場をしたのですから、噂くらいは黙っていても広まるんでしょうけど、本人の同意があるとなしとではまったく意味が違う」
なんせガルムという国が本人の許可付きで、”ハンスさんに護ってもらった”と他国へ伝えられるのだ。
それが今回限りかどうかなど、外の人間からしたら分かりようがない。
このように文面を残した以上、ハンスさんも望んで自分からは言わないだろうし……
マリーの手の者が内部に紛れているという懸念材料はあるにしても、事実をそのまま公言するだけで、ガルムは『異世界人の守護』という虚構の防壁を得ることになる。
そしてこのような流れになれば、当然俺にも――、そう思っていたところで言葉を発したのは、意外にも後ろで控えていたハーゼンさんだった。
「ロキ王、差し出がましいことは重々承知の上でお願い申し上げます。どうか、ロキ王がこの王都を護られたという事実も公にさせてもらえないでしょうか?」
「……ハンスさんがこんなことを言い始めたら、そうなりますよね」
「まさか想定していた以上の話が降ってくるとは思いもしませんでしたが、先ほどまでこの件に関して協議を重ねていたのです。この一件、必ずしも東部との戦争に発展するわけではないと」
「パルモ砂国とテリア公国が攻めてこない未来ですか」
「左様です。もし私が隣国の軍部を任されているとしたならば、仮に噂程度であったとしても、ロキ王とハンス殿という二人の異世界人が守護された国など、軽々しく攻めようとは思いません。少なくともその噂の真偽を確かめるために多くの時間を割くことでしょう。そうしなければ返り討ちに遭い、自国が滅ぶ未来しか見えないからです」
「……」
「噂でもそれほど慎重になるのですから、国として公言され、かつ当の本人から異論の声は上がらず、その王都は防壁と呼ぶには巨大過ぎる断崖が東部を囲うように覆っていたとすれば――私ならば仮に王の勅命であろうと、国の未来と民の命を優先して固辞することでしょう。結果、自分の首が飛ぼうともです」
うーむ。
ハンスさんが何を狙ってこのような承諾を自ら示したのか、はっきりしたところまでは分からない。
が、自分に置き換え、果たしてこの同意にデメリットが存在するのか思案しても、いまいちコレといったものは浮かんでこなかった。
強いて挙げれば、必要以上の繋がりから属国や同盟国まではいかないにしても、本来生まれることのなかった責任が生じることくらいだろうか。
しかし、それも――。
「ハンスさんと同じで、あくまで今回行なったことに対してのみ。仮にガルムが今後窮地に陥ろうと、なんら僕が責任を負うものではない。それでいいわけですよね?」
「もちろんです。それだけでもガルムにとっては大きな希望になりますから」
そう言いながらハーゼンさんはウォズニアク王に視線を向けると、ウォズニアク王は一つ頷き、引き継ぐように言葉を続ける。
「ここまで自国のみで対抗できるようお膳立てをしてもらったのだから、これ以上ロキ王に何か求めるべきではないと分かってはいるが、できれば争いなど……東の者達を戦火に巻き込みたくないというのが本音なのだ。直接的な庇護や助力をこれ以上求めるつもりはない。国の泰平を目指すため、ロキ王に護られたという事実だけでも公にすることを許してほしい」
重鎮の前だというのに、机へ額を擦り付けるように頭を大きく下げるウォズニアク王。
その姿を目の当たりにして、これ以上慎重に考えてもしょうがないかと自分の中で結論付ける。
実際は東の二国が攻めあぐねたとしても、大元のアルバートでありマリーがどう動くかまでは分からない。
でもこの選択が戦争回避の可能性を大きく上げることは間違いなさそうなのだ。
本を読み終えていないのに、また争い事で周囲がバタついても俺が困るだけだし、戦争を嫌う女神様達にとっても、きっとこの結果は朗報になることだろう。
「僕の場合は本の複製という目的があるので、ハンスさんとは少し状況が違いますけど……まぁ僕だけダメって言って断る強い理由もないですし、必要があれば公にしてもらっても構いませんよ。誰かさんが僕の名前を叫び散らかしたせいで、あの時、図書院にいた生徒にはもうバレてしまいましたし」
「あ、あの時はこれ以上ないほど緊急の事態でして……!」
「それより僕がここに来た目的は分かっていますよね?」
俺に明らかな損がないなら好きにしたらいい。
それより手紙の配達はあくまでついで。
俺は今、傭兵としてここに来ているのだ。
本も大事だが、ある意味これのために頑張ったと言ってもいいのだから。
「おぉ、そうであったな。この奥がガルム聖王騎士国の宝物庫だ。例のモノもここに収めておるので、どれ、わしが案内するとしようか。他にも気になるモノがあれば言ってくれ、ここまでしてもらったのだから奮発するぞ?」
もうなんですか、その魅力的な言葉は。
さすがにこれだけ被害の出ている状況で、金目の物をがっつこうとは思わないけど、そんなことを言われたらもう1つか2つ、目ぼしいモノを見つけたら強請ってしまおうか。
むふふ……
思わず顔がほころぶのを我慢しながら、王やハーゼンさんと共に宝物庫の中へ足を踏み入れた。