Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (526)
513話 2つ目
騒動があった翌日の下台地。
朝風呂に入りながら色の異なる綺麗な玉を見比べていると、背後から聞き慣れた低い声が聞こえてくる。
「今日はのんびりしているのだな」
「あ、おはようゼオ。やっと取り掛かっていた仕事が一段落ついてさ」
いつもなら朝方まで幽霊役をやりつつ、砂漠でSランク狩場の掘り当て周回。
その後に【昼寝】スキルを使用して3時間ほど睡眠を取ったら、慌ただしく図書院へ向かっていたのだ。
作ってもらったサンドイッチを齧りながら風呂に入ることも多かったため、確かにこれだけのんびりとした朝は珍しいと言える。
まだやることもあるし様子は見に行くつもりだけど、今日なんて早く向かったところで図書院が開いていないだろうしなぁ。
「そうか。ゆっくりできるのなら、そろそろ資材倉庫の整理でも……む? これはまた、随分と不吉なモノを手にしているな」
「えっ? もしかしてゼオは知ってるの?」
考えてみれば、ゼオとは今までこの話をしたことがなかった。
不吉という言葉は気になるが……
もしかしたら、何か有力な情報でも持っているのでは?
期待感を膨らませ、前のめりになりながらゼオへ視線を向けると、目を細めながら答えてくれる。
「ふむ……我が知っているモノとはどちらも色味が違うように見えるが、その内包された魔力量の多さは『魔宝石』だろう?」
「そうそう、請け負った仕事の報酬に貰ってさ。今集めてるんだけど、違いが分かるってことは、もしかしてゼオも過去に魔宝石を入手したことがあったりする?」
「1度だけな」
静かにそう告げたゼオの表情を見て――、あぁ、これは違うなと。
途端に自身の昂りが薄れていくのを感じる。
俺にとっては垂涎もののイベントアイテムだが、本来ならば新しい情報だと、浮かれながら話す内容ではないのだ。
過去に倒したであろう当事者が相手ならば、尚更に。
「……その時はかなり被害が出たの?」
「ああ、突然湧いて出た奇怪な魔物に何万という規模の亜人達が殺された。救援の報が入り現地へ辿り着いた時には、既にかなりの広域が侵食されていてな……生きている者など一人も見かけなかったくらいだ。あれほど厄介な魔物を我は他に知らない」
「そっか……だからコイツは不吉なわけか」
「災いの根源とも呼ばれる魔石だぞ? 所有体が一度この地に現れれば多くの死者を生み出し、天災を上回る規模で周囲を急激に荒廃させる。我の時だけでなく、過去の伝承でもそう言い伝えられてきた」
「ごめんね、嫌な記憶引っ張り出しちゃって」
「いや、それは構わぬが……不吉というのはそういう意味だけではない。我が心配しているのは、どちらかというともう1つの方だ」
「ん? どういうこと?」
「ソレは我らにとって大した使い道もない、過去の惨事を後世に伝えるための象徴的な道具に過ぎなかったが、人間共――プリムスの連中はその風変りな魔石を魔宝石と呼び、執拗に狙っている節があった。だから亜人達の間で広まったのだ。災いを呼ぶ、不吉な魔石とな」
「当時の人間が……」
その理由はおおよそ分かる。
今だってこの魔宝石を無限燃料にして活用しようとする動きがあると、マルタのギルマス、オランドさんは言っていた。
ということは今よりも文明が発達していた古代の時代ならば、実際に活用方法が見出されていた可能性は高い。
そして当時の人間達と争ったゼオならば、この魔宝石に強い警戒を示すのも当然か。
「まず言っておくと、俺は既にこの魔宝石の使い道を理解して集めようとしている」
「ふむ……」
「でもそれは――、まぁ、過去のプリムスが実際何に利用しようとしていたのかは分からないけど、誰かを攻撃するために集めているわけじゃない。というか、ゼオの望みにも一歩近づける可能性があるんじゃないかと思っている」
「なに? どういうことだ?」
「ん~口で説明するのも難しいんだけど……念のため試そうと思っていたし、なんなら今から行ってみる? その場所に」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
かつて1度だけ訪れた、パルメラ大森林の中心地。
俺とゼオ、そしてゼオが行くなら自分もとダダを捏ねたカルラの3人で転移すると、例の黒いマンホールは場違いな雰囲気を醸し出しながら、変わらずその場所に存在していた。
「ほう、これは異様な光景だな……」
「ここが森の中心部なの?」
「そそ、中心っていうか、人でいうヘソみたいな場所かな?」
「へ~ロキもよくこんなの見つけたよね~」
「魔物の生息域を正しく理解した上で次を目指せば、自然と見つけられるようにはなっていたからね」
被っていた土を風でどかし、中央の窪みに2つの魔石を転がすと、以前と同様――いや、以前よりも強く光りながら伸び始めた線は、周囲に存在する6個の穴に届きはしないまでも少し近づいていた。
「よしよし、これで新たに入手した2つ目も本物なのは間違いないかな」
「ふむ。ロキの言う通り、これは間違いなく反応を示しているな。魔宝石が複数個必要になる仕掛けか……確かに興味深い」
「でしょ? まずは周囲6ヵ所の穴に、この伸びた線を到達させることが目標かなって思ってるんだ」
「なるほどな」
「ただ到達できたとして、そこから何が起きるかはまだ分かっていない。何かしらの情報が拾えればと思って本も漁ってるけど……ゼオとカルラはなんか分かったりしない?」
一応期待も込めて話を振ってみるが、二人とも明らかに初見という反応を見せている時点で期待は薄い。
「こんなのがあるなんて、今まで聞いたこともないよ?」
「うむ。我もこのようなモノが存在することを今初めて知ったからな……だが、一つ」
「ん?」
「ロキよ、この黒い円盤が同胞の消息に繋がるという線は薄いのではないか?」
「一応、理由は?」
「その顔はロキも気付いているだろう? この黒き謎の円盤は、魔人種が消息を絶つよりも前に存在している可能性が高い。反応を示す魔宝石は我らが生きた時代にもあったわけだからな」
「そうだね。魔人種のために生み出されたモノではないと思うよ」
この円盤を設置したのはフェルザ様だ。
となると人が生まれるよりも前――、それこそこの世界が生まれたのと同時に設置されていた可能性すらあるわけで。
想定されていた魔宝石の使用用途がこのマンホールに限定されているのなら、仮に起動できたからと言って、魔人種とすぐにご対面という可能性は低いのかもしれない。
だが――。
「それでも何かしらの切っ掛けにはなるんじゃないかなって、俺は思ってるんだ」
「ふむ……」
「ゼオはかつて同族を見つけるために、広域を自分自身で探し回ったわけでしょ? でも魔人種の痕跡すら発見することはできなかった」
「その通りだ」
「そしてここに、そのゼオも知らない用途不明の何かが設置されていて、この何かが魔人種との繋がりを明確に否定できるほどの根拠は、俺もゼオも持ち合わせていない」
「……」
「結局さ、俺は当然として長生きのゼオもカルラも、まだまだこの世界の知らないことっていっぱいあるんだよね」
「確かに、そうだな」
「その一つ一つを解明していけば、次の新しい扉が開けて、また進めば次の扉が開けて……いつか扉の先にある道が一つに繋がることもあるだろうし、そうして進んでいく中でいずれ答えに辿り着けるんじゃないかなーって」
「ふっ……そのような考えだから、いつぞやも我に見つけられると言ってのけたわけか」
「そうそう、元いた世界じゃフラグっていうんだけどさ。俺、そういうの見つけるのは結構得意なんだ」
そう言ってニヤリと笑うと、ゼオも自然と笑みを零す。
「それにね、これは根拠も少なからずある勘ってヤツなんだけど……」
「む?」
「たぶん、ここをクリアできれば、相当答えまでは近づけると思うよ」
なんせ、この問題はあまりにも大きく、そしてハードルが高い。
――人類未踏とされる大森林の最奥とも呼べる中心地。
――説明書きなど何もない、神が設置した謎の円盤。
――動かすための大前提が、現状最難関とも呼べる裏ボスの複数体撃破。
現状分かっているだけでもこれだけの関門が待ち構えているのだ。
こんなのゲームであれば終盤も終盤なのだから、魔人種の失踪がこの世界にとって大きな問題であるほど何かしら繋がる率は高い。
そう告げると、ゼオは感心したように頷いていたが――。
「これさー、作った人って絶対師匠が苦手なタイプだよね」
唐突に意味の分からない言葉を発したのはカルラだった。
すぐに興味を失ったのか、円盤の上に土を掛けて遊んでいたのは分かっていたが、今は何かを穿るように円盤に指を立てている。
「え?」
「カルラ、何を言っているのだ?」
「見てよこれ。線の太さが違うし、まず真っすぐじゃないし」
「「……」」
カルラがスッと立ち上がったことで隠れていた部分も視界に入り、何を言わんとしていたかがおおよそ掴めてくる。
中心から延びる6本の線。
この溝にカルラはセコセコと土を詰めて遊んでいたようで、今は茶色く伸びる線が円盤の上には出来上がっていたわけだが。
「んん? 2本だけ、少し線が太い?」
漆黒と呼べるほど異様に黒いため気付かなかったけど、溝に土が入ると2本だけ茶色い土の線が太いようにも見えてくる。
「それにこの1本だけ僅かに左へ逸れているな。先に延びる円の中心を捉えていない。ふん……なんと雑な作りか……」
「でしょ~? 師匠こういうの嫌いだもんね。きっとすんごい適当な人が作ったんだよ」
「……」
整理整頓好きで几帳面なゼオだ。
あからさまに不快な表情を浮かべているその気持ちもなんとなく分かるが、俺はゼオのそれとは別種の気持ち悪さに襲われ、自然と全容を確かめたくて空を舞う。
すると漆黒のキャンパスに浮かび上がったソレは、5時55分を示す時計のようにも見えてしまった。