Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (527)
514話 おまえか
「分からんなぁ……」
あの円盤を生み出したのが神様だと知っていたからこそ、意図的とも取れてしまったあの歪な作り。
だとしたらなぜ、フェルザ様はあのような不出来なモノを生み出したのか。
故意であれば意味もあるのだと思うが、それがまったく分からず、悶々とした気持ちのまま作業を進める。
パッと上空から見た時は、一目で分かってしまったために強い印象を持ってしまったものの、実際のところは時計で言えば1分とか、その程度の僅かなズレだろう。
だが中心から均等に分かれていると思っていた6本のうち、1本だけが少し歪んで伸びていることは事実であり、その1本と逆側に延びる1本だけが他の4本よりも幅広く溝が彫られていた。
だから長さに違いはなさそうなのに、長針と短針を示す時計を思わず連想してしまったわけだが……
「僅かなズレ……6本のうち2本だけを太くする意味か……」
アリシアがこの事実から何かに気付いてくれれば良かったけど、念のために報告しても唸りながら考えるばかりで、答えに辿り着いた様子はまるでなかったからなぁ。
まぁ今回でより謎が深まってしまった部分もあるマンホールだが、一方でゼオとの会話の中から新しく分かったことも出てきた。
それは裏ボスの行動範囲だ。
「おぉ、ロキ王様、ようやく光が……! 反対側が見えてきましたぞ!」
ゼオはかつて自身で魔宝石持ちの魔物を一体始末したほか、他種族との繋がりから他にもいくつかの討伐事例を知っていた。
その中には一部の部落に古くから伝わる伝承も含まれており、全てが真実と言い切れるようなものではないみたいだけど、どの内容にも共通しているのは、出没した地域一帯が放っておけば甚大な被害を受けるということ。
そう聞くと当然とも思えるし、恐ろしくも聞こえてしまうが、しかし逆に言えば、その一帯から極端に大きく動かないであろうことも分かってきたのだ。
つまり何かしらの条件が整ってしまい、不意に裏ボスを湧かせてしまったとしても被害は一定の範囲内で留まり、広域とは言っても国そのものや隣国、はたまた大陸全土が未曽有の危機に晒されるわけではないと。
話の共通点からそう予想がついた時、かつてリルが魔物の被害で国が丸ごと潰れたような事例はないと言っていたのを思い出し、そういうことかと一人納得してしまった。
もちろん湧かしたのなら責任をもって絶対に倒す。
そのくらいの覚悟で挑むのは当然だが、万が一失敗した時にそのまま好き放題移動され、各所で甚大な被害が広がり続けるわけではなさそうだと分かっただけでも、やはり安心感は違う。
もし倒せずに撤退した場合、そのまま裏ボスはその地に出現し続けたままなのか、それとも周囲をボロボロにしたらまた条件が整うまで消えてしまうのか。
まだまだ分からないことも多いが、その辺りはこれから自分自身で試していくしかないだろう。
「ロキ王様? もう開通されましたぞ?」
ゼオがかつて得た魔宝石は、収納したまま魔力が尽きた時にそのまま消失したという。
これは俺にとって残念な知らせだけど、代わりにゼオが対峙した裏ボスの特徴と、おおよその出現場所を教えてもらえたのだ。
1万年という時を経て、再びその地を訪れれば湧かせることができるのか。
条件は自分で調べないといけないが、もし『再湧き』が確認できたのなら、いろいろとやり方や考え方も変わってくる。
そのサイクル次第では――
「ロキ王様! もうその辺りの壁はカチンコチンですぞ!?」
「……んあ? あぁ、すみません。ちょっと考え事をしておりまして」
おぉう、ビックリ。
黙々と穴を掘っていたというか、壁を圧縮して空洞を広げていたら、いつの間にか反対側に到着していた。
振り返ればまっすぐ伸びたトンネルの先は、市街地の景観が小さく映し出している。
うん、これだけ高さと幅があれば、馬車も十分擦れ違えるかな。
「こんなんで大丈夫そうですか?」
「もちろんでございます。わざわざ通り道まで用意してくださり、ロキ王様のご高配、誠に痛み入ります」
「いえいえ。経験上これだけ固めればまず問題ないとは思いますけど、所詮は素人が応急的に開通させただけですからね。今後も継続的に利用されるつもりなら補強するなり、そちらの王様としっかり話し合ってから活用してください。何かあっても僕は責任を取れませんから」
そう告げると、学院の管理を任されているらしい数人の役人と、学院側の敷地で俺を待っていた老齢の女性が深々と頭を下げる。
今回ガルムは、分かりやすい守護の象徴として、この絶壁をそのまま残す決断を下した。
それについてはお好きにどうぞという程度の気持ちだが、問題は侵入者を防ぐために学院の全周囲を崖で囲ってしまったことで、敷地が完全に隔離されている点にあった。
なので宝物庫にあったいくつかの装備品とトレードで、俺が簡易的なトンネル工事を請け負ったのだ。
ひとまずこれで人の往来や物資の運搬も滞りなくできそうだし、抱えていた問題の一つは解決したと言えるが。
「学院はこのまま運営できそうなのですか?」
問題はそれだけではない。
本校舎に向かう道中、横を歩く女性――この学院の学長だと言うセトナさんに問うと、疲労困憊といった様子にもかかわらず、無理に笑顔を作って答えてくれる。
「ロキ王様と、そしてハンス様にご助力いただいたことで、学院の損壊は最小限に収まっております。これで寮区に生活物資も運べますから、あとは念のために学院施設の点検と敷地内の最終確認を終えれば、3日後には再開もできることでしょう」
しかし、俺の聞きたかった答えは返ってこない。
僅かであろうと、生徒も死んでいるのだ。
関連施設がどうのというより、果たしてどれほどの生徒がこの学院に残るのか。
肝心の生徒がいなくなれば、入る金も途絶えて閉校という可能性がチラつくわけで、どちらかというとそちらの心配をしていたわけだが……
学長は、違和感を覚えるくらいその点を問題視している様子がない。
まぁ俺としては、黙々と本を複写させてもらえる場所があれば文句はないんだけどさ。
生徒は最終確認を終えるまで寮の自室で待機ということらしく、セトナさんと共に静けさの漂う校舎内へ。
するといくつもの机が並ぶ大きな部屋で、学院の職員と思しき大人達が出迎えてくれた。
王族や貴族の子供達をあれだけ抱えていたとなれば、被害の程度次第では責任問題にまで発展していたんだろうからなぁ……
セトナさん同様、顔に色濃く疲れを滲ませている人達ばかりだが、それでもどこかホッとしたような表情を浮かべていた。
「ちなみに、これで全員ですか?」
「はい、予定通り、職員は全員この場に集めております」
この言葉を聞き、ズラリと並んだ職員一人一人の顔とスキルを確認していく。
これが傭兵としての最後の仕事だ。
反乱軍との対話の中で感じた気持ち悪さと、小さな違和感。
その理由は、市街地を鎮火しながら悪党を始末していく過程でおおよそ理解していた。
当初は市街地で動く悪党どもから、背後関係やマリーに繋がる情報でも引き出せればと、その程度の気持ちだったが……
大した規模でもない商会の名や囚人を開放した傭兵以外にも、なぜかこの王都と学院に大きな混乱と被害を齎し、ガルムの掌握を狙う首謀者として
俺
の
名
前
が挙がるのだ。
しかも一人二人ということではなく、距離が大きく離れた場所でも、俺を知らない人物が俺の名を口にする。
ずっと身分を伏せていたのに、図書院で身バレした数時間後には広い王都の各所でそんな話が出てくるのだから、こんな不思議な話はない。
宝物庫の中でそのことを告げたら、王とハーゼンさんは俺に知られたくないと思っていたのか、かなり焦った様子で言い訳を並べていたが。
しかし、実際に反乱軍が到着する前からその噂が流れており、聖騎隊の士気にもかなりの影響を及ぼしていたというのだから、地味ではあるがその効果は予定通りにいけば覿面だったのだろう。
この王都全域に混乱と数多の死者を生み出したという理由で、ガルムの住民と、子供を通わせていた各国の権力者達からも恨まれる。
もしかしたらそんな大悪党から王都を救うために、親アルバート派である反乱軍が攻め入った――、そのような筋書きまで作っていたのかもしれないが……
なんにせよ、この策を実行に移すとなれば、どうあっても必要不可欠な人物がいるはずなのだ。
――【探査】――『間者』
――【探査】――『内通者』
――【探査】――『マリーの手先』
俺がガルムに出入りしていることを知る人物は非常に少ない。
宮殿内では様々なワードで何人か該当したものの、アルバート王国出身者というだけで反応が拾えてしまうくらい精度は甘いため、情報だけを渡し、絞り込む作業は新たなやり方を試したいというウォズニアク王とハーゼンさんに任せていた。
ここでもその予定だったが――
「へえ」
――視線は、一人の小太りな男で止まる。
おかしいなぁ……
この男、以前は『白』だったのに、なぜか今は『黒』に切り替わっている。
となれば、コイツだけはもう確定的。
これ以上泳がす必要もない。
「僕の情報をマリーに売った犯人は、おまえかぁ」
言いながら視線を向けた先。
そこには他の教師陣と違い、俺が訪れた当初から身体を強張らせていた人物。
カタツムリのようなクルクル巻きの口髭を生やした副学長が、顔面を蒼白させたまま後退りしていた。