Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (539)
524話 懐柔
「本当にあなたが、第五の異世界人ロキ、王……?」
「だから、本当ですって」
なんでこんなに疑り深いんだ?
身形から高官と思われる連中は、なぜか俺をマリー側の人間だと思ったようだが……
まぁそんなことはどうでもいいか。
用があるのは目の前で項垂れたまま動かないこの男。
「一通り話は聞きましたよ、ゼクオン将軍」
そう告げると、男は全てを諦めたような虚ろな瞳をこちらに向けた。
「なぜ、殺さない……何が、目的だ」
「テリア側の動向と、今後の安全が確保されそうなのかどうか。その確認ついでに、目立つ悪党がいれば潰してやろうくらいに思っていましたけど……」
言いながら一度周囲を見回すと、後ろめたさからなのか。
分かりやすく動揺したのち、全員がサッと目を逸らした。
「特にあなた、マリーのことを相当恨んでますよね?」
このような切迫した状況で語られていたのだ。
マリーをクソババアと罵るところも含め、あれが正しく将軍の本音なのだろう。
「当然だ……巻き込むだけ巻き込んでおいて、いざ状況が変わればこうしてあっさり切り捨てるのだぞ!?」
怒りに任せて叩いた木製の机は割れ、載っていた手紙がヒラヒラと舞う。
俺の足元にはマリーらしい、冷酷で冷徹な手紙が広がっていた。
「この対応の速さはさすがですねぇ。まぁマリーからしても、できれば予備戦力としてあなた達を残しておきたいという程度で、僕やハンスさんを完全に食い止められるとは思っていないでしょうけど」
「「「……」」」
「でも勘違いしないでください。先ほども言ったように、僕はあなた達の殲滅を前提にここまで来たわけじゃありませんから」
「ど、どういう……」
「見捨てられてしまった残念な皆さんに相談がありまして、どうせならマリーにギャフンと言わせたくありませんか?」
俺がこの場で姿を晒した理由だ。
目の前の連中を仲間にしようなどとは思わないけど、これほど恨む気持ちが強いのならば利用はできる。
それにあくまで今のところはだが、テリアの連中は俺が手を下すべき『悪党』という印象まで持てていない。
確かに将軍はマリーと共にガルムの貴族達を脅したのだろうけど、そんなのはマリーが主導しているだけだと容易に想像ができるし、テリアは命令に応じていつでも攻められるよう、自国内で戦力を西に寄せていただけ。
ガルムに踏み込み、無関係な人達を蹂躙したわけでもないし、会話の中で、テリアの強みは根こそぎ奪われたとも言っていた。
となると、テリアの連中も辺境伯と同様、マリーに従う以外の選択肢がなかった可能性もある。
「ど、どういうことだ……? 貴様も我らを利用するつもりか!?」
「ん~利用と言えば利用になりますけど、無茶なことを要求するつもりはありませんよ。手紙の通り、マリーからは兵を無駄に損耗するな――、つまり、今は極力争い事に巻き込まれないよう大人しくしていろと、そういう指示が下りているわけですよね?」
「……」
「なら実際にそうしておいてほしいんですよ、僕としてもね」
「それだけ、なのか……?」
「当面はそうですね。ガルム側は自国の防衛に回ろうとしているだけで、他所へ攻め入るつもりなんてまったくありません。あなた方が大人しくしているだけで、とりあえずこの方面の争いは落ち着くんですよ」
「……」
「そしてこの手紙の通り、マリーはあなた方の戦力も当てにしている――、どこかで必ず、あなた達の戦力を活用しようとするはずなんです。そのための属国化でもあるんでしょうから」
「で、あろうな……」
「だからそんな指示が下りた時、真っ先に僕に知らせてほしいんです。あなたの立場なら簡単でしょう?」
そう伝えると、ゼクオン将軍の眉がピクリと跳ねる。
「……先手を打つと、そういうことか?」
「そういうことです。別にあなた方の戦力を浪費するつもりも、当てにするつもりもない。現状アルバート王国の支配領域はこのテリアが北西端なわけですから、ここを起点にした軍事侵攻の動きを事前に把握できるだけでもだいぶ邪魔がしやすくなる。仮に別の地へ派兵の要請となっても、それはそれで狙いが絞りやすくなりますしね」
「なるほど……我らは、あの強欲鬼クソババアの指示に従ったフリをしつつ、いざという局面で情報を流すだけでいいのか」
「ええ。僕がマリーと対立しているのは今回の通りですから、あなた方を裏切るようなことはありませんし、普段の生活に干渉するつもりもありません。その時だけ、ほんの少し動く程度でマリーの立てた計画が悉く潰れていくとしたら――どうです? だいぶスッキリしませんか?」
実際はそう都合良くもいかないだろう。
マリーが単独で動く策謀に対しては効果がないし、まったくの別方面でテリアの兵に関係なく動かれれば把握はできない。
それでも、相当な鬱憤が溜まっていたんだろうな。
将軍だけでなく、周囲の高官もみるみると瞳に光が戻っていくのを感じる。
そう思った矢先、突然真顔になった将軍は、慌てたように膝を突いた。
「度重なる無礼、大変失礼いたしました。あまりの事態に我を失っておりましたが……テリアに攻勢を加えるでもなく、我らに平和の道を示していただいたこと。そしてマリーに雪辱を果たす機会を設けていただいたこと、感謝の言葉もございません」
「あーいえ、そんな畏まらなくても、先ほどのままでいいですからね。僕もあなた方と同じ、マリー憎しで動いているだけですから」
「さ、さすがにそれはあまりにも……」
「それよりゼクオン将軍、あなたはガルム東部の貴族会合に、マリーと共に参加した。これは間違いないんですよね?」
「え? ええ、それは間違いありません」
「その時、パルモ砂国の軍部を纏める人間も一緒にいたと聞いていますが、事実ですか?」
「間違いありません。パルモ砂国のヘロイト将軍も共に参加しておりました」
「なるほど。では僕が連れていきますから、その人を紹介してくれませんか? できればテリアと同じようにしておきたいんですよ」
テリア公国だけでは正直弱い。
西側はガルム聖王騎士国としか隣接しておらず、できればフレイビルやオルトランと隣接しているパルモ砂国も押さえておきたかったわけだが――。
「あちらは残念ながら、この策を通すのは少々難しいかと」
「え?」
将軍から返ってきたのは、俺の予想していない言葉だった。