Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (541)
526話 楽しい狩りの時間
不思議な空間だ。
順当にいけばここは古城の中だと思うけど、天井は見上げるほど高く、窓がないため外の景観は拝めない。
代わりにあるのは、壁際に並んだ3つの階段。
両脇の2つは上階、中央の1つは下階へと繋がっているようで、他に通路や扉はなく、見渡す範囲で魔物の姿も見られなかった。
上か、下か。
全部回ることは確定なのだから、どちらでもいいが。
「ん~やっぱり強いのは、上かな?」
なんとなく、そんな判断からまずは長い階段を下りてみると、下のフロアは想像していた光景とまったく違う、石と岩だらけの地下空洞が広がっていた。
明かりは乏しく空気はジメジメとしており、床や壁などの多くは石造りであるものの、所々が崩落したように道を塞いでいる。
ゴンッ!
だがこれも、草原エリアや城下町エリアと同じだ。
蹴とばしても岩を動かすことすらできないのだから、フェルザ様が意図してこのような作りにしたということ。
ならば気にしてもしょうがない。
ワクワクしながら先に進んでいくと、ようやくここに来て初めての魔物が目の前に現れてくれた。
「おっ、ランクは予想通りだけど……ここでも出るのか」
影からいきなり現れたのは、ジュロイの 《嘆きの聖堂》奥地にいたデスナイト。
斬りながら他の反応にも目を向けると、上空の岩陰からは火岩洞でよく見かけたファイアーバットに、今までパルメラ大森林でしか見かけなかったガーゴイルまで、そこに巣でもあるかのようにわらわらと飛び出してくる。
そして――、広い通路の隅で隠れるように生えていたのは、沼地に見られる
マイコニド
の上位種、マタンゴかな?
付着した鉱物と共に、焦げ茶色の大きなカサがユラユラと揺れており、鼻の奥がムズムズするこの感じは【胞子】をバラまいている最中といったところか。
これでBランク帯の魔物だけが4種。
《夢幻の穴》は、今までランク毎に5種ずついたのだから、この流れならたぶんもう1種もどこかにいるはずだが。
そう思って迷路のような薄暗い空間をフラフラしていると、視界の先に赤い瞳が二つ、こちらを見つめていることに気づく。
その上には特徴的な長い耳。
一見すればホーンラビットだが、その黒みがかった体表は魔物図鑑通りなら、上位種であるアルミラージのはずだ。
ふむふむ。
鬱陶しく近づいてくる魔物を蹴るかチョップで捌きながら、覗いたスキル構成を次々にメモしていく。
・城内部(下層/地下)
ガーゴイル:【飛行】Lv3 【絶鳴】Lv5 【爪術】Lv4
ファイアーバット:【火魔法】Lv4 【飛行】Lv4 【火属性耐性】Lv5
マタンゴ:【胞子】Lv4 【麻痺耐性】Lv3 【毒耐性】Lv2 【睡眠耐性】Lv3
アルミラージ:【睡眼】Lv3 【突進】Lv5 【空脚】Lv3
デスナイト:【甦生】Lv5 【剣術】Lv5 【影渡り】Lv2
城の地下と名付けたこのエリアはBランク魔物だけしかおらず、その中で新種魔物は2種。
新規スキルがなかったのは残念だけど、マタンゴの【胞子】や耐性系と、それに入手手段がかなり限られていた【睡眼】持ちを新たにここで発見できたのだから、まずまずの結果と言えるかな。
しかし――。
《夢幻の穴》は今まで素材流用価値の高い魔物が続いていただけに、この『城の地下』はちょっと意外な魔物構成だ。
この薄暗い環境もそうだし、全体的にちょっといやらしい魔物が多く、ひとつ前の荒廃した城下町に比べれば、同じBランク帯でも難易度が高いように感じてしまう。
加えてこうも生息域がはっきりと分かれてしまっているのだから、極小確率を潜り抜けて辿り着いたこの古城内部で、わざわざ地下のBランク狩場に行く人なんてそうそういなかっただろうし……
「これが典型的な、不人気狩場ってやつね」
そんなことを一人呟きながら、再び上階へ。
ロビーと呼べそうな先ほどの入り口から長い階段を上ると、今度は広大な部屋と魔物が俺を迎えてくれる。
先ほどの地下とは違って5種全てが視界に入り、既知の魔物からすぐにここがAランク帯だということは分かったが。
「あっはぁ……」
次々とスキルを覗く中で、1種の魔物に目が留まる。
身に覚えのない魔物、身に覚えのないスキル。
その名前からおおよその効果は想像できるが、それでも早く、試したい。
逸る気持ちを抑えきれず、襲い来る魔物の死体回収も後回しにしてツカツカとその対象へ近寄っていく。
さて、どうなるか。
まずはコイツでいってみるか。
『指電』
パンッ!
指先から放たれる、線のような細い雷光。
それは見据えた金色の羊へと、一直線に向かっていく。
が。
「へえ……」
パリパリと、音を鳴らし。
俺の放った雷を吸収――、というよりは纏ったまま、何事もなかったように平然としている金色羊。
とてもダメージを負っているようには見えず、そのままお返しとばかりに頭上から黒い魔力の渦が生まれ、今度は俺に向かって【雷魔法】が放たれる。
敵はAランクの魔物だ。
いくら耐性があろうと、一瞬、眠気が飛ぶような刺激が走るも、今はそんなことなどどうでもよくて。
「……なるほど、俺の雷を利用したわけじゃないのか」
金色羊は、変わらずバチバチと音を鳴らして雷を纏ったまま。
先ほども自前の魔力を使って【雷魔法】を撃ってきたのだから、受けた力をそのまま放出する能力はなさそうであることを理解する。
となると、これはどうかな。
『撃ち抜け、雷槍』
次は先ほどよりもそれなりに強めだ。
放った魔法は、金色羊の身体を飲み込むように突き抜けていき――。
一応、数秒待つも。
後には金色から黒色に変色した、原形を留めていない羊の死体が転がっているだけ。
つまりこれで、スキルの許容限界を超えたということか。
「【帯電】ねぇ……」
【発火】と近い性質を持っていそうなこのスキル。
当たりかどうかはまだ分からないけど……
それでも内心、かなり期待していることを自覚しながら、俺は【集敵】効果のある邪魅の乱槍を片手に、Sランク手前のこの狩場でスキル取得を目指した。