Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (549)
534話 魔法学と魔道具作成
かつては町の外れに広い土地を構え、その中心にポツンと存在していた新奇開発所。
しかし今は敷地に大小様々な建物が建ち、外で何かの作業をしている人達の姿もチラホラと確認できる。
そして目的の場所は、以前と変わらず用途の分からない物がそこかしこに転がり、アマンダさんを含む3人の女性が中で机を取り囲むように何かを弄っていた。
「こんにちは~」
「あら、ロキ君。よく来てくれたわね」
「お? それはネジですか?」
「そうそう、そうなのよ! 自由都市ネラスに質の良いネジがたくさんあるって分かってね。商人に取り寄せてもらったのがうちの試作品とどう違うか、今みんなで検証していたの」
そういえば以前に案を出したことはあったけど……なるほど。
自由都市ネラスには普通に出回っていたわけか。
考えてみれば、あそこは【建築】レベルが突出した異世界人がいるしなぁ。
となると張り合ってここでも作るべきかはなんとも言えないところだが、地図が繋がるようになって、こうして一部に留まっていた物や情報が少しずつでも広まっているのなら良い傾向だ。
それこそコツコツとマッピングを進めてきた甲斐があるってもんである。
「ってロキ君の用事はこっちじゃなかったわね。トロッコと水着、試作品はできてるわよ」
「いや~それを聞いて楽しみにしてたんですよ」
「それじゃあ……ジュジュ、ロキ君を彼の所へ案内してもらえる? 私も準備できたらそっちに行くから」
「はーい」
「ん? 彼とは?」
「クレイブっていう、魔道具職人のことですよー」
「ちょっとお堅い青年だけど間違いなく優秀だし、慣れると扱いやすくて凄く良い子なの」
そう言って怪しげに微笑むアマンダさん。
なんだ?
久しぶりに魔物臭がフワリと香った気もするが……
気にせずジュジュと呼ばれた女性の後をついていくと、敷地内の別の建物へ。
そこには俺自身も見覚えのある、眼鏡を掛けた20代半ばくらいの男性が、黙々と彫刻刀のようなモノで木を削っていた。
「クレイブさん、ロキ王様が来ましたよー」
「む、これはこれは国王陛下、このような汚らしい作業場にようこそおいでくださいました」
そう言ってすぐに頭を下げ、膝をつこうとする目の前の男性。
「あー前にも言いましたけど、ほんと皆と同じように普通な感じでいいですからね」
「いやしかし、私を絶望の淵からお救いいただいた国王陛下に対し、さすがにそのようなことは……」
「えーとですね、どちらでもいいのではなく、普通にしてもらった方が僕は嬉しいんですよ。あまりにも堅苦しいのは疲れてしまうので」
丁寧な対応をなかなか崩そうとしない人には、こう伝えるのが最も効果的だ。
それが最近になってようやく分かってきた。
「うっ、そ、そこまで仰られるのでしたら……」
「それはさておき、ここまで連れてこられたってことは、トロッコを動かす送風魔道具ができたんですかね?」
そう告げると、クレイブさんは待ってましたと言わんばかりに眼鏡を掌でクイッと押し上げる。
「ええ、強力な風を発生させる魔道具はほとんど出来上がっておりまして、あとはロキ王のお力をお借りできればとお待ちしていたのです」
「へ? 僕が?」
「はい。ロキ王は風を生み出し、森の木々を物凄い勢いで伐採していると聞きましたので、こちらに【風魔法】を宿してほしくてですね」
「宿す……?」
首を傾げる俺の前で取り出したのは、鉄板のような薄い金属の板に描かれた――、おぉ、これは魔法陣か。
ギルドカードと同じ、プレスして浮かび上がったように見えるそれは机いっぱいに広げられ、既視感のある幾何学的な文様が描かれていた。
うーん……
先ほどから理解がまったく追いついていないけど、目の前の男性はプロで俺はど素人。
言われるがまま魔法陣に手を添え、レベル5と指定された【風魔法】を『大丈夫だから』言われて発動させる。
――【風魔法】――『風玉』
すると本当に何も起こらず、代わりに魔法陣が反応を示すように黒い魔力を吸い込み、ほんのりと青く輝いた。
まあ、それはいいとして。
「おぉ、これが噂の……よし、ありがとうございます。これでようやく魔道具が完成したので、早速トロッコに取り付けてみましょうか」
流れるように、鉄板を別の木の枠に収めようとしているクレイブさんを見て、いい加減辛抱たまらずに待ったを掛けてしまう俺。
「ちょっ、ちょっと待ったー!」
「え?」
できたのはいいが、さすがに何も分からな過ぎてこのままでは気持ち悪い。
「先ほどから何をやっているのかまったく分かっていなくてですね、軽く解説してくれませんか? 軽~くでいいので」
「それは構いませんが……ロキ王も魔道具制作に興味があるのですか?」
「ですね。って言っても自分で作ろうとか、そんな大それたことまでは考えていないんですけど、どういう仕組みで作られているのかなーって。原理とか構造に興味があるんです」
【付与】と同じ原理で魔道具は作られているのかと思っていたのに、想像していた工程とまったく違うのだ。
作れる人が希少で話を聞く機会も簡単には得られないし、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。
そんな熱い視線に気づいたのか、クレイブさんは笑みを浮かべながら頷き、その横でやり取りを見守っていたジュジュさんは「これ長くなるやつだ」と呟きながら頭を抱えた。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「へ~だから素材を固い鉄板にしているわけですか」
「錆には注意しないといけませんけど、木材よりも遥かに保ちますからね。それにこのような威力の出る魔法を宿すとなれば尚更ですよ。持ち運ぶには便利な羊皮紙に同じ魔法陣を描いても、発動させた瞬間に千切れ飛んでまず不発に終わりますから」
「なるほどなぁ……想像以上に【魔法学】と、そこから繋がる【魔道具作成】って面白いですね。【付与】とは仕組みがまったく違くて奥深い」
「ロキ王に共感いただけるとは嬉しい限りです。なんでしたらこれを機に、かつて魔導王国プリムスが辿り着いたとされる【魔法学】の深淵を共に目指しませんか?」
「えっ?」
なんか横のお兄さんがちょっと怖いこと言ってるけれども。
でも少し興味を惹かれてしまうくらいには面白いというか、世界を一変させる可能性のある分野なんだろうなとは思えてしまう。
なんせ【付与】と違い、【魔法学】を修めた<魔法学師>は起動式とも呼ばれる魔法陣を描くまでが仕事で、その魔法陣に魔法やスキルを宿す必要まではないのだ。
その作業は該当スキルのレベルを満たしていれば別の誰かであってもいい。
先ほど俺が行ったように、出来上がった魔法陣に実体となるスキルを宿せば、あとは必要魔力を込めるだけで誰でも発動できるようになってしまうし、魔法陣を器となる魔道具に組み込めば魔力消費を魔石で賄ったり、もしくは魔法陣だけでは発動のしようがない一部のスキルも発動することができてしまう。
それこそファンタジーで夢のような道具が完成してしまうわけだ。
まぁその分、耐久面とか大きさには常に悩まされるみたいだけど。
手軽に持ち運べる羊皮紙に魔法陣を描き、剥き出しのまま【火魔法】を発動させるとどうなるか?
そんなの高価な羊皮紙がすぐに燃えるし、【水魔法】であれば魔法陣がビショビショになって消えてしまい使い物にならなくなる。
それに<魔法学師>の腕にもよるらしいが、高位の魔法やスキルほど魔法陣が複雑で大きくなるため、器となる魔道具だって巨大化して気軽に持ち運びができやしない。
だからゲームのような『スクロール』としての機能は果たせず、大量の兵がそれぞれ大魔法の魔法陣や魔道具を持って突撃してくるなんてことはまずあり得ないらしい。
代わりに固定砲台化した防衛設備としては、宿すスキル次第で恐ろしく優秀な力を発揮しそうだから、この分野は余計に興味も湧いちゃうんだけどねぇ……
って、そういえばラグリースはそんな魔道具を所持しているって、昔貰った史書に書かれていたっけな。
「あ、ほんとにまだここにいたっすか。ロキさーん、もうアマンダさんも準備できてトロッコの所にいるっすよー」
そんな妄想に浸っていると、クアドがこちらの建物に顔を出す。
どうやら結構長い時間話し込んでいたっぽいけど、ベザートの今後にだって影響のありそうな面白い話が聞けたのだからしょうがない。
「了解、すぐ行くよ」
そう伝え、丸い筒と木製の箱に起動させるためのレバーが付いた、小型大砲みたいな魔道具を抱えて俺達は外へ向かった。