Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (55)
55話 遠足のような実地訓練
7/23 本日2話目の投稿です
「「「おぉー! ここがロッカー平原っ!!」」」
ジンク君達3人衆を連れて、なんだかんだとすぐに舞い戻ってきたロッカー平原。
そのだだっ広い景色に3人は感嘆の声を上げていた。
まるで遠足に行く子供達とその保護者。
釣りの時もそうだったし、今更感があるのでいちいち気にしてはいられない。
「さて、ここなら魔物も見やすいでしょ? 所々にいる茶色いのがポイズンマウス。とりあえずあれを倒しながら、保護色で見えにくいエアマンティスの気配を感じたらそっちを優先的に倒していくって感じだね」
「凄い眺めだな……ここなら敵を探す必要がほとんどない」
「俺が結構頑張っちゃったせいか、ここら辺は魔物の数が少ないからさ。数を狩りたいなら奥へ行けばいいし、安全重視ならこの辺で狩っていれば、複数体の魔物を同時に相手取る頻度も少ないと思うよ」
「それじゃあ、まずはこの辺で練習だな!」
「ポイズンマウスはホーンラビットよりちょっとだけ速いくらいだから、落ち着いて横っ腹にでも攻撃しちゃって。頭は素材になるから可能な限り無傷で」
「了解! メイサ、ポッタ! 行くぞ! 離れるなよ!」
「分かった! 解体は任せて!」
「ついてく!」
こうして始まった3人の試し狩り。
俺は狙いを定めたジンク君達一行の後ろを、少し離れてついていく。
【探査】でエアマンティスの情報を確認しながらなので、この状況なら万が一ということも無いだろう。
ポイズンマウスに即死級の攻撃なんてないからね。
ある程度の距離からジリジリと歩み寄っていくと、どうやら狙いのポイズンマウスも気付いたようで顔を上げた。
(あと3メートルくらいかな……)
そう思いながら様子を見ていると、ジンク君が10歩ほど進んだところでポイズンマウスが攻撃を開始。
相変わらずの綺麗な身体捌きで、飛び跳ねて噛みつこうとするポイズンマウスの横を逸れながら、逆手に持つナイフで腹を裂く。
これで大した防御力も無いポイズンマウスはもう虫の息だろう。
「あとは首を落として魔石を回収、ついでに尻尾も切り取れば1体終了だね」
「私の出番!」
そう言ってややぎこちない手つきながらも、躊躇いなくナイフを刺し入れていくメイちゃん。
10歳なのに最初の頃の俺とは大違いだ。
2分程度で作業も終わり、その素材をポッタ君の籠の中へ入れていく。
「ふぅ。ロキの言っていた通り大したことはないな。こんなのにビビってたのか俺は……」
「最初はどんな魔物でも怖いし慎重になるもんだよ。ちなみにこれで6000ビーケくらいかな? 3人なら1人当たり2000ビーケくらいだね」
「えぇっ! パルメラ大森林より全然良くない!?」
「あぁ! 今までの報酬を簡単に超えそうだ!」
「これ全然重くないよ! まだまだ余裕!」
「そうだね~ジンク君達の今までの報酬を見ていると、このポイズンマウス5体狩れば同じか超えるくらいになるはずだよ」
「マジかよ」
「ジンク! 頑張って! 私も解体頑張るから! どんどん頑張って!」
「あと20体くらい狩ってくれても、僕平気!」
「よーし……なら本気出すぞ!」
そういって動き始めたジンク君は、次の1体に狙いを定めると足を止めることなく近づいていく。
(もう1匹のポイズンマウスと少し距離が近いけど大丈夫かな……?)
そんなことを思っていた俺だが心配は杞憂に終わった。
「おぉっ! 弓!」
思わず声に出してしまったがしょうがない。
ジンク君が背に弓を背負っているのは知っていた。
前に弓を使いたいとも言っていたから、俺があげた教会用の硬貨を使う時に祈祷を成功させたのだろう。
矢筒から矢を1本取り出し、そこまで時間をかけることなく放つ。
そしてその矢はまだ気付いていない1体のポイズンマウスの横っ腹に命中。
それに気づいたもう1匹のポイズンマウスがジンク君に近づいてくるも、先ほどと同様に攻撃を躱されながら腹にナイフを刺し込まれ、あっさりと絶命させられた。
(開始早々30分も経たずにもう3匹とか、このペースなら他のパーティより早いぞ? やっぱり優秀だなぁ……)
「弓凄いね~スキルで命中補正がかかってる感じ?」
「あぁ距離が長いとまだ無理だけど、このくらいの距離ならほぼ外さないな」
「これで念願の弓と短剣使いってわけだね」
「ただ弓は矢の消費が激しい。今回はどんなものか試してみたけど、ナイフだけで余裕な状況なら無理に使うべきじゃないな」
チラリと矢を見れば作りがしっかりしていそうなので、さすがに手作りということはないだろう。
となると矢は消耗品。
お金に余裕が無いうちは、格上の魔物や緊急時用ということになるわけか。
「それでも今みたいな使い方は良いと思うよ。釣り狩りってやり方で、巻き込んで他の魔物も寄ってきそうな場合はかなり有効だと思う。あとはエアマンティスの魔法準備が始まった時に、間に合わなそうなら妨害目的とか?」
「あっ、それ良さそうだな。まぁ詠唱される前に倒しちゃうのが一番だが」
ジンク君達と話しているうちにメイちゃんが2匹の解体も終わらせたようで、自然と奥へ奥へ一行は進む。
思いのほか余裕もあるようだし、緊急事態となれば俺も手を出すつもりなので心配はしていない。
(あっ、エアマンティス発見……気付くかな?)
言ってしまうと意味が無いので、俺は敢えて何も言わずエアマンティスに動きがあるかを注視しているだけ。
ジンク君の持つ【気配察知】レベル2だとまだ射程外になるので、当然3人共気付いている様子はなく、その付近にいるポイズンマウスを次の狙いに定めている。
「よし、次はあいつ行くぞ!」
「うん!」
「分かった!」
そう言ってジンク君は目的のポイズンマウスに近づいていくが――
「って、待ったッ!! エアマンティスだ! 俺は先にあっちを仕留める!」
「えぇ! このネズミどうするの!?」
「ぼ、ぼ、ぼっ、僕がなんとかするっ!」
(無事気付けたか。となると【気配察知】レベル2があればエアマンティスの不意打ちはまず問題ない。……ただ、こうなると
こ
の
3
人
は
弱
い
)
戦闘職はジンク君のみ。
どちらかに集中すればもう1匹が浮く。
しかし、手伝うのはまだだ。
ポッタ君が籠を前に出して盾代わりにしている。
そんな彼の勇気を無駄にしちゃいけない。
成長のチャンスに繋がるかもしれないんだ。
ジンク君は――……やはりここは弓だろうな。
というよりこの場面だからこその弓だろう。
【突進】スキルも有りだと思うが、そうするとまたポイズンマウスのところに戻るまで時間がかかる。
すぐにジンク君がポイズンマウスも倒すつもりなら弓一択。
ヒュッ――――――プシュッ!
黒い霧を発生させ、すでに魔法の発動準備に入ってたエアマンティスの頭部が貫かれた。
ジンク君はそれだけ確認すると、弓を放り投げつつ素早く振り返り、すぐに腰に差したナイフへ持ち替えながら現状把握を済ませたようだ。
ポッタ君が前面に差し出す籠へ食らいつくポイズンマウスの横っ腹へ、ここぞとばかりに強くナイフを差し込んでいく。
――戦闘終了、お見事としか言いようがない流れるような動きだった。
「……凄いね。手を出そうか悩んだけど出さなくて良かった。ポッタ君もナイス防御だったよ!」
「ふっ……ふぅ……怖かった……」
「ポッタ良くやった! 2人共怪我してないか?」
「大丈夫! ポッタが守ってくれたよ!」
「そうか……ロキ、今のは正解だったと思うか?」
「うんうん、大正解だと思うよ。ただ――欲を言えばメイちゃんとポッタ君。2人もいざという時は戦闘に加われるのが一番だと思う」
「「「……」」」
「もちろん無理をする必要は無いけどね。ロッカー平原なら魔物が小さいから解体用ナイフでも十分武器になるし、こないだ接点があったパーティだと荷物持ちが小型のメイスを持っていた。緊急時に自衛できるかどうかは大きいんじゃないかな?」
「まぁ……そうなんだけどな……」
ジンク君も当然そうであってほしいとは思っているが、2人に無理は言えないのだろう。
なんとも言えぬ顔をして2人を見るが――
「うん……ロッカー平原でいっぱいお金を稼ぐってなったら必要だよね……薬草なんて生えてなさそうだし……頑張る。私頑張ってみるよ!」
「ぼ、僕もっ! 剣とかナイフで切るのは嫌だけど、叩くだけなら!」
こういう話になれば外野は黙っておいた方がいいだろう。
どうしても難しくて、今まで通りパルメラを狩場にするのも一つの手。
出来ることを増やして、その分多くの収入を手にするのも一つの手。
それは彼らが決めることであって、俺がどうこう言うべきことじゃない。
求められれば可能な限りのアドバイスをする。
――それだけで良い。
「さっ、今日はお試しなんだから、日が暮れる前にどんどん魔物を倒していこう。そうしないと今みたいな新しい発見はできないよ?」
「そうだな。ロキがいるうちに色々試すぞ! 今日だけは何かあってもロキがなんとかしてくれる!」
「そうだね! ロキ君がいる時に無茶なことしちゃおう!」
「荷物はまだまだ余裕!」
「えぇー……」
試すのは良いけど無茶はしないでほしいなぁ……
そうボヤキながら、奥へと進んでいく3人の後をついていくのだった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
日が落ち始めて夕暮れに染まるロッカー平原。
帰り道を歩きながら、思い思いに今日の感想を言い合っていた。
「疲れたーっ!!」
「さすがに、重くなってきた……」
「凄いぞ……これはきっと凄い……凄い報酬になることは間違いない……」
1人念仏のようにボソボソ呟く怪しい人もいるけど、3人共今日の結果には大満足だろうな。
俺がお尻を叩いていたとはいえ、なんだかんだと魔物を狩りまくり、籠の半分くらいまで素材が埋まったのだ。
大体ロッカー平原初日の俺と同じくらいだから、この素材量ならたぶん15~20万ビーケくらいにはなるだろう。
3人で割れば一人5万ビーケ以上。
今までの報酬からすれば破格とも言える金額だ。
しかも今日の午後だけでこの成果。
弁当でも馬糞モドキでも、昼の食事をちゃんと持って1日狩りをすれば――
彼らの生活は、きっと大きく変わるに違いない。
「後半はだいぶ慣れてきたんじゃない? メイちゃんも1回ポイズンマウス倒してたし」
「でも顔に刺しちゃったよ!」
「攻撃する時に目を瞑るからだろ! どこを攻撃するか最後まで見て狙うんだぞ!」
「えぇー! なんか怖いじゃん!」
「バカ! 攻撃外して噛まれるよりよっぽどマシだろ!」
結局ジンク君が1回、メイちゃんもよく分からないところにナイフを振って1回ポイズンマウスに齧られていた。
齧られると必ず毒を貰うわけじゃないみたいだが、ジンク君とメイちゃんは身体がすぐに怠くなったということでポイズンポーションを服用。
通常の回復ポーションは噛まれたところに直接掛けていたので、てっきりポーションは飲むものだと思っていた俺は内心かなり驚いた。
もちろん「今更かよ!」なんて突っ込みが入りそうなので、さも知っている風な顔して眺めていたけどね。
あとは帰り道に木があるところまで行ったら、エアマンティスが放ちそうなレベル1程度の風魔法を実演してあげれば問題無いだろう。
10メートルほどの距離なら木の表皮も削れないことを知れば、もっと動きが積極的になって討伐数も増えるはずだ。
そんなことを考えていたら、ふいに先頭を歩くジンク君に話しかけられた。
「なぁロキ。ロッカー平原って元は遺跡でもあったのか?」
「え?」
「なんか謎の石柱が立ってるよね?」
「1ヵ所に何本もある。あれはきっと何か意味があるはず」
「……」
別に隠したいわけじゃない。
が、特別な何かと思われている中で真実を言うのは若干気まずい。
今後ロッカー平原で狩るならすぐにバレるだろうけど。
「あ、あれね、犯人は俺……」
「「「ん?」」」
「狩りしていると籠が邪魔でさ、あの石柱の上に籠乗っけて、誰も届かないようにして狩りしてたんだよね」
「「「んんん??」」」
説明はしたのに、まったく理解できていない顔をしている3人。
はてなマークが顔中に浮かんでいるのが見える。
「まぁ、こうやるんだよ」
『長さ5メートルの石柱を生成』
ズズズズズズッ……
「「「…………」」」
「この上に籠置いておけばさ、誰も届かないでしょ?」
「……どうやって籠を乗っけるんだとか、乗っけた後はどうやって取るんだとか、色々あるけど……とりあえず凄いなロキ」
「魔法っ!! ロキ君って魔法使い!?」
「僕、神秘を見た……」
「神秘じゃなくて魔法ね。でもジンク君ならこれの小型なやつくらいはできるんじゃないかな?」
「え? なんで俺?」
「だって、【土魔法】取得してるでしょ?」
「いや、無いが?」
「……………………えっ?」
ジンク君の予想外の返答。
その言葉に、俺の中の
前
提
が崩れるような感覚を覚え、思わずその場に立ち尽くしてしまった。