Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (57)
57話 不安な作戦
7/24 本日2話目の投稿です
「もう大丈夫ですよ」
前方からの声に目を開ける。
(なるほど……今回は最初の布陣か)
目の前には愛の女神アリシア様を筆頭に、左右を戦の女神リガル様、罪の女神リア様と固めている。
まだ様子見という雰囲気だが、何か不穏な事態になればすぐに――ということだろう。
「緊急の呼び出しをしてしまって申し訳ありません。【神通】の時間では短過ぎるもので」
「いえ、俺もそう思っていたところなので大丈夫ですよ」
「それで、昨日お話されていた魔物から得られるスキルについてですが……」
「えぇ、分かることはちゃんとお話しします。なので最初に釘は刺させてもらいますよ。俺は望んでこのよく分からない能力を得たわけではありませんし、自分でもまだなんなのか理解できていません。だからこそ昨日女神様達に相談しようと思って話しました。なので――危険だからといきなり排除の動きを取らないでくださいよ?」
そう言って特にリア様も見ると、ビクッと反応して目を逸らした。
そんな姿も凄く可愛いけれど、何か考えていたのかと思うとやっぱり怖い。
「それは安心してくれ。ロキは自ら話してくれたんだ。やましいことがあれば話さない。そうだろう?」
「その通りです」
「ではまず、なぜ気付いたのか。その経緯を教えてもらえますか?」
「俺と付き合いのある子供達のハンターがいるんですよ。それで昨日一緒に狩りをしていたんです。その時に間違いなく持っていると思っていたスキルをその子は持っていなくて、でも持っているスキルもあって……それでよく分からなくなったって感じですね」
「具体的にはどのスキルですか?」
「【気配察知】【土魔法】【突進】です。【気配察知】と【土魔法】は同じ魔物がスキルを持っているので、俺の常識から考えればスキルの獲得状況が大きくズレることはあり得ないんですよ。自然に上がる経験値なんて微々たるものですから。なのにその子は【気配察知】がレベル2になっているのに、【土魔法】は未取得だった。おまけにその子が一番狩っているであろう魔物が所持している【突進】すら未取得だったので、明らかにおかしいとなったわけです」
「なるほど……」
「その子供はどの程度ハンターとして活動しているのだ?」
「んーおおよそ2年くらいですね。俺がこの世界に来る前のことなので、活動の頻度までは分かりませんが」
「ふむ。【気配察知】は意識して周囲に気を向けるという行動がスキル取得の要因になる。だから個人の才を抜きにしても取得だけなら比較的容易なスキルだし、実際に人種でも得られている者は多い。それに比べて――」
リガル様がチラリとリア様を見ると、リア様がそのまま引き継ぐように言葉を繋ぐ。
「【土魔法】を含めた魔法系は魔力操作、詠唱の仕組み、発現後の現象イメージとか……基礎となる知識を基にした修行をしながらスキル取得するのが一般的。だから私達が
願
い
を受けて無理やり授けても、最低限の知識が無ければ魔法を発動することもできない」
「確かにそうですね。俺もスキルを取得したのに発動できなくて苦労しました」
「だから魔法系は自然にスキルを取得しにくい系統」
「ということはその子――ジンク君って言うんですけどね。ジンク君は2年間というハンターの実績から【気配察知】は自然取得できたけど、【土魔法】はまったく取得に至らなかったというわけですか」
「そう考えるのが自然」
「そして【突進】はそもそも人が取得できるスキルではないと……」
「その通りです。私達女神が誰も取得していないスキルという時点で、
人
種
に
は
本
来
得
ら
れ
な
い
ス
キ
ル
ということが分かります」
「となると、なぜ俺が得られたのか――ですよね」
「そうだ。ロキは何か思い当たる節はないのか? 例の……上位神様が絡んでいるかもしれない件で」
「いえ……それがまったく無いんですよ。以前お伝えした通り、あの時のやり取りで与えられたのは、『若返り』と『ステータス画面を見られること』。この2つだけです。逆にもっと欲しいと言ってもくれず、強制的に飛ばされましたので」
「やっぱり嘘を吐いている様子が無いんだよね」
「取得できる理由がさっぱり分からんな……」
「ちなみに転移者や転生者、あとは前にリガル様が言っていた次元の狭間から来た異世界の人間だけが、特別こういったケースに当てはまるということは?」
「少なくとも私達が転生させた者に、おかしなスキルが混ざったことは無いな」
「次元の狭間から落ちた人種も、微かな記憶ではありますがそのようなことは無かったと思います。ただ――」
「転移者は分からないよね? そもそも私達がまったく把握していないんだし」
「確かにな。”故意に転移させられた転移者”という括りで見るなら分からん。そのような経緯を辿った人種はロキが初めてだ」
「次元の狭間を通った人種と同様に考えれば有り得ないと思いますけど、それでも確証は得られませんね」
聞こうと思ってまだ聞けていなかったこと。
俺以外にどんぐり、もしくは同じような存在によって転移させられた者が生きているかどうかは――これでかなり絶望的になったな。
絶対にいないとは言い切れないが、女神様達が把握しておらず、情報が得られやすい立場にあるヤーゴフさんも転移者の存在を知らないとなれば、ほぼ全滅とみていいだろう。
まぁそれも納得だ。
あんなところにいきなり捨てられたら普通は死ぬ。
俺はたまたま所持していた地球の持ち物が上手く噛み合ったからなんとかなっただけだ。
となると、話が余計に
拗
れそうだが……
女神様達にとっても重要だろうから一応伝えておくか。
ヤーゴフさんには他言無用と言われたけど、さすがに世界を管理する女神様達相手であればセーフなはずだ。
「少し話が逸れますけど、地球の人間が俺と同様に、無理やりこの世界へ飛ばされている痕跡は発見しています。それはご存知で?」
「えっ……?」
「どういうこと?」
「その顔は知らないっぽいですね。来てはいるみたいですよ? 俺が持っているような地球産の物が、パルメラ大森林に落ちていたみたいなので」
「そ、それは本当か……?」
「女神様達なら嘘か本当かは分かるでしょう? 俺だってこんなところで嘘は吐きませんよ」
「ロキ君だけじゃない……? では誰が、何のために……」
「なのでかなり可能性は低いでしょうけど、もし
生
き
残
り
を見つけられれば答えが見つかるかもしれません。それに今後も俺のように飛ばされた人間が出てくる可能性だってあります」
「しかし、ロキと同じなら教会に立ち寄る必要もないのだろう? となると私達は大きな異変が起きるまで気付けないし、もし仮に気付けたとしても【神眼】で覗けなければ結局原因は分からないんじゃないか?」
「ん~そこは微妙なところですね。この世界に飛ばされた人間は本当に何もこの世界のことを分かっていません。だから教会があれば俺のように興味本位でとりあえず立ち寄ると思うんですよ。それに、俺は文句を重ねてやっと若返りとステータス画面が見られるという能力を得られました。何もしなければ一切の能力も与えられず放り出されていたでしょうし、ちょっと駄々を捏ねたくらいでも結果は同じだったと思います」
「つまり、ロキ君だから若返りとステータス画面が見られるという能力を得られたというだけで、普通の転移者はスキルを何も与えられずにこの世界へ来ていると?」
「その可能性が高いと思います。ただ勘違いしないでいただきたいのは、女神様は【神眼】というスキルを使っても俺のスキルを見られない。このよく分からない能力が、与えられたこの二つの能力と紐づいているのかは俺にも分かりません」
「……もうどうしたらいいのか分からないんだけど?」
「あぁ私もだ……話がややこし過ぎるし、これは神界からの監視でどうにかできる問題ではない気がする」
「いったいなんの目的が……せっかく立て直そうと……どうして……」
いかん。アリシア様が壊れかけている……
「ただこれはあくまで個人的な意見ですけど、そう難しく考える必要は無いと思いますよ? 魔物専用スキルを得られたからなんですか。実際得られた身としては、最初は便利だなと思って使いましたけど、今なんてほとんど使っていません。魔物から得られるスキルでもステータスボーナスは付きます。だからその分人よりステータスは高くなり易いと思いますが、その代わりに俺と同様なら加護や職業選択ができないんですよ? おまけに転生者みたいな出血大サービスのスキルプレゼントなんてこともありません。――ではそんな人間が、女神様達が手に負えないほど強いんですかね?」
「「「……」」」
「俺と同じ流れで地球人がこの世界へ飛ばされれば、まずほとんどと言っていいほど生き残れない。これは断言できます。あの環境は過酷過ぎましたから。それに俺は人一倍強さに拘っているからあれこれ試行錯誤していますけど、転移者――というより地球人が誰も彼もそうではありません。それは魂を呼び寄せ、転生させている女神様達が一番よく分かっているんじゃないですか? 俺はこの世界で目立って動いている転生者が4人と聞いていますけど、それ以上に転生させて、かつ今も生きているのなら、残りの人達は異世界人と公言せずにのんびり人生を謳歌しているということでしょう?」
「確かに。転生させた数だけなら断然多い」
「仮に過酷な環境を生き残った転移者が極少数いたとしても、世界に害を成すような人格である可能性はさらに少ない。そしてそうなってもそこまで強くはならない、か……」
「この世界の
強
い
がどの程度なのかは分かりません。でも女神様達は人種の取得可能スキルを一通り揃えた、云わば最高峰の人種みたいなものでしょう? ならば明らかに世界を滅ぼすような危ない人間が出てきたら、最終奥義でリア様の神罰でもブチかましてやればいいじゃないですか」
「ロキは分かってるね」
「わ、私だって本気を出すと強いぞ!?」
「いやいや、リガル様がどうやって下界に……ん? そういえばフィーリル様が【分体】とか言ってましたよね。ってことは、そんなに心配なら下界に降りて直接怪しい人間がいるか見回ったらどうです?」
「それですっ!!!!!」
「「「(ビクッ!!)」」」
ビ、ビックリした……
また死にかけていたアリシア様が急に復活したと思ったら、いきなり大声を上げるとは。
一番謎が多いのは、実はアリシア様かもしれない。
「い、いや待て待て、アリシア? そんな干渉したらフェルザ様に凄く怒られるんじゃないか?」
「うん、フィーリルができたのはまだ人種がいない時だったから。【分体】とはいえ、今やったら禁忌事項に引っかかりそう」
「でもこのままでは、事が起きてからでないと気付けないんですよ? それでいいんですか?」
「「……」」
「それに干渉ということなら、既にロキ君をここへ呼んでしまっています。世界の衰退を止め、発展へ導くには今更だと思いませんか?」
どうしよう。
俺のせいで、何やらマズそうな方向にやる気を滾らせているアリシア様を止めるべきか、それとも押すべきかが判断できない……
どっちだ?
どっちが正解なんだ!?
俺に意識が向いていない今のうちに考えろ!
【分体】を推奨し、女神様達が直接動くことによって、俺と同じような転移者を見つけることができれば『転移者特有の能力』という結論で片付く可能性がある。
もし飛ばされた人間が全滅していて見つからなかったとしても、今後飛ばされた人間が出てくる可能性もあるわけだし……
女神様達が原因究明のために探している期間は諸々延命できると言えるか。
逆に【分体】を推奨しなかった場合、俺だけでは転移者を見つけることは相当難しい。
そんな異分子を見つける嗅覚なんて俺には無いし、時間も無い。
となると原因が分からないまま俺の謎の能力だけが際立って、できるか分からないが最悪はこの能力を剥奪なんてことも――
それはマズい。
折角チート転生野郎どもでは持ち得ない何かが俺にはあるんだ。
ただでさえ加護やら職業選択でハンデを背負っているというのに、この能力まで奪われてしまえば俺には何も無くなってしまう。
それなら―――
「あの、これも個人的な意見ですけど、この世界ってフェルザ様に見捨てられちゃってるんですよね? そんな見捨てている世界を、色々な世界を管理されている忙しそうな方が気にするものなんですかね……?」
「「「えっ?」」」
「いや、もし俺が女神様の上司ならですよ? たぶん相談事を持ってこられても、適当にやりたいことやりなさいよって返事をして終わらすと思うんです。もうどうでもいいと思っている世界なんであれば」
「「「……」」」
「今もここにいない3人が結界を張っていると思うんですけど、実はそんなこと意味ないくらいに、フェルザ様がこの世界をまったく気にしていなかったりして……」
「「「…………」」」
いけない。
3人の目にじんわり涙が浮かんでいる。
あくまで客観的な意見を言ったつもりだが、この世界をなんとかしようとしている女神様達にはあまりにも酷な内容だった。
保身のために皆を傷つけてしまうのはさすがにマズい……
「すみません言い過ぎました。俺の意見なんて持ちだしても意味がな―――」
「……覚悟はできた。やるぞッ!」
「うん。【分体】で下界を直接監視しよう」
「そうです。このまま手をこまねいてこの世界を終わらすわけにはいきません!」
「ん? え? 一応他の皆さんとも相談された方がいいんじゃ……?」
すると、空から声だけが降りかかってくる。
「話は聞いておりました。私も助力させていただきます」
「フェルザ様を見返すんだね! 頑張るよ!」
「久しぶりの下界は楽しみです~」
「……」
(……ほ、本当にこれで良かったのか? 結論を出すのが早過ぎて物凄く不安になるんだが?)
こうして、俺が余計なことを口走ったばかりに、『女神様【分体】監視作戦』が翌日から決行されることになってしまった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
ここで第3章は終了となり、この57話を分岐点に書籍版とWEB版とで物語が大きく枝分かれしていきます。
女神が下界に降臨するルートはWEB版。
女神が下界に降臨しないルートが書籍版となりますので、お好みのルートもお楽しみください。
同じ世界観でありながら、片方では明かされていない設定がもう片方では明かされていたりします。