Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (577)
560話 どっちなんだい!?
Fランク狩場の南部に点在していた岩礁の一つに腰掛け、先ほどの魔物と、それに目の前の浅瀬で狩ったEランク魔物の死骸を眺めながら情報を纏めていく。
Fランク狩場《サザの浜辺》
キシュキシュ(やどかり):【水魔法】Lv1
ブリーズシェル(二枚貝):【風魔法】Lv1
パロ(歩くヒトデ):【毒牙】Lv1
Eランク狩場《フーリン海岸》
フーア(泥人形):【泥化】Lv2 【擬態】Lv1
ポートイール(ウナギっぽい):【気配察知】Lv1 【噛みつき】Lv2
スパインタートル(甲羅に刺のある亀):【噛みつき】Lv1 【硬質化】Lv1
「これで6種……こんなもんかな?」
予想通り、パロの【毒牙】がグレー文字だったのはいいとして。
身体中に大量の海藻をくっ付けて【擬態】していたフーアという魔物からは、ワカメや昆布っぽい、出汁の取れそうな海藻を得られたし。
ポートイールという、齧りながら足に絡みついて海中へ引きずり込もうとする蛇……というよりウナギやアナゴみたいなヌメヌメした魔物は、焼いて塩でも掛けたら美味しくなりそうだし。
それに長い刺を甲羅から大量に生やしたスパインタートルという亀は、ちょっと齧ってみたら淡泊過ぎてあまり味がしなかったけど、鍋に放り込んだら化けそうな気がするし。
それぞれに素材としての特徴があるので、今後の食事には期待が膨らむ一方なのだが、内心期待していたスキルはこの段階になっても手に入らない。
「うーん……【水中呼吸】があれば、この先の狩り方だって大きく変わると思うんだけどなぁ……」
今はまだいいのだ。
俺でも足がつく程度の浅瀬で済んでいるのだから。
しかし次のDランクからは、陸が遠目に見える程度の近海が狩場となってくるので船は必須。
まぁ俺の場合はその限りじゃないにしても、魔物がある程度深い場所にいると、今までのような狩り方ができなくなってしまう。
【水中呼吸】が魚人種の種族固有スキルなのだとしたら、しょうがないのかもしれないけど……
「先に他のFランクとEランク狩場を回ってみて、それでもダメだったらDランク狩場に期待するしかないか」
取得できなければたぶん、今までのような周りに配慮した狩り方はできない。
となると、せめて人のいない時間帯に……
そんなことを考えながら、素材目的で各魔物を手当たり次第に狩っていった。
そして、夜。
人気のない暗がりの海で【広域探査】を使用し、事前に聞いていた目印と魔物名から目的のDランク狩場を特定していく。
――『サハギン』――
――『キラーロブスター』――
――『タニファ』――
「んー……そこまで深くはなさそうだけど、20メートル……30メートルくらいか……?」
はっきりとした距離感は掴めないが、タニファの反応が海底と思われる似たような深さで広がっており、そこから極端に深い反応は一つも拾えない。
【地図作成】を開いて等高線を表示してもこの辺りは平坦に近いようだし、まずはそのことにホッと安堵の息を吐く。
この程度なら息を止め、海の中に潜ってもまだなんとかなるだろう。
しかし、100メートル、200メートル……もしかしたら地球のように1000メートルを超える深海が存在し、そんな場所に生息している魔物だっているかもしれないのだ。
だからこそ、可能性の広がりそうな【水中呼吸】を、苦もなく狩れる浅い段階から早めに――。
そう思っていたわけだが、海岸線を南下しながら低位狩場を巡ってみても、所持する魔物は見つからず。
となるとDランク狩場に期待するしかなく、服を脱ぎ、祈るような気持ちで海中にダイブすると、さっそく姿を現したのは人のような手足を持つ魚――サハギンだった。
自ら加工したなんてことはないだろう。
たぶん漁具、もしくはハンターが所持していたんだと思われる錆びた槍を突いてくるその姿を見て、
(くそ……)
俺は思わず悪態をついてしまう。
決して水中だから動きにくいとか、そんなことではない。
それどころか予想以上に身体を動かせるのは、【泳法】と自身のステータス、それに【地形耐性】の影響ももしかしたら出ているのかもしれないけど……
名前から連想できる魔物の姿を想像し、一番このサハギンが【水中呼吸】を所持している可能性が高いと踏んでいたのだ。
しかし結果は【槍術】【捨て身】【跳躍】の3種のみ。
期待外れの結果に怒りのグーパンチをお見舞いすると、凶悪な魚顔が弾けたように砕け、血を巻き散らしながら遥か彼方へと飛んでいってしまった。
(やべ、素材が……)
すぐにやり過ぎたと、後悔するも。
その血肉に反応し、群がるように湧いてくる魔物達を見て、思わず笑みが零れてしまう。
餌が必要になる可能性は考えていたが……なるほど。
考えてみれば魔物同士でも死体を食らうわけだし、素材価値がない魔物の残骸をバラ撒いても十分釣れるわけか。
これは――……【水中呼吸】があれば好都合という状況は変わらないにしても、乱獲を目的とした場合。
それに攻撃の届きにくい深部の魔物を釣るという意味でもかなりデカい。
はさみではなく、鎌のような手を振り回しながら近寄ってきたキラーロブスターを素手で締めつつそんなことを考えていると、後方から大口を開けて迫る、オオサンショウウオのような魔物が視界に入る。
資料本には海トカゲと表記されていたので、これがタニファで間違いないと思うが。
「……ん、ヴォッ!?」
そのスキルを確認した瞬間、驚きから海中にいると自覚しているにもかかわらず声を漏らしてしまった。
まてまて……
これは
ど
っ
ち
なんだ?
【毒牙】よりはまだ可能性がありそうな気もするけど、しかし仮に白文字なら、俺は軽く人間を辞めてしまいそうな気も……
動揺する俺の気持ちなど知るわけもなく、血肉に釣られて迫りくる魔物の動きは止まらない。
――結果。
『【急速再生】Lv1を取得しました』
すぐに流れ始めた新スキルの取得アナウンスを、俺は両手が塞がったまま視界の端で捉えていた。
(マジでこれは、どっちなんだい!?)