Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (587)
570話 潜水
今まで得られた情報と、それに族長のあの反応からしても、まず縄張りと称するこの領域内に最低でも1つはあることが分かっていたのだ。
夕食後、再び下台地を離れて海へ向かった俺は、1時間程度の探索でBランク狩場 《アムスト海域》の場所を特定することはできていた。
しかし。
「かなり深いな……」
等高線通りであれば、この付近は深さが1000メートル近くありそうなことも厄介だが、それ以上に浅海域での魔物の反応があまりに薄い。
この事実に深い溜息を吐く。
【広域探査】で魔物の反応が得られるのは、水深100メートルくらいになってからだろうか。
そのため先ほどから試しで餌となりそうな死肉を撒いちゃいるけど、寄ってくるのは普通の小魚ばかりで、一向に魔物が海面付近まで浮上してくることはなかった。
もっと深くに餌を放り込めば、多少は釣れるのかもしれないが……
「……本気で潜ってみるか」
Bランクでこれなら、名前からして既に怪しいしAランク狩場《モデア海底谷》はさらに深くなる可能性が高そうだし、それならどこまで潜れるのか一度試してみるべきかと。
大きく息を吸い込み海へダイブする。
ここからは【泳法】頼みでひたすら泳ぎだ。
動きのある水の中では転移するだけでも数十秒と時間が掛かるし、移動先が水の中だと【空間魔法】が発動しないので、空と違って転移の繰り返しというのはまったく現実的じゃない。
かと言って【水魔法】で強引に海水を操作したとしても、まだ水圧の影響がはっきりと見えていないこの状況では、安易にそのようなリスクの高い方法を取ろうとは思えなかった。
20~30メートル程度なら既に経験しているので何も問題はない。
50メートル……80メートル……
夜ということもあり、【夜目】を使用しなければ完全な暗闇であろう海中を潜っていくと、たぶん到達までは30秒も掛かっていないだろう。
そのくらいで海中を漂う、まだ情報にない魔物を発見する。
見た目はナマコ……いや、人の身体よりもだいぶデカい毛虫か?
全身から生えた毛がフサフサと靡いており、伸縮を繰り返しながら移動するその姿は非常に気持ちが悪い。
それに――なるほどね。
スキルを覗き、特徴を理解した俺は、離れた位置からどんなものかと【雷魔法】を放つ。
『雷槍』
すると毛虫の身体を突き抜けた途端、赤黒い血と共に青い液体が海中を漂い、それは溶けるように消えていく。
(なるほど……【酸液】持ちを海中で潰すと、あーやって周囲に広がるわけか……)
おまけにこの毛虫は【分裂】まで持っているので、中途半端な力量の近接がチクチク攻撃しようものなら、ソイツも含めて周囲が大惨事になると予想できる。
なのに『ニッカ』の町では素材としての取引実績がなかったのだから、一応数体は回収するつもりだが、たぶん食えないし素材としての価値もろくにない、ただただ面倒な魔物ということになるのだろう。
それに比べると――ははっ。
血肉に釣られて近寄ってきた古代魚のような見た目の魔魚、『ゴアスケイルフィッシュ』を視界に収め、俺は思わず顔がニヤついてしまう。
【突進】と【硬質化】は良いとして、ここで【呼応】持ちとはなんと有難い魔物か。
――【挑発】――
とりあえず1体を誘き寄せるも、外殻の存在する3メートルくらいの硬い魚で、迫力は凄いが倒すのに苦労するようなタイプではない。
となると、やることは一つ。
――【招集】――
呼吸が苦しくなってきたため一度浮上し、例のごとく海上に氷島を浮かべてから、その付近で搔き集める。
【招集】の有効範囲はレベル8の現在で240メートル。
海中で戦うと寄ってきた魔物をただ殺すだけになってしまうが、これならある程度の数は誘き寄せられるし、大量の素材を活かすことだってできる。
「ふはは! 大漁じゃーい!」
レモラが庶民も食べられる高級魚なら、こちらは貴族でなければ食べられない高級魚と言われていたらしいのだ。
まあ当時は魚人種任せで纏まった数が入ってこないから、必然的にそうなっただけだろうが……
それでも味にはかなり期待できそうだと、ワクワクしながらほとんどの死体を収納し、いることが分かっている残りの1種を求めて再び海中に潜ること数回。
(やっぱり、この辺りが限界かな……)
ステータスと、それにもしかしたらスキルの影響だってあるのかもしれない。
200メートル近く潜っても目立った身体の異変は感じられないが、水圧どうこうとは別に呼吸が持たず、【水魔法】をいろいろ試してもこれ以上深くには潜れないでいた。
それにあくまで到達できただけ。
悠長に狩っていられるような状況ではないというのに、もう1種の魔物――『カプリコーン』はさらに深い位置にいてまったく手が届かない。
【空間魔法】じゃ空気の出し入れなんてできなかったし、周囲の海水を操作して水のない空間を作り、そのまま空気を海中に持っていく案もそこまで長く維持することなんて無理だったし……
これはもう最終奥義でケイラちゃんを連れてきて、人工呼吸で酸素を取り入れるしか方法がないのでは?
そんなことを考えながら、石で無理やり作ったタライと共に海中へ潜っていると。
(うおっ!?)
不意にかなりの速さで槍が飛んできたため、仰け反った拍子に支えていたタライを手放してしまう。
ああ、ばかばか!
俺の酸素ボンベが!
「む、あれを避けるか」
「だが所詮は人間、あのような可笑しなモノを抱えて狩りをしているようでは話にならん」
「ああ、武具も身に着けていない今が狙い時。このまま水中で仕留めるぞ」
「覚悟せよ。お前に恨みはないが、これも我ら魚人の生活を守るためだ」
周囲に視線を向けると、俺を宮殿に案内したあの黒いのを含む、派手な鎧を纏った4人の魚人が上から見下ろしていた。
水中で普通に喋っていることにも驚きだが……なるほど。
分かりやすい餌を海上に置いておけば族長が釣れるのではと期待していたら、先に来たのはこの連中か。
どのような事情があるにせよ、こうしてあからさまに俺を殺しにかかってきている以上、ソイツは殺す。
そんなのは当たり前のことだが……
「あなた方、今すぐ退かないと、間違いなく死にますよ?」
それでも、命令されて来たのであろうこの4人に忠告の意味で告げると、海中では声がよく聞こえなかったのか。
4人の魚人種は揃って訝しげな視線を俺に向けた。