Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (597)
580話 今までで一番ツラい狩場
倒そうと近づくと、よく分からないまま俺の視界は暗闇に染まり、慌てて”光玉”を生み出すも、その光ですら浮遊する黒い何かの中へとすぐに吸い込まれていった。
狙っていた魔物自体は動かないので、【気配察知】だけでは反応が拾えない。
しかし探査系と、それに【魔力感知】でも反応はしっかりと掴めているので、そこにいることは間違いないし見失うこともなさそうだった。
なら、とりあえず撃ってみるか。
そう判断してかなり大きめの雷槍をぶっ放すと、あっさり絶命する謎の魔物。
と、同時に【夜目】を通した俺の視界が急に晴れたので、やはり原因はこの魔物が所持していた見知らぬスキル――【月喰】であろうことを理解する。
「ん~見た目はデカいアンコウか……?」
【擬態】が解除されると、身体の過半を豪快に貫かれた5メートルくらいはありそうな魚がおり、頭から長く伸びた釣り竿のような突起物の先は、先ほど俺が薄っすらと見ていた黒い玉に繋がっていた。
アンコウは【月喰】の所持レベルが2だったため、そもそも使えるタイプなのかもまだ分からない。
が、ここで唯一の新規スキルだ。
密度が低く、広く分散するように生息している魔物をシバきながらこのアンコウを狙っていき――
『【月喰】Lv1を取得しました』
アナウンスが流れてすぐにステータス画面を確認。
白文字であることに思わずガッツポーズをとりながら詳細を確認すると、このように書かれていた。
【月喰】Lv1 光を飲み込む黒渦を生み出し、最大量に達するまで周囲を完全な暗闇に染める 対象範囲、飲み込める量はスキルレベルによる 魔力消費50
【穢れた霧】とはまた質の違うタイプ。
使いどころは難しいが、なにせ【夜目】も無効化してくるのだから、面白いスキルであることは間違いない。
あとはレベルも最低限上げておきたいところだが。
「ここで無理に動く必要もないか……」
この段階までいくと下手に狩りにくい狩場で粘るより、【転換】の余剰経験値で上げてしまった方が効率も良いので、まずは見かけた魔物を適度に狩りながらこの海底谷と、その谷間に沿った岩壁の奥。
この先がザンキさんの言っていた迷路だろうと思いながら、いくつか存在しているポッカリと空いた横穴に視線を向けた。
▼
想像以上に厄介だな。
外の狩場を一通り確認した俺は、そんなことを思いながら脇から延びる海底洞窟の内部へと侵入していた。
多少は期待したものの、内部に生息している魔物は巨大なワニがほとんど現れなくなったというくらいで同一。
なので生み出した光玉を前方に走らせても暫くするとアンコウに吸収されてしまい、迷路を攻略するためのアンテナの役割は果たせなかった。
かと言って地図を開いても、ここは地下に広がる海底洞窟。
等高線もこの空間までは反映してくれないので、【夜目】を通しているというのに薄暗く、おまけにクソ寒い海中をひたすら泳いで探索していくしか方法がなかった。
と言ってもさすがにこれだけだといつ終わるか分からないので、代わりに吸収されない”黒玉”は出しまくっているが。
『殺せ、黒玉』
前方に向かって無数の黒玉を飛ばし、魔物を始末しながら先を探索させる。
そして俺はというと、その黒玉の反応を【広域探査】で確認し、無理やり頭の中でここのマップを描いていた。
スキルで獲得したスーパーな記憶力頼みの力技だが、海中ではまともにメモ書きなど残せないし、転移で強引にここを抜けても泳ぎじゃないと再びここへは戻ってこれないので、いろいろ考えてもこれくらいしか方法がなかったのだ。
どう考えたって魚人専用に作られた狩場だからだと思うけど、俺にとっては今まで廻った中でも過去一でやりづらく、そしてツラい狩場であることは間違いない。
まあそれでも、ここで引くなんて選択肢はないけど。
ただの狩場であればこんな横穴の迷路を作る必要はなく、外にそれらしい表ボスも見当たらなかったのだ。
となると、高い確率でこの奥にはボスがいて、魚穎番衆の面々も倒していないというのだから、このまま進めば鉢合わせる可能性が高い。
そう思って彷徨うこと4時間ほど。
「あー……きたかな、これは」
今までのような、自然に形成された幅も高さもバラバラな地下洞窟という雰囲気から、まるで人工的に作られたトンネルのような……
直径15メートルほどの幅で均一に掘られた穴は、綺麗に湾曲しながら長く長く続いていた。
同じ海水で満たされたその空間を少し探索するも魔物はおらず、同じような太さの穴が綺麗に交差していたことで、こんな不自然な地形があるならいよいよここはボスフィールドで確定だろうなと。
そう思った時。
ゴゴゴゴ……
地鳴りのような音と共に海水が急に流れ始め、下から穴一面と言っても過言ではないくらいに大口を開けた何かが俺に向かって迫ってきていた。