Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (60)
59話 同行
「さて、それじゃ行きますけど……リア様、靴とかこの場に出現させられないんですか?」
「素材があればスキルで作れるけど、無いから無理」
「ほんと何も考えないで【分体】作ったんですね……」
結局その後の話し合いの末、今日1日だけは俺に同行し、魔物のスキルがどのようなものなのか。
また取得する時は何か通常と違うことが起きるのかなど、転移者の探索とは別に俺の調査をするということで合意した。
俺自身は特に隠したいことも無いので、調査だと言われたところで何も問題は無い。
一応魔物を倒しに行くのだからと【分体】の性能も確認したところ、分体を出した数だけ本体の能力から分割されていくとのこと。
女神様達は神界で祈祷用、職業選択の際の【神託】用などで、基本数体の分体を常時出しているらしいのだが、それでも人間のソレよりは遥かに強い状態なので、特に狩場でリア様を気遣う必要は無いらしい。
そりゃ全てと言っていいくらいのスキルを保有しているんだ。
ボーナスステータスだけでも、とんでもない能力値になっていることだろう。
能力が本来の数分の一になったところで俺より遥かに強いのは間違いないし、Eランク程度の魔物にやられるわけがないというのも頷ける。
それに万が一何かがあっても、所詮はスキルで作られた分体なので、本体への支障はまったく無し。
どちらかというと【分体】を作るデメリットは本体が弱くなることらしいので、安全な神界に身を置いている限りリア様は無敵状態というわけだ。
果たして人間に使える者がいるのか分からないが、使えたら相当に優秀なスキルであることは間違いない。
ただ難点として、分体生成の目的は自動で指定したスキルを使うためにあるらしく、分体にセットできるのは本体が保有しているスキルの中から1種類のみ。
そのスキルは今回の目的に必要な【神眼】を割り当てているため、別のスキルを当てにすることはできないし、戦闘面はただ見ているだけで参加するつもりはないという忠告を予め受けてしまった。
さすがに女神様が保有するスキルを全部使えるなんていったらチート過ぎるしね。
そこまで求めていなかったし、初めからラストアタックは自分で取るつもりなので、戦闘に参加しないのもまったく問題無しだ。
それと素朴な疑問として、【異言語理解】が無いなら俺の言葉は理解できるのか?と思ってしまった。
そのことを確認すると、女神様は数多の言語能力が初めから備わっていたそうで、フェルザ様の管理世界にある言語ならスキルが無くても会話程度は問題無いとドヤ顔されてしまった。
なんとも女神様らしいというか、一般人からすれば理解できないレベルの頭脳だけど、とりあえず意思疎通が図れるなら俺としてはそれでいいので気にしないでおく。
これなら狩場同行も問題無い。
そう、ルルブの森に着いてからのことは何も問題無いのだが――
まずは靴も無いのにどうやってルルブの森まで行くの?という大問題を現在抱えている。
(靴屋が何時に開くかよく分からないんだが? 他の店が動き始める時間を考えれば朝8時くらいか? それなら今から向かえば丁度いいくらいな気もするけど……)
「リア様、一度【分体】を引っ込めて、後で出すことってできます?」
「【神託】を挟んでロキの場所が特定できれば可能。だけど道中の様子も見たいから却下」
「えぇー……でもこの宿から出るだけで一苦労ですよ? リア様お金払ってないんですから」
「そこはロキが頑張るところ」
……とんでもない人任せだぜ。
だがここで考えていても始まらない。
本来なら既にこの町を出て狩場へ向かっている頃だし、これ以上時間を無駄にするつもりは無い。
「はぁ~分かりましたよ。とりあえず女将さんには今日二人分のお金を払うとして……ほら、行きますよ?」
そう言って俺はしゃがみ込む。
「?」
「裸足なんだからそのままでは歩けないでしょう? とりあえず靴屋までは背負いますから、早く乗っかってください」
「……分かった」
すでに俺はしゃがんでいるので、リア様がどんな顔をしているのか分からない。
少しの間を置いて、俺の背に加わる多少の重みと頬を擽る細く長い黒髪、そしてなんともいえない甘い匂いが鼻腔に伝わるも、俺はスケベ心なぞおくびにも出さず女将さんの下へ向かう。
今日ほどリア様との間にある革鎧の存在が恨めしいと思ったことは無い。
「女将さんすみません。とある事情でこの子も昨日部屋に泊めることになってしまいまして……二人分払うので勘弁してください!」
「あらあら、坊やもやるじゃないか。なるほどねぇ……次からはちゃんと事前に言うんだよ!」
「なんもしてません! シーツは綺麗ですから!!」
自分でもとんでもない言い訳をしているのは分かっているが、このまま勘違いされたのではたまったもんじゃない。
このままではエロガキと思われてしまうし、実際何もしてないんだからしっかり訂正はさせてもらう。
それにしてもリア様、軽いなぁ……
【分体】って体重も分割されるのか?
見た目だけで言えば中学3年とかそのくらい。
身長は俺と同じかちょっとだけリア様が高いくらいで、たぶん150cmもないくらいだろう。
靴は買ったとしても、真っ白いワンピースだけで武器も持たない少女がルルブの森とか、狩場で人に会ったらなんて言い訳すればいいのだろうか。
そんなことを思いつつ、なんだかんだと俺の首元をギュッと掴むリア様をこそばゆく感じながら、俺は背負ったまま靴屋へと向かった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「リア様、本当にサンダルで良かったんですか? このままルルブの森まで走るんですよ?」
「大丈夫。いざとなったら靴脱ぐから」
「それ買った意味ないじゃん……」
今俺達はベザートの町を出て、ルルブの森へ向かって北上している。
もちろん女神様がいようが俺のスタイルは変わらないので、道中はいつもの特大籠を背負ったジョギングスタイルだ。
リア様と一緒にギルドなんか行ったら大騒ぎになりそうだったので、靴屋で靴を選んでもらっている最中に依頼の確認と籠を受け取り、その後すぐに合流して出発した。
先ほどからリア様もジョギングについてきてはいるのだが、どうにも買った靴がサンダルなので危なっかしい。
だがさすがに、ワンピースにハンター用の無骨なブーツが
似
合
う
とは言えなかった。
どっちが似合うかと問われれば、そりゃサンダルだと答えてしまうのはしょうがない。
そんなやり取りをニヤニヤしながら眺める靴屋の親父の顔は、たぶん5年くらい忘れることはないだろう。
「そういえばリア様」
「なに?」
「リア様含めて、女神様達が顔でバレるというのは大丈夫ですか?」
当たり前だが、下界に女神様が降臨しているなんてなったら一大事だ。
仮に【分体】とは言え、バレればお祭り騒ぎになり兼ねないし、一緒にいる俺はなんなんだという話に十中八九なってしまう。
「それは大丈夫。直接会った人種は1万年以上前だし誰も分からない」
「なるほど……あっ、例の次元の狭間から落ちたって人ですか?」
「そう。あの時が最後」
「その人もやっぱり教会に立ち寄ったから分かったんですかね?」
「うん。教会――というより神具の近くに来れば私達は個別に人を判別できるから、その時に異分子がいれば違和感に気付ける」
だからか。
一番初めに教会へ立ち寄った時、何か声を掛けられたような感じだけはした。
結局気のせいだと思ってそのまま立ち去ってしまったが――
「もしかして俺が最初に教会へ立ち寄った時、誰か俺に呼び掛けました?」
「あれはアリシア。この世界の人種じゃないかもって大騒ぎして、ロキを引き留めようとしてた」
「そういうことだったんですね。気のせいかと思って帰っちゃいましたよ」
「それはしょうがない。神具である神像から離れれば私達の力も弱まるから」
神像が神具か……
ということはあの黒曜板も神具ってことになるのだろう。
それにしても1万年以上前から神像があり、教会があり、今とさほど変わらない文明が続いていると思うと、この世界の停滞っぷりは凄まじいことがよく分かるな。
地球ならなんだ? 原始人の時代だろうか?
「まぁ神具と言っても神像があの作りじゃ、リア様を見てもただの超絶可愛い子としか思わないでしょうね」
「……」
「間違っても自らバラさないでくださいよ? その後絶対に面倒な事が起こりますから」
「それは大丈夫」
その後も片道3時間の道中、リア様と会話を続ける。
この【分体】で知り得た情報は、本体へとリアルタイムで伝わること。
本体に伝われば、そのまま女神様達へと情報共有されること。
転生の時は女神様が対応するも、直接の応対は全てアリシア様がしていること。
【神眼】はその対象を目で見なければいけないため、射程範囲のようなものは視力に依存すること。
女神様達が当たり前のように心を読むあれは、文字通り【読心】というスキルを使っていること。
当然ながら、リア様はこの世界のお金を持っておらず無一文なこと。
神界は管理世界それぞれで分けられているため、俺が見たあの場所には女神様達6人だけで暮らしていること、などなど。
【神通】で2分、教会経由の魂を神界ご招待で体感10~20分。
そう考えれば、ここまで長く女神様としゃべったのは初めての経験だ。
だが自然と話題が次から次へと出てくるため、言葉が途切れることは無い。
呼吸が大きく乱れないよう、いつものジョギングよりもペース落としてしまったが……
それでも昼前、ようやく初となるルルブの森へ俺達は到着した。
誤字報告ありがとうございます!