Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (602)
585話 どデカい収穫
「む、早いな」
「あんなこと言われたら当然でしょ。それより普通じゃないって、どういうこと?」
パッと見渡した限り、町が大きく混乱しているような様子はない。
それもあって、少し安心しながら目撃者であるリルに状況を確認すると、意外な答えが返ってくる。
「たぶん、ロキと同じ類いの人間だろう」
「え?」
「私はアリシアのように微細な波長の区別などつかないが、この辺りでは見ない不思議な恰好をしていたし、何より私が【神眼】を使ってもスキルを覗けなかった」
「マジか……」
てっきり異世界人――転生者の誰かが現れたのかと思っていた。
というより、俺がこの世界に訪れてもう2年。
当初はそんな可能性も考えながらここを開拓したつもりだったけど、リルがこの屋上で監視をするようになってからは一度も話題に上がることがなく、転移者の存在自体俺の頭の中から消えかかっていたくらいだ。
それがまさか、ここに来て本当に現れるとは……
「とりあえず、その転移者はどこにいるの?」
「入り口にある小屋だ。いつもいる髭の凄い男が引き取っていた」
「了解、ありがとね。それと町の安全強化でリルにやってもらいたいバイトができたから、この件が落ち着いたら紹介するわ」
「え? ほんと……」
なんか後ろで言っているけど、今はそれどころではないのだ。
屋上から飛び降りてすぐに小屋へ向かうと、歳は30代半ばか、後半くらいだろうか?
作業着だと分かる上下揃いの服を着た男の人が、豪快に喉を鳴らしながら水を飲んでいた。
机の上に放り出された作業用ヘルメットに印字されているのは……漢字か。
「おおロキ王、早速来てくれたか」
「ええ、町に被害や混乱は?」
「それはないはずじゃ。東区で農作業をしていた住民が、森から突然現れたこの者に助けを求められたみたいでな。そのまま真っ直ぐここに連れてきたと言っておった」
「なるほど……なら間違いないですね。この人は以前に可能性があるとお伝えしていた『転移者』です。ここからは僕が対応します」
「うむ」
小屋の周囲で様子を窺おうとする者はいないことを把握し、さて、何から確認していこうか。
正面の椅子に座ろうとすると、男は目を見開き、まじろぎもせずに俺を見つめていた。
「……何を言っているのかは分からないが、君は日本人なのか?」
「そうですけど……えーと、アーユーチャイニーズ?」
【異言語理解】を通して翻訳された言葉を耳が拾っているため、なんの言語を喋っているかは判断できないが、どう見たって目の前のこの人は東洋人。
それでいて俺の喋る言葉が理解できず、漢字を使っている可能性が高いとなると、もう中国とか台湾くらいしか出てこない。
その予想は当たったようで、ブワッと涙を浮かべながら何度も頷き、縋るように俺の手を両手で掴む。
「あ、ああ……やっとだ……やっと、わけの分からないこの世界で、初めて……ありがとう……ありがとう……!」
いったいどれほど森の中を彷徨っていたんだろうな……
中腰になって手を伸ばした男の左腕や腹には乾いた血が大量に付着しており、指は食い千切られたのか。
欠損した部分を覆うように衣類を破いた布が巻かれていた。
――【神聖魔法】――『治癒』
「ッ!?」
「もう大丈夫ですから。ただ――、まずは僕の言葉を理解してもらうためにも、最低限スキルを取得しにいきましょうか」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
ベザートに辿り着くまで、レベルが上がるほど魔物を倒しているのか。
言葉が通じないのでは何も分からないため、とりあえず教会に足を運んでみたがスキルは取得できず。
ならばしょうがないと軽くレベリングを手伝い、身振り手振りに筆談まで使って【異言語理解】のレベル3を取得してもらってからようやく会話が始まった。
と言っても、目の前の彼は食べながらだが。
確実に腹が減っているだろうと思ってニューハンファレストのレストランに連れてくと、涙を流しながら次々と口の中に食べ物を放り込んでいく。
その気持ち、分かるわぁ……
「では食べながらでいいので、まずお名前を教えてもらえますか?」
「あ、ああ、リー・シャーロンだ。君は?」
「僕はロキと言います。この国――って言っても国と呼べるほど人は住んじゃいないんですけど、一応王をやっていますので、リーさんのことは責任を持って保護するつもりですから安心してください」
「ぶふッ!? お、王……? えっ、いや、すまん……じゃなくて、すみません。もしかして俺は、物凄く失礼なことを……」
「いえいえ、ある程度は融通を利かせられるという意味で伝えただけですから、言葉遣いなんて気にしなくていいですよ。こんな見た目ですし、堅苦しいのは嫌いなので」
「そ、そうか……しかし、まさかの王様で、日本人なのにその名前か……」
頭を抱え、状況を整理するように大きく息を吐いたリーさんは、今までとは違う生気を感じる眼差しで俺に問い掛ける。
「聞きたいことは山ほどあるが、とりあえずここがなんなのか教えてほしい。剣やら魔法などと言っていたし、本当に俺はゲームのような世界に紛れ込んでしまったってことでいいのか?」
「……そうですね。地球とは明らかに違う、ゲームと現実が混ざったような不思議な世界であることは間違いありません。そして――」
一瞬、出会って間もないリーさんを相手に、俺がこの世界に来た本当の経緯を伝えてしまってもいいものか、躊躇いを覚えるも……
2年越しに見つけた、転移者としての情報を擦り合わせられる初めての相手。
ここしかチャンスはないと覚悟を決めて言葉を続ける。
「――生きてあの森から抜け出せたのは、知る限りだと僕に次いでリーさんで二人目。他は遺留品の一部がいくつか森の中に残されていた程度で、死体すらまともに残ってはいませんでした」
「そうか、他にも……俺だってヘルメットがなかったら、まず間違いなく初日に死んでいた」
「ちなみにリーさんは、なぜこの世界にいきなり飛ばされたのか。何か思い当たる節があったりしますか?」
「いや、まったくだ。今の生活にうんざりしていたっていうのはあるが、そんなの特段珍しい話でもないだろう? 自ら望んだことはないし、何かしらこうなることが予測できていたのなら、さすがにこんな格好で来たりはしない」
「ですよね……だから擦り合わせをしたいんです。なぜ僕達が選ばれたのか。剣やら魔法と先ほど口にしたのですから、ここへ来る前に、こう――どんぐりのような頭をした存在に会っていますよね?」
もしかしたら、この人には伝わるんじゃないか。
そんな可能性も考慮し、敢えて口にしてみたが。
「ん? 急に言葉が聞き取れなくなったが、今なんて言った? 俺はいきなり目の前が暗くなって、そしたら―――――――――――んだ。最初は不覚にも面白そうだなって思ってしまったがとんでもない。いきなり辺り一面が森の中なんて詐欺にもほどがある」
やはり駄目。
どんぐり頭に繋がるような話は以前と変わらず伝わらないし、逆に俺も何を言っているのか分からなかった。
しかし、何も収穫がないわけじゃない。
おおよそ同じようなやり取りが行われ、俺達は同じように森の中で捨てられた。
となると、俺とリーさんはどこまで同じで、どこかに違いがあるのか……
今までのような推測ではなく、はっきりとした答えが見つかるかもしれないのだ。
緊張から喉の渇きを覚えながら1つ1つ確認していく。
「順番にいきましょう。まず最初、僕は『見つけた』と背後から声を掛けられたんですけど、そのようなことは?」
「いや、それは無かったな。急に地面の下に落ちるような感覚があって、工事中の穴に落ちたんだってその時は思っていた」
「なるほど……ちなみに面白そうと感じたということは、断らなかったわけですか?」
「ああ、魔法やらスキルが飛び交うゲームは若い頃にどっぷりハマっていたから、その時はなんとなく、むしゃくしゃしていたこともあって丁度いいかなって」
リーさんとだけなら、ある程度分かりやすい気もするが……
俺とリーさんと、それに情報としては断片的だが、古城さんにも繋がる共通点となるとそう簡単には見つからない。
なので一度共通点から意識を外し、別の取っ掛かりに注目する。
断らなかったということは受け入れたということ。
「では
何
も
スキルを得ずにこの世界へ降り立ったと?」
「そうだが……なんだよ。もしかしてロキは、特別になんか貰えたりしたのか?」
「ですね。僕は何かしらくれるのが普通だと思っていたので、ゲームのようにステータス画面を見られるようにしてもらったのと、あとはゴネにゴネて年齢を若くしてもらっています。元々の歳は30ちょっとだったので」
そう告げると、リーさんは掻き込んでいた料理の皿を乱暴に置いた。
「は、はぁ!? ちょっ……それはさすがにズルくねぇか!? いや、強さには直接関係ないのかもしれないけどよ……」
「たぶん、そこが大きいんですよね。だから2つとも特例で認められたのかなって」
「いや、ステータス画面は俺だって見えるんだから、その年齢を若返らせてもらった方だ。あの野郎……キャラクリできるなら最初からそう言えって――……」
怒りながら、それでも食事の手を止めないリーさんを前に、俺は暫し硬直する。
ほーら、きた……
転移者同士だからこそ分かる話。
どデカい収穫1発目だ。