Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (609)
592話 呼び起こす医療
「んんっ、勘違いしないでいただきたい」
男はすぐに訂正を入れると言葉を続ける。
「隠す気もないので、望まれれば全てを打ち明けるつもりですが、まず何からお伝えすべきか……そう、まず私は、”呼び起こす医療”を研究していましてね。……アマリエ、準備を頼めるか?」
「え? まさか、今から自分を?」
「ああ、見てもらった方が分かりやすいだろうと思ってな」
「でも、効果は……」
「先ほど施術した患者を再び触るわけにもいかないだろう。それにこんな機会そうあるものではない。改めて試してみたいのだ」
何が始まるんだ?
分からないまま、それでも何かを見せようとしている二人を眺めていると、男は用意された刃毀れの目立つナイフを魔道具で炙り始める。
そして布を口に噛ませると――
「んぐぅううううう!!」
血走った目で何度も何度も、失った腕の断端部に自らナイフを突き刺し、噴き出した血が置かれた器をはみ出し周囲を赤く染めていく。
まるでその部位をぐちゃぐちゃに破壊するような行為。
慣れない者が見たら卒倒してしまいそうな光景を眺めながら、呼び起こす医療とはそういうことかと。
おおよそ意味を理解し始めたところで、噛んでいた布を吐き出した男が叫ぶように懇願する。
「も、もう1度! 【神聖魔法】をもう1度、この腕に掛けてはもらえませんか!?」
まあ、そうくるよね。
再び破天の杖を取り出し最大魔力で治癒を試みると、次第に出血は止まり、皮膚がゆっくりと傷を覆い隠すように先ほどの形へと戻っていった。
俺の目には先ほどまでと変わらないように見えるが。
「ふ、ふふ……やはりだ……やはりロキ王様の【神聖魔法】は、何か奥底で疼くモノがある……それが今回でより大きく感じられた……!」
「あっ、形成も以前とは少し異なっているように見えますね……」
二人はそれぞれ違いを感じられたらしい。
特に男は度々感謝の言葉を口にしながら、明らかに興奮した様子で感じた異変や自分が意図的に傷つけた箇所など、詳細をアマリエさんに伝えていた。
「先ほども呻くような声が奥から聞こえていましたし、これを普段の診療でもやられているんですか?」
「重度の火傷や骨折をしたまま最低限の生活を強いられ、不完全な形で自然治癒をした者など山のようにいましたから、改善の見込みがある患者に提案し、その上で本人が望むならです。ただ大抵の者は痛みに慣れていない。だから最初のうちは麻痺薬や睡眠薬も適量使用しますよ。痛みが過去の身体を呼び起こすための重要な要素にもなるので、徐々に与える分量は減らしますがね」
「なるほど……で、僕が試したら今までにない異変を感じられたことで、僕の治癒を目的に、近くにいることを望んだというわけですか」
「正確には2度目からですが、その通りです。最早戻ることはないと諦めていた私の左腕が再び使えるようになれば、より高度で難解な治療も施せるようになる。そうすれば多くの患者を救えるでしょうし……ふふ、片腕を失った途端、私をゴミのように切り捨てた連中の鼻をへし折ってやれる……」
「……」
アマリエさんと共にこの男を受けて入れていいものか、何かがありそうな気配がしていて悩んでいたが、最後の最後。
粘つく感情ごと吐き出されたこの恨言が男の本音か。
……ならば問題ない。
スキル構成からして武力で派手に解決するようなタイプではないし、抱えている感情が強い復讐心なら、下手な夢や希望を描く者より遥かに大きな原動力で動き続けるはずだ。
それに切り捨てた連中というのがなんなのかは分からないが、理不尽を成果で以て見返そうとしているのなら、その想いが成就できるようこちらも応援したくなるしな。
「分かりました。こちらも【神聖魔法】はまだ改善の余地がありますし、スタークスさんには多くの住民を献身的に救ってもらえれば、僕からお礼に腕の回復を試みる。そしてアマリエさんには、無理がない程度に彼の補助と、あとは呼び起こすまでもない人達に魔法治療をお願いできればと思うのですがどうでしょう? 仮住まい用の家や職場となる診療所くらいはこちらで用意させてもらいますので」
「ええ、もちろんですとも!」
「わ、私もです。ただ場所が変わるだけですし、この程度で恩を返せるとは思えませんけど、この【回復魔法】が役に立つなら精一杯新しい町で務めさせていただきます」
最初の印象とはまるで違い、怖いくらいに爛々と目を輝かせるスタークスさんと、やや不安げな表情を浮かべながら、それでも決意新たにといった様子で頭を下げるアマリエさん。
そんな二人に対し、笑みを浮かべながらこちらも頷く。
アマリエさんを目的にしていたら、なかなか尖った医師までついてくることになってしまったが……
(まあ、ベザートにとって損になることはないだろう)
そんなことを考えながら、麻痺や睡眠薬も使うなら、やはりもう一人の探し人もいた方がいいだろうと。
エステルテさんの行方を念のために確認した。