Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (62)
61話 感じる防御力の恩恵
「ロキ、【突進】レベル2と【噛みつき】レベル1っていうスキル持ってる。どっちも魔物専用」
「おっ! 了解です」
目の前には体長1メートルほどのスモールウルフが2体。
そして既に1体は、頭を斬り付けられて俺の足元で横たわっている。
現在の【気配察知】範囲である半径15メートル内で動きを捉えたと思ったら、そこからはもうあっという間。
元から素早いのと、たぶん【突進】も使われたんだと思うが――
気配を捉えたら構える間もなく目の前にいるという状況なので、焦って思わずスモールウルフの顔面に剣を振ってしまった。
まぁロッカー平原のポイズンマウスと違い、顔を極力無傷で倒すべき魔物でもないので問題は無いだろう。
見た目は茶色い大型の犬程度だが、唸って怖いし牙は結構凄いし……
それでこのスピードの団体行動なんていったら、レベル5程度でここに来ようものなら、間違いなく動きに追いつけなくて死んでいただろうな。
だが、スキル重視で狩場を移動している今なら問題無い。
【突進】はさすがにちょっと焦るくらい速いが、それでも直進しかできないという特性は分かっているんだ。
横にズレながら腹を裂けば――
ホラこの通り、一発で終わる。
(って同時かよ! 体勢が――やべっ……避けられん!)
ドゴッ!
(グッ……ん?)
「……」
(……)
見つめ合う俺とスモールウルフ。
内心同じことを思っていた気がする。
(「あれぇ……?」)
だって痛くないんだもの。
突っ込まれた時に多少衝撃は来たものの、足が一歩後ろに下がった程度で問題無く踏み留まれるし、衝撃による痛みはほぼと言っていいほど無し。
(これは鬼上げした【毒耐性】のおかげだろうな。防御力だけ突出してるし)
するとハッと我に返ったスモールウルフが、旋回しながら標的を変える。
(まずっ……リア様に狙いを変えやがった!)
走って追いつこうとするも、初動の動きからして移動スピードはまったく敵わない。
「リア様! そっちに行っちゃいました! くそっ、間に合わなっ……【突進】!!」
視界が流れ、スモールウルフとの距離が縮まるもまだ追いつかない。
(もう一発だ! 【突進】!!)
そしてやっと捉えたスモールウルフの尻に素早く剣を突き入れ、なんとかほぼノーダメージでスモールウルフとの初戦が終了した。
(ふぅー……尻尾を傷つけちゃったけど、討伐部位だから大丈夫か?)
「私に来る魔物は気にしなくてもいいのに。今のが【突進】?」
「あ、そうですそうです。思わず使っちゃいました」
「急に移動が速くなるんだね」
「今のレベルで大体通常の2倍くらいですかね。効果は5メートル程度の距離までですけど」
「2回使った?」
「えぇ、2回目は頭の中で唱えて発動させました」
「なるほど」
そんな話をしながらもすぐさま解体に入り、そのついでにステータス画面を確認する。
(その他枠その他枠、と……あー取得できるまで表示もされないタイプか)
【噛みつき】が60%、さっきのリグスパイダーで【粘糸】が20%と表示されているのかと思ったら、どうやらスキルツリーに表示されていない魔物系統スキルは取得前の途中経過が分からないらしい。
【突進】はパーセンテージが載っているので、取得してから細かいことが分かるということなのだろう。
「リア様、このスモールウルフって敵をあと2体倒せば、【噛みつき】ってスキルを取得できるはずです。たぶん」
「たぶん?」
「取得するまで途中の経過が分からないんですよ。取得して初めて詳細が分かる、みたいな?」
「ふーん。【噛みつき】って、ロキが噛みつくの?」
「えっ……いや、どうなんでしょうね。さっきの【粘糸】もそうですけど、そもそも得られたとして俺が使えるのかは謎ですし……もしかして取得できないパターンもあるのかな?」
【突進】であれば、魔物だろうが人間だろうが、突進できれば【突進】だ。
日本語としてどうかと思うけど、できるかできないかで言えば大半の生物ができる行動と言える。
対して【噛みつき】は――まぁこれも口と歯があれば大概できるだろうが、【粘糸】は間違いなくそうじゃないだろう。
糸を作る器官が体内に無ければどうにかなるものではない。
となると、どうなるんだろうな?
取得してそんな器官が体内に作られるのか?
(……まさかとは思うが、魔物専用スキルを取得し続けていると、どんどん人間離れした身体になるとかないよな? 大丈夫だよな!?)
こんなこと、今まで考えたこともなかったので急に不安になってくる……
でもリア様に今伝えるのは止めておこう。
どちらになるか分からないなら、一度どうなるか試すしかない。
試さずビビったら、今後ほとんどの狩場で俺はまともな狩りができなくなってしまう。
一生ロッカー平原なんて耐えられるものじゃない。
(糸がもし吐けるようになってしまったら、その時は女神様達に相談しよう……)
そう心に決め、ちょっと試してみたスモールウルフの皮剥ぎに辟易して途中放棄し、さらに奥へと進んでいった。
そして約20分後。
『【噛みつき】Lv1を取得しました』
「おっ、リア様! 予想通り【噛みつき】を取得しましたよ!」
あれからリグスパイダーを1匹、さらに追加で現れたスモールウルフ2匹を軽く捻り、無事俺は【噛みつき】スキルを取得した。
「ちょっとステータス画面で詳細確認しますので待ってくださいね」
「うん」
(これか。普通に使えそうだけど……実用性皆無だろこれ……)
詳細はこのように出ている。
【噛みつき】Lv1 任意で1秒間、噛みつく所作に能力値120%の補正を行う 魔力消費3
「ま、魔力を3使って、噛みつく力がちょっと強くなるみたいです」
「……それ、使えるの?」
「一応は使えるみたいですが、まぁ使う場面は無いでしょうね……」
「……」
「あーでもボーナスステータスは筋力なので、そこは優秀ですよ」
リア様はなんとも言えない顔をしているが、そんなの俺だって同じだ。
使う用途の無いスキル。
でもまぁいいじゃないか。
無いよりはあった方がなんとなくお得感もあるし、それでステータスがちょっと上がるならマイナスということはない。
……そのはず、だよね?
「リア様っ! 俺の歯がいきなり尖ったとかないですよね!?」
「? 大丈夫そうだけど?」
良かった。
これで急に獣みたいな歯になり始めたら、俺の異世界人生はお先真っ暗だった。
まだ油断できないが、とりあえず恩恵は少ないけどデメリットも無しと思っておこう。
「さ、次行きますよ! まだオークを倒してませんし、時間は15時くらいがタイムリミットですからね!」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
二人で森の中をフラフラと。
さらにリグスパイダーを追加で1匹倒した後、あまり視界には収めたくない光景が映り込んだ。
(あーオークは見つけたけど……4人パーティか?)
【気配察知】範囲外の場所で、オークと交戦中のパーティ。
それだけなら特に問題無いのだが、対峙しているオークは2匹おり、パーティは一応交戦しているものの、どうも逃げ腰のように見えてくる。
(さて、どうするか。以前アマンダさんから教わったルールだと、誰かが戦っている魔物の横取りはご法度。不必要に余計な手出しをすればトラブルの元になると言っていたな)
ここら辺は俺がハマり込んだゲームでも一緒だ。
所謂『横殴り』というやつで、大体経験値や戦利品絡みで揉めるため、ゲームによっては某掲示板に晒されるくらい忌み嫌われるマナー違反行為とされている。
そして今視界に入るパーティはというと、引きながら戦っているといえば戦っているし、撒けなくて困っていると言われればそのようにも見えるという、なんとも判断のしづらい状況だ。
本来なら声をかけて意志確認を取るべきだが――
背後をチラリと見れば、涼しい顔をしたリア様の存在。
俺一人ならこうするのにという行動ができず、身動きが取れなくなる。
そんな思いをリア様も察したのか。
「私のことは気にしなくていいよ?」
「いや、それでも、び……少女が森の中にいるってだけで普通じゃないですからね。あまり人には見られない方がいいと思うんですよ」
「……ふーん。で、どうするの?」
「今それを考えてはいるんですけど、リア様から見てあれはどう思います? 逃げてますかね?」
「……それは分からないけど、あの4人は強くない。大したスキルを持っていない」
ふーむ。
いくらリア様でも人のレベルや能力値は見えない。
見えるのがスキルだけとなれば、その判断が曖昧になるのも当然だろう。
おまけにリア様から見ればどんな人間だって弱い。
正直大して参考にはならないか。
となると……一時的に隠すか?
「リア様、素通りして後で全員死んでましたとなっても寝覚めが悪いので、とりあえず声は掛けようと思います」
「うん」
「なので、リア様は木の上にでも隠れていてもらえませんか? ただでさえその白い服は目立ちますから」
「登れってこと?」
「俺がリア様を押し上げますんで大丈夫ですよ」
そういって目の前に立つ、比較的真っ直ぐ伸びた木にリア様を誘導したら、その横で石柱作りの準備に入る。
「今からリア様の足元に石柱を作ります。リア様を乗せて迫り上がりますから、木に手を添えるなりして落ちないように気を付けてくださいね?」
「面白い使い方するね……」
「それじゃ行きますよ」
『高さ5メートルの石柱を生成』
ズズズズズズズッ……
「リア様! あとはその辺の枝にでも掴まってのんびりしていてく……だ……さい」
失敗した。
決して狙ったわけじゃない。わけじゃないが――
リア様がワンピース、つまりスカートだったことを失念していた。
真下から見上げればそりゃ見える。
(そうか……
こ
っ
ち
も
白か……)
見せてもらったのが神様ではあるけど、敢えて神様、幸運をありがとうと言いたい。
「いでっ!」
そんな、少し先では生死のかかった死闘を繰り広げているパーティがいる中で、幸せが脳内を埋め尽くしていたら急に痛みが走った。
(なんだ? 枝が降ってきたぞ!?)
再度上を見上げると、ワンピースの裾を押さえたリア様が、顔を真っ赤にして俺を睨みつけている。
「……あとで殺すっ!」
「ぎゃー!!!」
森には一見魔物に襲われたような、しかし内情はまったく別の悲鳴が木霊していた。