Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (65)
64話 商談
「本当に済まなかった!!」
大声の謝罪がギルド内に響き渡った。
その姿を見て、換金や分配、食事で賑わっていた受付近くにいるハンター達が、何事かと押し黙って様子を窺っている。
「えーと……とりあえず顔を上げてください」
「いや! そう簡単に上げられるものじゃない! わざわざ助けに入ってくれた者に魔物を押し付けるなんて……本当に……本当に済まなかった……」
困ったな……この人の誠意はもうしっかり伝わった。
だからどうこうするつもりは無いし、そもそも俺はほぼ無傷で帰還できているわけだから実害を被ったわけでもない。
もしかしたら、以前のアデントの一件が余計に彼をビビらせてしまっているのかもしれないな。
「分かりました。今日の件は許しますから。見ての通り僕は無事でしたし、もう顔を上げてください」
そういうとやっと顔を上げる男。
「温情、本当に感謝する……しかし、俺に何かできることがあれば――何かないか? あれだけのことをしたんだからなんでも言ってくれ!」
おぉう……義理堅いというかなんというか。
そういえばリア様も、斧の男だけは逃げる時も気にしていたと言っていたか。
しかしなんでも言ってくれって言われてもなぁ……
チラッとアマンダさんを見ると、溜息を吐きながらも事情を説明してくれる。
「アルバが今日の顛末を伝えに来たのよ。助けに入ってくれた少年に魔物を押し付けて逃げてしまったって。それでまだ戻っていないって言ったら、ここでずっと待ってるって……」
「そうでしたか」
「でも良かったわ。1人で少年なんて言ったらロキ君くらいしかいないし、たぶん大丈夫だろうとは思ってもギルド員は皆心配してたのよ?」
そう言われて事務所側に目を向けると、俺の事情を知っているペイロさん始め、話したことはないけど顔は知っているという面々と目が合う。
なので皆さんに頭を下げながらも、とりあえずの事情だけは軽く確認しておく。
「ちなみに、あの時は4名のパーティだったかと思いますが、他の3名の方は?」
するとアルバさんも、そしてアマンダさんも苦虫を噛み潰した表情をした。
「済まない……君がアデント達と揉めた相手と知るや否や、この町から逃げてしまった……」
「これは私が悪いわ。ロキ君相手にやらかしたら、タダじゃ済まないわよって言っちゃったから」
「あっちゃー……」
ただアマンダさんを責めることもできないな。
このような謝罪も無く、のらりくらりと躱すようだったら本気で何かしらのツケを払ってもらおうと考えていたのだから。
「事情は分かりました。とりあえず謝罪はしっかり受け取りましたから、もう気にすることないですよ? 次は気を付けましょうというくらいで」
「え? い、いや、しかし! おめおめと助けられた者だけが生き残り、最悪は君だけが死んでいた可能性だってあったんだぞ!?」
「うーん、まぁ状況によってはそうなったかもしれませんが――僕はこの通り生きてますし?」
「どこか怪我とかしていないのか?」
「おかげ様でピンピンしています」
「オーク2体を1人で相手取って……? どうなってるんだ……?」
「実害はありませんし、アルバさんも反省されているようですし……逃げた3人はもし見かけたらボッコボコにしてやろうと思いますけど、アルバさんに対して何かするつもりはないですよ?」
「で、でもだな! それでは私の気が……」
うーむ。
よっぽど罪悪感に苛まれているのだろうか?
まぁ確かに俺がもう少し弱かったりすれば、助けに入った者が惨たらしく死に、助けられた者達が逃げ帰るという構図になっていたのは間違いない。
俺が逆の立場だったら――
うん、罪悪感があるなら当分まともに寝られないだろうな。
となると、何か軽い要求をしてあげた方がアルバさんの心は軽くなるかもしれない、か。
「ん~ん~ん~……」
「ロキ君? 大丈夫?」
彼はルルブの森で狩りをしているハンター。
現在はパーティ解散状態でたぶん1人。
年齢は……30代くらいでハンターとしては慣れていそうな感がある。
しかしオーク2体だと苦しいくらいの実力か……
「ちょっとー! ロキ君! 聞いてる?」
「あ、あぁ少し考え事をしておりました」
「たまにどこかへ意識が飛んでるわよね……」
「ははは……考え事をするとよくこうなってしまいまして。それでアルバさん」
「な、なんだ?」
「今回の件があるから、というわけではありませんが――お互いウィンウィンになれるかもしれないので、少し僕とお話ししませんか?」
そういって俺は『
商
談
』を持ちかけた。
「え?」
俺の問いかけにいまいち理解できていないアルバさんの背を押し、空いているテーブルへと誘導する。
「とりあえずそこに座りましょう。あっ、おばちゃん果実水氷バージョン下さい! アルバさんも何か飲みますか?」
「い、いや遠慮しておく……」
「喉乾いたら言ってくださいね。そのくらい奢りますから」
「あ、あぁ……」
何が何やらという顔をしているが、内容によってはアルバさんにとっても得のある話なんだ。
多少不躾な質問をしてしまうが許してほしい。
「それではこれから幾つか質問をさせてもらいます。そう難しいことは聞きませんので気軽に答えちゃってください」
そう言って俺の考えていることが実行可能か、確認をしていく。
「アルバさんはこの町のご出身ですか?」
「ん? そうだが……」
「ハンターはいつ頃から?」
「10歳になってからだ」
「ということはハンター歴は結構長いということですね。今Eランクですか?」
「そうだ」
「パーティは3人が町から逃げたということは、今アルバさんお一人ということになるんですかね?」
「そうなる」
「今後はどうするご予定で?」
「ルルブで狩っているどこかのパーティに混ぜてもらうか、もしくは一人でも問題無いパルメラあたりで日銭を稼ぐか……まだ決まってはいないな」
「なるほど……では声を掛けられるパーティがいくつかあるということですね」
「長くハンターをやっていれば、知り合いはそれなりにいるからな」
「ちなみにルルブの魔物ですけど、仮にアルバさんお一人であればどの程度倒せそうですか?」
「ひ、1人か……?」
「えぇ。例えばオークは無理、でもスモールウルフ2体ならいけるとか……なんとなくで結構ですので」
「そうだな……オークだと無理をして1体なら倒せるかどうか、スモールウルフやリグスパイダーだと1対1ならまず問題無い。ただ複数体同時はあまり自信が無いな」
「なるほどなるほど……今声を掛けられようとしている他のパーティの方々はどうです?」
「どう、とは?」
「実力的には皆さん同じくらいですか? 一人だとオークを倒せるかどうか、パーティでも無理をしてオークの複数体同時戦闘はしないくらいとか?」
「ベザートだと一つ抜けて強いパーティはあるが、あとはどこも似たり寄ったりで今言ったくらいの実力だろう」
ふむふむ。
一つ抜けて強いパーティというのは、ロディさんが言っていた特大籠を唯一使っているパーティのことだろうな。
「ということはルルブの1日の収支で言えば、パーティでおおよそ20~30万くらいでしょうか?」
「そう……いや、30万は無理だ。俺がいたパーティもそうだが、オークを1体狩ったら肉を詰めるだけ詰めて町へ戻るやり方だ。他の魔物の素材があったとしても1日20万を少し超えるくらいであることが多い」
「それをパーティメンバーで分けるということですね?」
「そうなる」
「分かりました、ありがとうございます。色々細かいところまで聞いてしまってすみません」
「いや、所持スキルとかの話ではないし、まったく問題無いが――今ので何か分かったのか?」
「えぇ、バッチリですよ」
ここまで聞ければ問題無い。
後は条件が整うかどうか、そしてやる気があるかどうか次第だな。
まぁ仮にアルバさんが乗っかってくれなくても問題はない。
当初がその予定だったわけだから、今からしようとしていることはあくまでおまけだ。
「では僕から提案をさせてもらいます。もちろん断られても結構ですので、とりあえず内容だけでも聞いてください」
そう言って俺の考えている計画を話した。