Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (72)
71話 森の拠点
日の沈みかけた夕暮れ時。
俺は疲労が蓄積した身体を引き摺りながら、川辺に続く崖を眺めていた。
(ん~寝床が作れそうではあるな。もうちょっと奥に行けば俺好みな環境があるかもしれないけど……ダメだ。もう歩きたくない)
見上げる崖は高さ5メートルまでいかない程度。
川の片側だけに存在しており、どういう経緯か隆起した地面が川の流れによって削り取られたように見える。
森の入口からは1kmも入り込んでいないはずなので、場所的には計画を遂行する上でも好条件。
しかし壁面は岩ではなく全面が土で、そこだけが俺の中で気掛かりだった。
パルメラ大森林で一泊したような、都合の良い洞穴はそう簡単に見つからない。
ただ連戦に次ぐ連戦で足や手に若干の震えまで出ているこの状況では、より良い環境を求めてという気力が湧き上がってこなかった。
(オークの図体を考えれば3メートルくらいのところに穴を開ければ大丈夫かな……)
そう思うや川の中をバシャバシャと入り、住処作りの準備を進める。
「高さ、3メートルの、石柱を、生成」
ズズズズズッ……
ロッカー平原で、自分の足元ではなく座った状態のお尻に石柱を作れば、より安定して上へ運ばれると知ってからはもっぱらこのやり方だ。
石柱に座ったまま自分の高さが3メートル近くまで迫り上がったので、次に崖の一部を見つめながら穴開け作業を開始する。
「大きい、穴を、形成」
ボコボコボコボコッ……
(うーんちょっと狭いし歪だな)
出来上がったのは高さ1メートル、奥行き2メートル程度のポッカリ空いた穴。
寝られることは寝られそうだけど、ここで焚火をして食事もとなるとちょっと心許ないし、何より凹凸の酷い土剥き出しの地面が非常に気になる。
しかし……
ステータス画面を開けば、魔力量は剣を持っているのに残り『29』
もう少し改造したいが魔力が無い。
このままではここで昏睡モードに入ってしまう。
ルルブの森は、ロッカー平原と違って常に軽い魔法を唱えながらの移動狩りだ。
自動回復はあったとしても、使用ペースとの相殺がいいところで、全快には程遠い状況であった。
(しょうがない……とりあえず今は我慢して、魔力が回復してから拡張作業をしていくか)
そう思って残りの魔力を計算しながら、まずはこれを作る。
「平らな、石を、生成」
ズズッ……
「ふむ」
イメージ通りの造形に声が漏れる。
さすが精霊、俺の思い描くイメージをしっかり掴んでくれているのだろう。
目の前にあるやや大きめな石の
ま
な
板
に、先ほどからずっと肩に担いでいた『
オ
ー
ク
の
特
上
肉
』をドンッ!と置く。
1体分、約10kg相当をそのまま持ってきたので、どう考えても一人で食べられる量じゃないが……
それでも初のオーク肉。初の異世界バーベキュー。
俺のワクワクは止まらず、どうせ余っているんだしと、ついつい欲張ってガッツリ持ってきてしまった。
革袋から塩を出し、肉を切るナイフも準備オッケー。
使う前にナイフを火で炙れば、解体用だろうが衛生面はたぶん問題無いだろう。
なんかあっても【毒耐性】がきっとなんとかしてくれる。
あとは―――
あぁあああ! 木! 枝! 燃えるものっ!!
日が暮れる前にと急いで先ほど作った石柱を滑り降り、周辺にある小枝を搔き集めては、容赦なく作った寝床の穴へ放り込む。
パラパラと上から川へ落ちてくるも、そこら中に枝はあるから細かいことなぞ気にしない。
ついでに少し大きめの石もいくつか穴に向けて放り投げ、もう一度降りることが無いようにと、辺りを慎重に物色する。
考えている最中に襲ってきたスモールウルフは、ウザいとばかりに斬り捨てる。
その死体をなんとなく眺めるが……
(ん―――……さすがにこの気温なら、寝る時毛皮なんていらんよな? いきなり剥いで使っても、絶対変な匂いするよな?)
できれば敷布団や掛布団が欲しいところだけど、そんなことまで求め始めたら仙人生活なんてできそうも無い。
そこら辺は追々考えればいいかと問題を棚上げし、両手にも枝を抱えて穴倉へ戻る。
――いや、戻る手前で足が止まる。
(……)
目の前に立つ自分で作った石柱を見上げ……
過去に籠を上げるだけ上げ、取ることができなくなったロッカー平原の嫌な記憶が蘇った。
(ふぅ~……落ち着け、俺。大丈夫だ。まだ焦る時間じゃない)
ソッとステータス画面を見れば、残りの魔力は『15』
レベル2の【土魔法】を使えば最悪昏睡する恐れのある状況だ。
(まな板作って喜んでる場合じゃねーよ……どうするどうするどうする……)
考えてみれば、高さ指定の石柱を作った時に魔力消費がどうなるかはあまり検証していなかった。
ロッカー平原でそこまで魔力に困らなかったというのが一番の理由だ。
(レベル1なら最大でも魔力消費は『9』だから昏睡は確実に避けられるが、高さ50センチ程度の石柱ができるだけ――そこから3メートルの石柱の上へ飛び乗るには無理がある……なら回復するまで待つか? 魔力が『20』まで回復すれば、1.5メートルの石柱は生成できるから、そこまで高さが確保できればまず戻れる。
ただもう日が落ちた後だ。もう間もなく月明かりのみになってしまうか……それで魔物に対応できるか? 不意打ち食らっても死にはしないだろうが、倒すとなるとかなり厳しい気が――)
まさかのまな板作成がここまでの大事になると思わず、窮地とも言える状況に思考がグルグルと回る。
しかしそんな中で、ふと、一つのことに気付いた。
(そういえば【粘糸】なんていう、
取
得
し
て
も
使
え
な
い
ス
キ
ル
に隠れて忘れていたけど、リグスパイダーはもう一つ【夜目】も持っていたな。どれどれ……)
【探査】で魔物の気配を探り、安全と分かった時点でステータス画面を確認。
そこから【夜目】を探して詳細説明に目を通していく。
【夜目】Lv2 暗闇の中でも僅かに視界を確保できる 魔力消費0
(うーん、予想通りと言えば予想通りだけど、随分と説明が簡潔だな)
そう思いつつ、魔力消費が無いタイプであれば試すのが早いと、早速使用してみることにした。
【夜目】
すると僅かにだが、光量が増えたような、コントラストが少しだけはっきりしたような感覚を覚える。
影になって既に暗い部分はそのまま暗く、月明かりの照らされている場所は少し明るく見える程度ではあるが……
(ふーむ。どの道こんなところで昏睡なんて致命的なことやらかすわけにもいかないし、とりあえず【夜目】を使いながら魔力が『20』になるのを待ってみるか。あっ、ついでに魔力回復の時間を計ってみるかな?)
そう思って革袋から腕時計を取り出すと、この暗さではちょっと見えにくいと経験で分かっていた時計の針も、幾分見えやすくなっていることに気付く。
(いつでも戦闘できるようにはしておいてっと……)
すぐ剣が振れるように立ち上がり、石柱に寄りかかりながら【気配察知】を意識しつつステータス画面を確認。
魔力残量が『16』に切り替わった途端時計を確認し、またステータス画面へ視界を戻す。
そしてそのついでと、現状のステータスを眺めていく。
名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>
レベル:13 スキルポイント残:66
魔力量:16/98(+18) 剣を所持している場合のみ魔力上昇付与でさらに+50
筋力: 47 (+20)
知力: 48(+11)
防御力: 46 (+112)
魔法防御力:46(+9)
敏捷: 46(+23)
技術: 45(+12)
幸運: 51 (+7)
加護:無し
称号:無し
取得スキル
◆戦闘・戦術系統スキル
【棒術】Lv3 【剣術】Lv3 【短剣術】Lv1 【挑発】Lv1 【狂乱】Lv1
◆魔法系統スキル
【火魔法】Lv2 【土魔法】Lv3 【風魔法】Lv4
◆ジョブ系統スキル
【採取】Lv1 【狩猟】Lv2 【解体】Lv2
◆生活系統スキル
【異言語理解】Lv3 【気配察知】Lv3 【視野拡大】Lv1 【遠視】Lv1
【探査】Lv1 【算術】Lv1 【暗記】Lv1 【俊足】Lv1 【夜目】Lv2
◆純パッシブ系統スキル
【毒耐性】Lv7 【魔力自動回復量増加】Lv1 【魔力最大量増加】Lv1
◆その他/特殊
【神託】Lv1 【神通】Lv2
◆その他/魔物
【突進】Lv4 【粘糸】Lv2 【噛みつき】Lv3
ふむふむ。
手帳を宿屋に置いてきたから細かい部分は分からないけど、それでもルルブの魔物が所持しているスキルは軒並みレベルが上がっている。
まぁそりゃそうか。
あれだけ魔物が群がっているんだからな。
狩りまくっていれば勝手にレベルも上がるってもんだろう。
惜しいのはロッカー平原のポイズンマウスみたいに、突出してレベルの高いスキルを持っている魔物がいないことだが……
どれも常時使うような超有用スキルってわけじゃないんだ。
となると、ルルブの森のゴールはスキルレベルというより、自身のレベルをどこまで上げるかで判断した方が良いかもしれない。
今日一日狩って既にレベルは2上昇。
この上がり方は明らかに、俺自身がここの適正以下のレベルだったんじゃないかと予想できる上がり幅だ。
どの辺りでレベル上昇のストップが掛かり始めるか――
ロッカー平原基準でいけば、そのうち半月ほど、丸一日狩り続けても上がらなくなる時が来るはずなので、1日の経験値上昇20%――いや、10%を下回ったらここは卒業。
とりあえずの目安はそのくらいにしておくとするか。
しかしある程度取得スキルが増えると、どのスキルのレベルが上がったというのがかなり分かりにくい。
特に乱戦の時なんかはアナウンスを確認している余裕が無いので、ここで黙っていても上がるスキル以外では、確か【剣術】スキルが上がったよね? っていうことくらいしか覚えていない。
ステータス画面を見直した時にスキルレベルが上がっていたら、『New』なんて文字でも横に付いてくれれば便利なんだけどな。
まぁどんぐりの『凄い』は最初だけだろうから、無理を言ってもしょうがないだろう。
そんなことを考えていたら魔力が『17』に変化したので、すぐさまステータス画面を閉じ、時計の針を確認する。
(うーん? んー……2分40秒くらいか?)
なんとも中途半端だなと思いつつ、取得している【魔力自動回復量増加】レベル1や、皮鎧の【付与】も絡んでいるのだから、こんな中途半端な結果もまぁ普通かと納得する。
「となるとあと8分くらいか。その程度で済むと分かって良かったけど……あ~腹減ったなぁ……」
そんなことを呟きつつ、僅かな光を照らす月を見上げ
「今日は【神通】を使えそうにありません」
と、女神様達に聞こえているか分からない謝罪をするのだった。