Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (78)
77話 現状の本気
(ん~! 慣れてきたとはいえ、やっぱりしんどい……)
引き籠り生活7日目。
予定通り、川の西側500メートル内の入り口付近を殲滅した俺は、トボトボと拠点へ向かって歩いていた。
いつもはジョギングしながら帰るが、今日はまだまだやることがあるので体力温存だ。
丸薬効果がMAXの日ではあるものの、無理をし過ぎれば翌日に支障をきたしてしまうかもしれない。
自分一人なら多少じゃ済まない無茶も慣れたものだが、30人以上と連動して動いているとなると、
責
任
が重く圧し掛かってくるので多少は考えや行動も慎重になってくる。
(まずは一旦夕飯にするか、それともこのまま行動に移すか……そういえば生簀作戦は成功しているかな?)
ふと、朝の狩りに出る前、拠点前でパルメラ大森林以来の罠作りに励んだことを思い出す。
理由は明白、さすがに連日のオーク肉が飽きてきたからだ。
いくら身体が若いとは言え、毎日肉を食えばそりゃ魚も食いたくなる。
なので朝からセコセコと、一度入ったら逃げにくい生簀の罠を作っていたのだが……問題はこの魔物の多さだ。
折角魚を捕まえても、スモールウルフやオークに食われてしまえば意味が無い。
となると今抱えている問題は、やはり早急になんとかしなければと改めて腹を括る。
(魚確保のためにも、のんびり風呂に入るためにも、もうひと踏ん張りしないとな……)
風呂を作っている時や風呂に入っている時、基本魔物は川の西側から突っ込んでくる。
まぁそれも当然だろう。なんせ西側はやっと今日着手したところなのだから。
しかもまだ入り口付近のみなので、拠点周辺にはわんさか魔物がいるということ。
だ
か
ら
そ
い
つ
ら
を
狩
る
。
これが今からの予定だ。
無理のない範疇で丸薬効果を利用し、せめて拠点周りの西側50メートルくらいを綺麗にできれば上等。
そのくらい殲滅すれば、拠点付近に流れてくる魔物も大きく減るとみている。
ふぅ~……
いつもより深い深呼吸を一つ。
(休憩すると風呂の時間も遅くなるしなぁ……石だけ焼いておいて、その間に片付けてしまうか)
こうして即行動を決断した俺は、拠点に着き次第風呂の横で石焼きを始め、その後すぐに西側へと狩りに出た。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
緩やかな傾斜が続く崖の上。
そこで途切れることの無い魔物達の突撃をひたすら捌く。
完全に日は落ち、【夜目】、【気配察知】を使いつつ、【探査】はリグスパイダーに。
【夜目】はレベルが上がったところで、そこまで実益に直結するスキルではないと思っていた。
そもそもルルブは自身のレベル基準で狩場を移るか判断していたので、いちいちスキルレベルが上がったかはチェックしていなかったわけだが……
それでもこうして周囲を見渡せば、初日よりは昨日が、昨日よりは今の方が、多少コントラストが鮮明になったように感じる。
当初白黒だった世界に、少し色が付き始めたのもレベルが上がったせいだろう。
と言っても、まだまだ日中とは大きく異なる視界だ。
距離感が掴めず、魔物から受ける攻撃の頻度はどうしても多くなってしまう。
「はぁ……はぁ……というか……絶対に西側の方が魔物多いだろコレ……」
寄ってくる魔物を斬り伏せながらもそんなことを思う。
日中も感じたことだ。
スモールウルフの数にそう違いは感じられないが、オークの数が明らかに多い。
酷いと5体以上のオークが、スモールウルフを手に持つ丸太で吹き飛ばしながら襲ってくる。
現に今も4体のオークに群がられている時点で、生息のメインが川の西側であることは間違い無いはずだ。
もちろん、隙間を縫って噛みつこうとするスモールウルフはさらにそれ以上の数。
足元は魔物の死体だらけで、既に動く場所すらままならない。
「うがぁああああ!」
意識が散漫になっていたという自覚はあった。
思わずショートソードを振り回すも、そのような適当な攻撃で周囲の魔物が崩れてくれるわけもなく。
「グフッ……」
久々に、オークの振り下ろす丸太が頭部に直撃する。
突出した防御力のおかげで痛みはそこまで強いわけじゃない。
だが、衝撃は殺せない。
……
脳震盪
のような状況になっているのだろうか。
視点を定めることが出来ず、足元もフラつく。
それでも碌に力の入らない足を動かし立ち上がろうとすれば、その前に強烈な丸太の一撃が追加で上から降ってくる。
「うっ、うぐぅ……ヤ、ヤバい……」
立ち上がることすらできず、咄嗟に頭を隠して亀のように蹲ってしまうが。
ボゴッ!
ベゴッ!
それでも魔物に容赦は無い。
蹲ろうが振り下ろされるこん棒の衝撃が、鎧越しに強く伝わる。
すでに噛みつかれてボロボロの服に、そこから覗く皮膚に、追い打ちを掛けるべくスモールウルフ達が群がり噛みついてくる。
(なんて、情けない姿だ……クソッ……こいつら本気で殺しに来てるなぁ……まぁ俺も殺しにいってるし……そりゃ、そうだよな……)
そんなことを考えながら、敵意を剥き出しに魔物を見るではなく、地面を見て後悔するでもなく、俺はステータス画面を開いて一点を見ていた。
(魔力は、剣を持ってれば140ちょっとか……舐めてた。そうだ舐めてた俺が悪いんだ……)
風呂作りを始めてからの習慣にもなっていた魔力温存。
複数体に囲まれても極力魔力を使わず、夜の風呂制作に充てるという考えがここでも当たり前のように通じると思っていた。
だが大して体力も残っていないこの身体で、10体を超える魔物を捌き続けるなんて自信過剰もいいところだった。
俺は強くない。
いや、まだまだ弱いんだ。
Eクラスの魔物にボコボコにされるくらいに。
なら――
ちゃんと
本
気
を出そう。
余力を残すタイミングを間違えるな。
今はその時じゃない。
そう判断した俺は、四方八方から殴り、噛みついている魔物達にも聞こえるように叫ぶ。
『無数の、かまいたちで、周囲の、魔物を、皆殺せ……ッ!!』
その瞬間、俺を中心に大きな竜巻が生じた。
初めて使用したレベル4の【風魔法】
使えばどうなるか、それは俺にも分からない。
だが不思議と安心はできた。
魔物達の攻撃が止まったからというのもある。
顔を上げなくても、周囲から魔物の呻き声と一緒に、何かが切れる音が無数に続いていた。
見つめる地面には、流れ出た赤黒い液体が俺に這い寄ってくる。
一時の静寂――
もう大丈夫か? と顔を見上げてみれば、周囲には細切れにされた魔物の欠片が大量に散らばっていた。
見渡す限りで生き残っている魔物はおらず、【探査】で確認しても元から縄張り意識が強いのか、乱戦には混ざらないリグスパイダーの反応があるだけだ。
「レベル4で、これか」
思わずその場に座り込んだ俺は呟いた。
この狩場であれば、魔物に囲まれようが一発でひっくり返せる威力があることは一目瞭然である。
だが俺はすぐに、よほどの事態でもなければ【風魔法】レベル4の使用を禁止した。
今の俺の魔力では、仮に全快であったとしても3発が限度。
魔力消費が重過ぎて、とてもじゃないが自然回復量が追い付かない。
おまけにこの残骸を見れば……まずまともに素材回収はできないだろう。
魔石くらいは残っているだろうが、討伐部位すら回収できるか怪しいところだ。
アルバさん達がドン引きしながら落ち込む姿が容易に想像できる。
そんなことを血生臭い場所で考えていたら、不意に頭の中にノイズがかったような感覚が――
(フィーリルですよ~。そろそろ【分体】を降ろそうと思うんですけど大丈夫ですか~?)
やっぱり【神託】だった。
しかし、この状況はマズい。
血の海に肉片が散らばっているような状況で、フィーリル様をお出迎えするわけにはいかない。
こんなところで登場されたら、フィーリル様が悪魔召喚のようになってしまう。
(うぐぐっ、魔力残しておいて良かった……【神通】使えなかったらヤバかった……)
そう思いながらも重い腰を上げ、残る体力を振り絞りながら拠点へと急ぎ帰還した。