Will I End Up As a Hero or a Demon King RAW novel - Chapter (96)
95話 お願い
本日2話目
フェリンは先ほどの話を聞いていたのだろうか?
裸足のまま1日半かけて遺留品を取りに行かせるなんて、そんなことを俺が「お願い」なんて言えるはずないだろう。
いくら善人ではないと自覚していても、さすがにそこまでのゴミ野郎にはなりたくない。
「ちょっとちょっと! さっきも言った通り、フェリンにそんな歩かせてまで急いでないから! だから取りに行かなくても大丈夫だって!」
「でも、その鞄の中身がこの世界のためになるかもしれないんでしょ?」
「そ、それは、そうなるかもしれないけど……」
「それに、もしかしたらロキ君のためにもなるかもしれない」
「それこそ、もしかしたらだよ? 何も分からない可能性の方が大きいと思ってる」
どちらも可能性がある、という程度だ。
徒労に終わる場合もあるのだから、フェリンが動く労力と見合っていない。
「それにね。歩かないで取ってこようと思うんだ」
「ん? どゆこと?」
「
転
移
。私がそれ使えばすぐでしょ?」
「あっ……」
なるほど……それなら確かにあっという間だろう。
分かっているポイントに飛んで、回収して帰ってくるだけ。
だったら「お願い」と言ってしまいたくなる。
が――それならなぜ、さっきはあんなに悩んでいた……?
転移を使うにしても、何か別の問題を抱えているとしか思えない。
「……フェリン、転移を使うデメリットは?」
「えっ?」
「デメリット、あるんでしょ? だからさっき悩んでいたんだろうし、簡単に使えるなら覚悟を決めるような決断なんてしないでしょ?」
「うぅー……そういうとこは気付かなくていいんだよ!」
「無理無理~俺そこまで鈍感系じゃありませんから~」
「もう……」
そう文句を言いながらも白状したデメリットは、俺にとってなんとも言えないもので―――
まずフェリンの本体が下界に降臨することはできない。
これは神界の禁忌事項でも明確に決められていることらしく、やらかせば大問題必定になるわけだから、流れとしては【分体】に【空間魔法】を持ち込んで下界に降臨する。
そして下界に降りた【分体】が下界間を転移を使って移動。
こうすることによって【分体】でも下界にある物を運搬することは可能になる。
ここまでは良い。納得もできるし予想通りの流れだ。
内心、無限収納系も転移系も同じ【空間魔法】とか、【空間魔法】ヤバっ! めちゃヤバっ!! 死ぬほど欲しいんですけど!!
5000万ビーケ払ってでも取得方法誰かに教えてもらいたいんですけどー!! と心の中で叫んでいたのは秘密である。
で、この流れの中にある問題、デメリットというのが、転移を使うことそのものにあるらしい。
説明を聞いてもよく分からない内容だが、転移とは一度別の亜空間に飛び、その亜空間を通って目的の場所まで移動すること。
その亜空間に時間経過が存在しないため、ノータイムと言ってもいい速度で瞬間的にワープすることができるし、使っている当人はその亜空間に滞在している認識すら無い。
ただ転移を使えば一度亜空間に飛ぶということは回避できない事実であって、その亜空間は女神様達の上司である上位神フェルザ様の管轄外にある世界。
つまりフェルザ様の管理世界から一度離れるということになってしまうらしい。
首を傾げながら話を聞いている一般人の俺からすれば、一瞬だし問題無いんじゃないの? と思ってしまうが……
生みの親であるフェルザ様の管理世界を離れるというのは、神界にある禁忌事項には抵触していないものの相当な覚悟がいるらしく、またフェルザ様が一時的に捕捉できなくなるかもしれないので、疑われる要素が強くなるとのこと。
要は上司が外回りしている俺の動きをGPS管理していたらなぜか急に追えなくなって、帰社したら「てめぇどこで油売ってたんだよ?」と、ボディーブロー食らいながらガン詰めされる。
体験談だがこんな話に近いのだろう。
本体がちゃんと神界にいれば問題無さそうなものだけど、上位神様の力は凄く、そして恐ろしいと言われてしまえば納得するしかない。
実際俺に女神様達ですらよく分からない能力を与え、異世界にぶっ飛ばしたどんぐりの力は恐ろしいの一言なのだから。
となると――……
やっぱり「転移して鞄取ってきてください」とは言えないよね。
フェリンがフェルザ様にボディーブロー食らう姿なんて見たくないし。
かと言って俺が身代わりを買って出たら、絶対欠片も残らないくらい飛び散りそうだし。
「リアがロキ君に説明したって言ってたから聞いてると思うけど、私達はあくまでロキ君の
監
視
という名目で【分体】を降ろしてるんだ」
「うん、それは聞いているよ」
「でもそれは元を辿れば、ロキ君がこの世界に存在しないはずの『
転
移
者
』だからだよね?」
「そうだね。異分子だから警戒されて監視対象にされる」
「私はそんなつもりじゃないんだけど……まぁそこは置いておくとして。それなら同じ『転移者』の疑いがある人種の所持品を、緊急性があると判断して転移を使って取りに行った。その遺留品は望んでいる文明発展の一助になる可能性もあるから、どうしても私達は必要と判断した。これなら筋は通ると思わない?」
「……うん、おかしな話ではない気がする」
「でしょ? それに絶対にやったらダメと、禁忌扱いされているわけじゃないんだしさ。だから私がもしフェルザ様にバレた時、ちゃんとした言い訳ができるかどうか。それをさっき考えていたんだよね」
「なるほど……」
フェリンが理屈で説明してくるとは思っていなかったので、頷きながらも内心驚いてしまった。
言っていることは至極真っ当で、十分納得できる内容だ。
バレてもちゃんと理由が説明できそうだし、そもそも見捨てられたこの世界ならフェルザ様は何も気にしないと個人的には思っているので、フェリンがお説教を食らう可能性も極めて低いように思えるな。
そっか。
色々と考えていてくれたのか。
ならここはお願いした方が良い気がする。
その方が、フェリンは喜びそうな気がする。
「じゃあ、お願いしても良い?」
その言葉に、フェリンは満面の笑みで返してくれる。
「もちろん! すぐ取ってくるから待ってて! その代わりご褒美期待してるからねっ!」
そう言い残して、フェリンの【分体】は消えていった。