Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (127)
あの中身
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佐城くんへ
おはようございます。一ノ瀬深那です。
急にこんな手紙を送ってしまってごめんなさい。佐城くんにお話があって手紙を送りました。こんなふうに誰かに書くのは初めてなので何だか恥ずかしいです……。
佐城くんが夏休みでアルバイトを辞めてから少しが経ちました。わたしはと言えば佐城くんが背中を押してくれたこともあって、なんとか接客をこなすことができています。ただ、入る時間が夕方からになって……夜寝る時間が少し遅くなっています。次の日あくびをしちゃって……白井さんに見られてとても恥ずかしかったですっ。
そんな折に、この前の休日に佐城くんも知ってる笹木さんがお店に来ました。受験勉強の合間を縫って遊びに来てくれたのですが、佐城くんが辞めたことを知ってガーンッてなっていました。伝えてなかったんですね……。「薄情ですっ!」ってプンプン怒ってましたよ。
佐城くんと連絡する方法が無いとのことで、メッセージアプリのIDを伝えてほしいと頼まれました。個人情報を扱うので……その、こうやって手紙にしました。
じつは……これを機にわたしも始めてみようかなって思って……その、お兄ちゃんや由梨さんに手伝ってもらいながら、何とか笹木さんと同じものをスマートフォンに入れました。はい、あれから少しずつですけど逃げずに向き合えるようになった気がします。
それであの……もし良かったらなんですけど、笹木さんみたいにわたしも、なんて……。あの、迷惑ならいいんです。アルバイトの時みたいにご迷惑をおかけしたくはないので。ただその、学校じゃあまり佐城くんとお話できないなって……。あの、急にこんなことを言ってごめんなさい。笹木さんのついでで大丈夫ですので……その、もし良ければよろしくお願いします。
一ノ瀬深那
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手紙の裏に、可愛らしい花柄で縁取られたメモ用紙も入っていた。真ん中にこれでもかと言わんばかりに大きく『ふうか』という名前とアカウントIDが記されている。本当はそれだけのつもりだったのだろう、その右下に申し訳無さげに小さい文字で『みな』という名前と同じような文字列が添えられていた。
「…………」
可愛い(怒)
は? 可愛いんですけど。何なのこの胸の高鳴り。その辺のラブレターよりラブレターしてんじゃね? これでラブレターじゃないの? どうなってんだよ日本。笹木さんが怒ってるからメッセージID教えとくって……え、これメインは伝言なの? 伝言で人をこんなに悶えさせるとか可能なわけ? この高揚感は何なの? ユンケルなん?
メッセージの交換くらい口頭でも良いと思うんだけど……何なら夏休みのバイトで俺の電話番号登録してるはずだし。わざわざ手紙にしちゃうとか不器用さんかよ……可愛い過ぎんだろ授業中に何てモン見せやがる……。叫びたい、できない。拡散したい、できない。俺の体が爆散しそう。
JCとJKとJDが徒党組んで俺を悶えさせに来てやがる……。さすがJKだわ。一人だけ異彩を放ってる。まさかこれ作戦だったりすんの? 静かな電車の中で不意に笑わせるテロ行為みたいなやつ。もしかしたら一周回ってこれは果たし状だったり……? まさかもう果たしに来てるんじゃ……!?
いやいやいや落ち着け俺、動揺し過ぎだから。オンラインゲームで『フレンドなろうぜ』って言われんのと同じだろ?そんなんでこんなに一喜一憂した事あったかよ。何なら別に嬉しくすらねぇし。いたってフラットに『おけ』って返してたわ。
返事──え? これ返事どうすりゃ良いの?俺も手紙書かなくちゃいけない感じ? ここまでやってもらったんだから俺も書かなくちゃだよな……。上等だよ。俺の巧みな文章力で文学少女の一ノ瀬さんを唸らせてやる。
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一ノ瀬さんへ
おっけー登録しとく。
佐城渉
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ダメかもしれない。
今以上に紙を無駄と感じた事が無い。スマホ使いまくってる弊害なんかな……長い文章書けないんだけど。ただの返事なのに喧嘩売ってるような気がしてきた。自分で書いた返事に殺意芽生えてる。俺が一ノ瀬さんだったら許さない。
一ノ瀬さん何で手紙を寄越しちゃったの……。や、別に嫌じゃないのよ? 寧ろ元気出た。多幸感が凄い。俺の脳みそオキシトシンで濡れまくってるからマジで。もうドバドバだから。感動して泣きそう。目からオキシトシン出る。
でもほら、難易度高いと言うか……ハッ!? まさかこれが狙いだったりすんのか!? アルバイトの時に注意しまくったのを根に持ってて、こうやって復讐がてら困らせようっつー魂胆なのか? 授業中に悶えさせるまでがその作戦の一つだったりして……いやいやいや流石に被害妄想だわ。一ノ瀬さんがそんなこと考えるわけないから。モテないからってそんな捻くれてんじゃねぇよこの野郎。
もう一回。もっかい一ノ瀬さんからの手紙を見よう。きっと俺のスレた心を癒してくれるに違いない。チラッ。
「………」
可愛いなくそっ(怒)
……ちょっと待って。席替え前に芦田が騒いでたけど一ノ瀬さんに聴かれてたんじゃね? え、やだ恥ずっ。ラブレターとかじゃないのにあんなにはしゃいでたわけ? しかも差出人に聴かれただと……? こんな恥ずいことある?
◆
「で!どうだった!?」
「ちょっと黙ろうか芦田」
「え……?」
自覚した途端恥ずかしさが増した。もう何つーか芦田が騒いでるだけで恥ずかしい。一ノ瀬さん目線になると余計に萎縮してしまう。今ごろ内心笑ってるかもしれない。
『んなわけないしウケるんだけど(笑)』
きっとこんな──ち、違うよね? こんなん心折れるどころか人間不信なるわ。大丈夫……一ノ瀬さんの場合むしろラブレターと思われてどうしようなんて不安がってるかもしれない。これはなるべく早く一ノ瀬さんと話した方が良いな……俺自身のためにも。
「手紙ひとつで騒ぐなんて……へっ、まだまだ甘いな」
「なんか急にウザくなったんだけど!」
一ノ瀬さんの元に行くためにもこの芦田を掻い潜らなくちゃいけない。なかなかしつこくて強敵だ。お前俺にデリカシー無いとか言えねぇかんな。人の機微わかんのに自分の好奇心優先しちゃうのタチ悪いから。
「こーゆーのは人に話すもんじゃねぇの。わかった?」
「さじょっちそーゆーの言っちゃうタイプじゃん。デリカシー無いし」
「言いやがったね?」
ラブレターじゃなかったけど、これを話して良いものかって考えるとまた話が違う気がする。一ノ瀬さんの性格を考えると他の人間に見られたくないだろうし、何より信用を失うのが怖い。直接話しに行くのはリスキーだよな……今の一ノ瀬さん授業の合間ずっと誰かに絡まれてるし。悪い意味じゃなくて。
「だって気になるし……」
「俺の中のデリカシーが言うなと叫んでっから」
「早く解放してあげなよ」
「囚われてねぇよ」
しょっちゅうちょっかいはかけられるけどこんなに棘を感じたのは初めてかもしれない。いや冷静に考えたらそうでもねぇな……イス越しに尻をド突く代わりなのかもしれない。悪い意味で遠慮がねぇのは前からか……あぶねぇ、慣れすぎてもはや挨拶になってた。
「───じゃ、じゃあ……!」
「!」
「ラブレターだったかっ………そうじゃなかったか、だけ……」
夏川が遠慮がちに訊いて来た。こういうとこだぞ芦田。そう、お前に必要なのは“謙虚さ”。気になるけどそれを訊くのははばかれるという奥ゆかしい心。そんな風に言われたら俺も仕方ねぇなって───
……ちょっと待って。だからって言わなきゃダメ? あんだけ
狼狽
えといてラブレターじゃなかったとか恥ずかしいんだけど。しかもそれを知られるのがまた夏川って……滑稽にも程があんだろ……。
「なになに?
そう
だったの?」
「えっと……まぁ、それに近い、的な?」
「ぇ……」
「え!? 果たし状とかじゃなくて!?」
否定できない。手紙であること、内容、不器用さ、総合的に俺を震わせるような可愛さだった……あれは俺を倒そうとしてたと言っても過言じゃない。授業中なのに思わず
唸
り声が出そうだった。授業中にいきなり
唸
り出すとかヤベー奴だもんな。にしても思い出しただけでニヤつく。
「ふへ………ある意味果たしに来てたな」
「は?」
「は?」
あれ何か急に。