Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (8)
ガーリィネットワーク
階段を上る。向かうは二年生の教室。
藍沢レナの彼氏について芦田に詳しく質問させてもらった。情報料として俺だけが知ってるかもしれない夏川の可愛いとこベスト5を懇切丁寧に説明したら大層喜んでくれた。去り際に俺の顔を見ながら『うん、アタシの勘違いだったよ、キモいねっ』と超笑顔で言われたのはご愛嬌か。
屠
るぞコラ。
さて、藍沢レナの元カレの名は有村和樹という二年生の先輩らしい。廊下でよく芦田が見かけていたのは藍沢が二年の教室まで押しかけ、そんな彼女を一年の教室まで連れ立って送り届けているという場面だったらしい。その事から藍沢はよほどその有村先輩に入れ込んでいたと窺える。
変装用の伊達眼鏡の位置を直し、二年の教室がある廊下を歩き回る。変装は念の為。万が一にでも俺の事を上級生が把握してたら怖いもんっ。だから無用な誰かとの接触は避けたい。
「…………居た」
有村和樹、SNSでなんとか探して見つけた。写真より短髪でスポーツが得意そうな印象だ。ここから見るだけならフツーに先輩らしい佇まいだ。何あの体操のお兄さん感……俺と全然違くない?無理有るよ藍沢さん……。
スマホを弄りながらその先輩の元に近付いて壁にもたれかかる。ちょうど同級生の男子生徒達と恋愛トークで盛り上がってるみたいだ。
『やっぱ
水瀬
だろ。あの黒髪ぱっつんをペロンてめくっておデコ見たい』
わかる。あの謎の魔力な。
有村和樹とは別の先輩が熱く水瀬さんとやらの事を語っている。それが誰かは分かんないけど、その気持ち分かるなぁ……前髪でおでこを隠す女子のでこはなんか夢があるよな。前髪にフッ、て息を吹き掛けて『ひゃあんっ』って言われたらもう。
『俺は三年の佐城先輩だな』
「ぶふっ……!?」
衝撃発言。
あのメスゴリラを好きになる先輩が居るだとっ……!んな馬鹿な!体重計にブチ切れて嘘つくなと大声で怒鳴り散らす女だぞ。それで機嫌悪くなって俺から晩飯のハンバーグふんだくった女だぞ!痩せるんじゃねぇのかよ!!
『舎弟になってムラムラしたっつって無理やり襲われたいんだよなー』
何だドMかよ納得したわ、あの姉には変態がお似合いだ。だが俺は認めない、義理の兄貴がドMだったら絶対に縁を切る。よく考えたらやべぇ性癖じゃねぇか!
んや今はどうでも良いんだよそんな事は……!次は有村先輩だ、周りがこんだけ暴露してるんだ、自分だけ答えないなんて事ぁねぇだろ。
残念ながら先輩が選ぶ女子は藍沢レナじゃない。彼女が腹に一物抱えて俺に接触した以上、恐らく誰かしらに良くない感情を抱いてんのは判ってる。だけど多分、俺は元々藍沢に会ったことも無かったからその対象じゃない。最も高い可能性として、元鞘である有村先輩がその対象の可能性が高いんだ。
俺の予想だと、有村先輩は他に好きな人ができてしまったんだ。だから先輩は藍沢に別れを切り出し、藍沢はそんな有村先輩を恨んだ。時々藍沢から感じる〝男なんてそんなもんだろ〟感はそれが原因だと思ってる。
さぁ吐け有村和樹。いったいどこの誰を好きになってしまったんだ。
『有村は?どうなんだよ、最近彼女に振られたんだろ?』
「…………は?」
はいはいストップストップ。いったんカメラ止めてー。はっはっは。あれー?
え、何?アンタ振られたん?藍沢にこっ酷く振られたのはアンタの方だったん?出鼻を挫かれるどころかへし折られたんですけど。
じゃあアレか?藍沢レナは佐城渉───この俺に一目惚れしたから有村先輩を振ってしまったってこと?え?いっちばん最初に潰した可能性なんですけど。だって俺だよ?顔面偏差値55の俺───ごめん盛った、42くらいだと思う。
じゃあ何か?もしかして有村先輩はまだ藍沢レナの事が───
『俺は………一年の夏川かな』
……………ほぁ?
◆
「………」
わ・か・ら・ぬ。
え、無理じゃね?よく考えたら俺ってどこにでも居るただの高校生だぞ?大抵そう言ったら只者じゃないんだけどガチもんのノーマルスペックだぞ。ちょっと考えたくらいで男と女のいざこざを解き明かせるわけねぇじゃん。
や、もういっその事このまま流れに身を任せて藍沢とイチャイチャしてようかな。まぁ藍沢は絶対何か抱えていて、俺の事は好きでも何でもないんだろうけどさ。
良いじゃん可愛いんだし。騙されても良いよ。騙されてあげるのが良い男ってもんでしょ。ね?全国の女子。
「……戻って来たと思ったらなーにしかめっ面で考え込んでんの?さじょっち」
「俺の身分について」
「平民は黙って勉強してな」
「おう、うるせぇぞスードラ」
「よぉし!その喧嘩買った!」
「やめなさい、アンタ達」
横を見ると席に着いてる夏川を芦田が後ろから抱き締めてる。どうやら夏川と芦田がイチャイチャしてるタイミングだったみたいだ。この状況だといつもは俺が夏川に対して何らかのアクションを起こしてたはずだから、黙って席に着いた俺を芦田が訝しんだんだろうな。
夏川の一声で俺は犬のように従い矛を収める。芦田はそんな俺を見て『はっ、マジさじょっち』と愚痴を零した。そうだよ、これが俺イズムだよ憶えとけ。
「あ分かった!さては前に訊いてきた藍沢さんの事気にしてるんでしょ」
「え?あ、おう……まぁうん、そうだな」
「………」
んにゃ待てよ?男と女の関係に関してならこの学校にもエキスパートが居るじゃないか!俺が一人で何もかも考えなくとも、芦田とかその辺のガーリィネットワークに接続してウィキったら答えなんて五秒で出てくんだろきっと。
「二人に質問がある」
「な、何よ急に……」
「藍沢と有む───」
「さーじょーおーくーん!!」
「ぬぁっ!?」
質問しようとした瞬間に背中にのしかかる重み。と、聴こえてくる甘みある声。それを藍沢と認識すると即座に背中に伝わる
柔
い感触を探す。……!? はッ、発見……!!!
こ、これは………そんなにおっきくないだなんて言って悪かった藍沢。ちゃんとCくらいあると思うよ!何が言いたいかというとですね……僕ぁ幸せです……。
「あ、藍沢さん!?」
「あ!もしかしてお話し中だったー?邪魔してごめんねぇー!」
「あ、いや別に大丈夫だけど、さじょっちだし」
平民にだって会話を遮られちゃいけないくらいの権利は存在するんですよ芦田さん!!おのれスードラ……平民に楯突くとは良い度胸じゃねぇか!でも女子達が怖いから許す!
「……藍沢どいて、柔っこい」
「うわ変態」
「死ねば?」
………天国かよ。
いやいやちょっと待て。藍沢と夏川に罵られてちょっと喜んじゃったのは何かの間違いだ。きっと佐城家に住み着いたメスゴリラの影響でちょっとドMになってるだけだと思う。全然ちょっとじゃねぇじゃん。
「まだ昼じゃないけど、どうしたんだ?」
「べっつにー?佐城くんとお話したいなって思って」
「そ、そうなの……?」
最近は少しずつだけど藍沢の俺に会いに来る頻度が減っていた。昨日だと昼に例の東屋で会ったくらいだ。それなのにこのタイミングで俺に会いに来るってのにはどんな狙いがあるんだ……?しかも今までに無かった身体的接触まで。てかこれって好感度95%ないと駄目なレベルのやつじゃない?
「じゃあさじゃあさっ!藍沢さんが元カレと別れた原因教えてよ!」
「っ……」
ねぇちょっと?お陰様で藍沢の顔直視できないんですけど?この空気どうしてくれるんですか?夏川も口あんぐりじゃねぇか相変わらずお美しい。思わず喉の奥覗き込みそうになったわ。ハハッ、俺キモッ。